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ノルウェー市民が称える被爆者の教育への決断と「何かをする力」、日本被団協のノーベル平和賞受賞

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ市民に語り掛けるヨルゲン ・ヴァトネ・フリドネス委員長 筆者撮影

日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が発表された現地ノルウェーでは、翌日に市民を招いて受賞のお祝いがされた。

ノルウェー・ノーベル委員会とは「家族」のような関係のノーベル平和センターは、歴代の受賞者に関する展示を行う人気の観光名所でもある。

折り鶴の意味を知る人はノルウェーでは少ない。これから同館は平和教育の一環として、このシンボルの意味も伝えていくそうだ 筆者撮影
折り鶴の意味を知る人はノルウェーでは少ない。これから同館は平和教育の一環として、このシンボルの意味も伝えていくそうだ 筆者撮影

ノーベル平和センターといえど、事前に受賞者の名前が知らされることはない。

私たちと同じタイミングで受賞者の名前を知り、スタッフたちは総出で準備に走る。

12月の授賞式の期間だけではない。翌年の受賞者が発表されるまで、約1年間、同館は新たな受賞者の平和活動を、ノルウェー市民や国際社会に「教育」して「広める」役割を担う。

受賞発表翌日には、「日本被団協のことを知ろう」という市民イベントが開催された。ノーベル委員会のヨルゲン ・ヴァトネ・フリドネス委員長という特別ゲストが、オスロ市民に直接この賞について語り掛ける場でもある。

平和賞を授与されたら、莫大な注目と影響力を得る

委員長の言葉を直接聞く機会にも恵まれるオスロ市民。ノルウェーの人の平和や民主主義の意識が高くなる要素のひとつともいえる 筆者撮影
委員長の言葉を直接聞く機会にも恵まれるオスロ市民。ノルウェーの人の平和や民主主義の意識が高くなる要素のひとつともいえる 筆者撮影

受賞者の発表日は、委員長にとって最も忙しい一日のひとつであることは間違いない。一夜明けて、リラックスした笑顔を見せた。

昨夜は遅くまで多くの取材が続き、日本のテレビ局とも素晴らしいインタビューを行いました。ノーベル平和賞のメッセージが世界中に発信されたという意味では、良い一日だったと思います。 メディアがどれほど関心を寄せているかお分かりでしょう。良い兆候です。

次世代教育がこれからのカギとなる

「史上最年少の委員長」として注目される1984年生まれの彼は、「教育」が核兵器の恐ろしさを考えるきっかけだったと述べ、規範を確立し、情報を共有し、次世代を教育することの重要性を強調した。

「新聞を読めばわかることですが、現在進行中の戦争で『核兵器を使用する』という脅迫がごく定期的に行われています」と、「核のタブー」が弱まっていることに警報を鳴らし、「だからこそ、私たちは今年、核兵器に焦点を当てたいと考えているのです」と話した。

抽象画のように想像しがたいものを、被爆者の方々は理解する手助けをしてくれる

被団協事務局次長の和田征子さんもオンラインで参加した 筆者撮影
被団協事務局次長の和田征子さんもオンラインで参加した 筆者撮影

しかし、恐ろしさを体験しなかった世代にとって、核の話は「抽象的」で想像がしにくく、理解しがたい。その学びの過程を「道案内」してきてくれたのが、日本社会と被爆者の方々だと語った。

多くの人々にとって想像するのは難しいことです。被爆者の方々は、それを理解できるようにしてくれたか、少なくとも考えられないことのいくつかを把握できるようにしてくれました。

「教育する」選択肢をしてくれた被爆者の方々と日本社会

私たちを「教育する」という選択肢をしてくれた被爆者の方々の決断と勇気を、委員長は称えた。

何かをすることもできるし、何かをしないこともできる。

被爆者の方々は、選択し、多くがかなり高齢であるにもかかわらず、今日まで証言を続け、核のタブーを守ってきました。

だからこそ、私たちは日本の新しい世代が、強い反省の文化と継続的なコミットメントを持ち、その意思を継承していることに感銘を受けたのです。

その姿は世界中の人々を鼓舞し、教育しています。核の脅威は人類全体に対する脅威であり、核兵器の使用に反対する強力な規範、国際規範が必要なのです。

イベントでは専門家を招いての議論も行われた。

筆者撮影
筆者撮影

ICANノルウェー顧問であるトゥーヴァ・ヴィショルさんは、「平和賞がすでに発表直後から言説空間を変えている」と指摘した。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は2017年の受賞者でもある。

『新兵器の結果について話すことはナイーブ』という時代は終わった

筆者撮影
筆者撮影

核兵器の人道的影響を語ることは『ナイーブ』だと思われてきました。

でも、被団協の受賞決定直後、ノルウェーの政治家は、メディアに自らの核兵器政治について回答せざるを得なかった。私たちは指導者たちに説明責任を問うことができるようになった。

平和賞は言説を変えました。『新兵器の結果について話すことはナイーブ』から、『世界の安全を守るために必要なもの』へと

執筆後記

受賞者の発表当日のスピーチやこの日の言葉を聞いていると、委員長の口からは「educate oneself」(教育する)という言葉の多さに改めて気が付く。

今、TikTokを使うZ世代の間でよく使用される言葉だ。世の流れを自分で知ろうとし、自分を教育する。日本のメディアでは「啓蒙する」という翻訳が多いようだが、委員長の言葉は今のSNS時代の「教育する」に近いだろう。

被爆者や支援してきた人々は、核の恐ろしさを「教育する」先端的な存在だったといえる。その恐ろしさを、次の世代やグローバルコミュニティに、折り鶴や証言など、さまざまな手法で次世代に伝え、教育し、引き継いできた。

教育運動世代に生きる、若き委員長だから、改めてその意義を再評価したのかもしれない。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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