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なぜ常磐緩行線は西日暮里を経由すると「初乗り二重取り」になるのか? 複々線化の経緯に由来

小林拓矢フリーライター
常磐緩行線を走るE233系(写真:イメージマート)

「亀有・金町だけ不当に高い運賃を強いられている」――こうした訴えを掲げ 、地元の住民たちがJR東日本と東京メトロ、国に対して裁判を起こしている。

 なぜ、こんなことが起こったのかというと、JR東日本が運行する常磐線の亀有・金町の両駅を利用している人は、ふつうは東京メトロに乗り入れたあとの西日暮里で乗り換え、JRを利用する。その際に、初乗り運賃を再度取られるということになる。

 それならば、北千住で乗り換えればいいではないかという声もある。ほんとうは、綾瀬からはすでに東京メトロの路線となっているのだが、北千住で乗り換えると、並行するJR東日本の緩行線(かんこうせん)から、常磐快速線で乗り換えて、初乗りは一回だけで各方面に向かえることになる。

東京メトロの北千住駅は地下にある
東京メトロの北千住駅は地下にある写真:イメージマート

 だが、北千住では東京メトロ千代田線の駅は地下2階にあり、2階のJR東日本ホームに行くのはひと苦労だ。エレベーターを使う場合には、いったん改札の外に出なくてはならない。

 筆者もここでの乗り換えの経験があるが、何フロアも階段を上り下りしなければならず、大変だった記憶がある。

 地元の人は、「大変だけど運賃の安い北千住乗り換え」か、「楽だけど運賃の高い西日暮里乗り換え」かの、どちらかの選択を強いられることになる。地元の人としてみれば、「いろいろあるのはわかるけど、なんぼなんでもおかしくない?」ということである。

 1971年4月から続く運賃計算ルールが、事業者の都合でしかなくないか、ということである。

 なんでこんなことになってしまったのか?

常磐線の複々線化と地下鉄乗り入れを一体化した

 常磐線は、もともと現在の緩行線にあたる各駅停車の列車と、取手以北に向かう列車が同じ線路を走っていた。通勤に使う列車と同じ線路を、特急「はつかり」などが走っていた。

 常磐線の通勤客は、戦後どんどん増え続けていった。それゆえに、混雑が慢性化していった。

 そのころ、当時の国鉄のそれ以外の地域でも似たような問題が発生していた。緩行線と急行線を分離していた東海道本線方面はともかく(それでも東海道本線と横須賀線が線路を共有しているという問題があった)、中野までしか複々線がない中央本線、そもそも各駅停車と中距離電車以上が一緒の線路を走っていた東北本線・高崎線、房総各方面からやってくる人を千葉で受けて通勤電車が中央緩行線に乗り入れる総武本線と、混雑率300%を超える路線が社会問題となっていた。

 またいっぽうで、路面電車が中心となっていた都心部の交通問題も解決しなくてはならなかった。道路は路面電車だけではなく、自動車も増えていき、混雑が慢性化していた。

 そのために、都市交通を充実させようとした。国鉄は「通勤五方面作戦」を立案し、また地下鉄網を営団地下鉄と都営地下鉄で充実させ、路面電車と置き換えていこうとした。

 この2つが組み合わさったのが、常磐緩行線の千代田線乗り入れである。

 千代田線は、1962年の運輸省の都市交通審議会答申第6号で、「喜多見方面より松戸方面に至る路線」として答申されたのち、営団地下鉄が1964年4月に綾瀬~代々木上原間の路線として建設することを決めた。

 ここで、国鉄はこの路線を綾瀬から取手まで延長し、千代田線と直通運転することにした。営団地下鉄は、車庫を足立区内に建設したいと考えており、北千住から綾瀬までは営団の路線となった。

綾瀬付近を走る東京メトロ千代田線の車両
綾瀬付近を走る東京メトロ千代田線の車両写真:イメージマート

 1971年4月に複々線が完成、緩行線の千代田線乗り入れが行われるようになった。その後、綾瀬の北側にできた車庫への線路を利用して綾瀬~北綾瀬間の電車が運行されるようになる。もし北千住から綾瀬の間が国鉄だったら、こういったことは不可能だっただろう。

 その際、緩行線から上野方面に行く人は、不便になるということが問題になった。基本的には、西日暮里を使ってほしいということになった。また、綾瀬以北の緩行線利用者は、北千住でも乗り換えできるようにして運賃計算上の特例を設けることにした。

 その際に、西日暮里を利用する人のためにも特例が設けられた。どんなものか?

「通過連絡運輸」という特例

 国鉄、のちのJRで移動する場合、どうしても間でほかの路線を利用しなければならない場合がある。その場合に「通過連絡運輸」という制度を設けている。紙のきっぷの場合は、前後のJRの営業キロを合算して運賃を出し、それに東京メトロの運賃を合計することできっぷを発券する。

 交通系ICカードの場合には、前後のJRの運賃を合算したものから100円引いたものに、東京メトロの運賃を足すという計算をしている。

『朝日新聞デジタル』10月19日の記事によると、亀有から上野までは北千住乗り換えで220円、西日暮里乗り換えで361円となるとのことだ(交通系ICカード使用)。この額のちがいについて、裁判を起こした原告は、「特定の旅客への不当な差別的取り扱いを禁じた鉄道事業法に違反する」としている。なお、紙のきっぷだとこの区間は340円である。

 この裁判では、賠償額は2万6,980円、訴えた裁判所は東京簡易裁判所というものである。おそらく、問題提起のための裁判であろう。

 東京メトロの綾瀬~西日暮里間の運賃は交通系ICカードで通常199円のところ、168円となっている。

 また、常磐緩行線利用、西日暮里経由で間に東京メトロをはさむような場合は、JRの運賃から引く額をもっと大きくするという解決方法しかないと考えられる。とくに交通系ICカード利用の場合。

 綾瀬から西日暮里までは常磐線複々線化の経緯から東京メトロになるということはしょうがないとして、交通系ICカード利用の場合は、合算額からのマイナスを交通系ICカードの東京圏初乗り額136円以上にするということで解決するしかない問題だと考えられる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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