Yahoo!ニュース

【コラム】イラク戦争もウクライナ危機の要因、停戦の妨げにも―問われる米国の姿勢

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ウクライナ東部イジューム近隣では村が徹底的に破壊され廃墟となっていた 筆者撮影

 今月24日でロシアによるウクライナ侵攻から1年。そして、この3月20日はイラク戦争の開戦から20年となる。筆者は、この二つの戦争を取材してきた。一見、別々のものに見える、これらの戦争は、実は深いところでつながっている。イラク戦争それ自体が重大な国連憲章に対する違反であり、国際人道法に反する戦争犯罪が繰り返されたものであったが、ロシアのウクライナ侵攻を止めさせるためにも、米国はイラク戦争に対する清算をしなくてはならない。

本コラムの主な内容

・イラク戦争とウクライナ侵攻の共通点

・イラク戦争で繰り返された戦争犯罪の数々

・イラク戦争はいかにして、ウクライナ侵攻へとつながったか

・日本の「平和主義者」の偽善と、求められる外交

〇イラク戦争とウクライナ侵攻の共通点

 米国によるイラク戦争とロシアによるウクライナ侵攻。この二つの戦争に共通するのは、国連安保理常任理事国による露骨な侵略戦争ということだ。国際連合(国連)は第二次世界大戦の悲惨な経験から、国際社会の平和と秩序を守るということを最大の目的として1945年に設立された。そして、国連の憲法とも言うべき、国連憲章は、侵略戦争を否定している。また、国連安全保障理事会(国連安保理)は、侵略戦争に対し「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる」(国連憲章第42条)との判断と実行を任されている。その国連安保理の常任理事国である、米国もロシアも、それぞれ、国連安保理での承認を得ないまま、一方的かつ先制攻撃として武力行使を強行してしまった。それが、イラク戦争及びウクライナ侵攻である。

開戦直後のバグダッド 筆者撮影
開戦直後のバグダッド 筆者撮影

ロシア軍の攻撃で破壊されたスーパーマーケット ウクライナ東部クラマトルスクにて筆者撮影
ロシア軍の攻撃で破壊されたスーパーマーケット ウクライナ東部クラマトルスクにて筆者撮影

 イラク戦争は、米国が主張する「イラクのフセイン政権が隠し持つ大量破壊兵器は、米国及び世界に対する脅威である」との主張から始められたものだ。だが、その主張の根拠は、当初から信頼性が疑問視され、国連の査察においても、イラクが毒ガスや核兵器等の大量破壊兵器を保有しているとの証拠は得られなかった。むしろ、米国の情報を元に、国連の査察が行われたものの、どれもハズレであり、米国の情報の信頼性にも疑念を持たれていた。そうした中で、当時の米国のブッシュ政権は、国連の査察の終了を待たずして、2003年3月20日、イラクへの攻撃を開始したのであった。なお、当時の安全保障理事会でロシアがイラク戦争に反対していたことは今となっては皮肉なことだ。

〇イラク戦争で繰り返された戦争犯罪の数々

 筆者はイラク戦争を現地で取材していたが、人口密集地でクラスター爆弾などの非人道兵器を多用し、令状もなくイラクの人々を拘束した上、収容施設で拷問を繰り返す、イラク西部の都市ファルージャなどで行われたように、都市を封鎖して、民間人を巻き添えにした無差別攻撃を行う等の戦争犯罪も、まるで国際人道法など存在しないかのように、繰り返し行われた。イラクを占領していた米軍の滅茶苦茶なやり方は、イラク各地で激しい反発を生み、反米武装勢力による、米軍への襲撃が相次いだ。元々、大義がない戦争であった上、米兵の死者数も4400人を超えた。

イラク西部ファルージャは米軍の激しい無差別攻撃にさらされた 筆者撮影
イラク西部ファルージャは米軍の激しい無差別攻撃にさらされた 筆者撮影

 治安状況も戦前に比べ悪化した。特に深刻なのは、イスラム教シーア派とスンニ派の対立だ。米軍の占領政策はざっくり言えば、「シーア派は味方、スンニ派は旧フセイン支持層で敵」というものだった。実際は、フセイン政権を支持しない者は宗派や民族に関係なく、皆、弾圧されたのであるが、米軍はシーア派民兵組織を新生イラク軍に編入し、その新生イラク軍を伴って、スンニ派の多いイラク中部や西部に攻め込み、市民を巻き込んだ掃討作戦を行った。また、シーア派中心の治安部隊は「スンニ派狩り」を始め、人々はスンニ派だというだけで、凄まじい拷問の挙句、殺された。フセイン政権後のイラク政府も、特にマリキ政権は、スンニ派地域での弾圧や掃討作戦を繰り返した。他方で、イラク戦争をきっかけに国外からの過激なイスラム原理主義者も流入、そうした原理主義者によるテロ組織は、米軍のみならず、シーア派も敵と見なし、同派の宗教施設などを爆破するなどの暴挙を繰り返した。こうした過激派の中から組織されたのが、IS(いわゆる「イスラム国」)である。ISはその後の有志連合とイラク軍の掃討作戦により、実効支配していたイラク北部の都市モスルから敗走するものの、現在もその残党がイラク各地で、テロを行っている。

〇イラク戦争はいかにして、ウクライナ侵攻へとつながったか

この記事は有料です。
志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポのバックナンバーをお申し込みください。

志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポのバックナンバー 2023年2月

税込440(記事1本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

志葉玲の最近の記事