もと小虎たちが挑んだ社会人野球日本選手権〈その1〉藤井宏政選手の巻
10月30日から京セラドーム大阪で『第41回 社会人野球日本選手権大会』が始まりました。3月から11ヶ所で行われていた“日本選手権対象”のJABA大会優勝チーム、各地区の最終予選を勝ち抜いたチーム、そして都市対抗野球大会を制した日本生命、全日本クラブ野球選手権大会チャンピオンの和歌山箕島球友会を合わせ、全部で32チームが出場。夏の都市対抗とは違い、単独チームでの日本一をかけた“年間王座決定戦”と言えます。
もと阪神タイガースの野原将志選手は三菱重工長崎、藤井宏政選手は滋賀県の企業チーム・カナフレックス、穴田真規選手はクラブチームの和歌山箕島球友会と、社会人野球に活躍の場を移したのは昨年。ことしは阪口哲也選手もパナソニックに入社しました。この4人が揃って本大会に出てくれたら…と願っていた夢が、早くも実現したのです!そこまでの経緯など、詳しくはこちらをご覧ください。
<小虎ファン必見!この秋、もと阪神の選手たちが京セラドームに集結>
創部2年目で、もちろん初出場のカナフレックスがなんと大会初日の開幕試合に、それも昨年の都市対抗優勝チーム・西濃運輸と対戦。また同じく初日の第3試合で三菱重工長崎は、ことし都市対抗で準優勝の大阪ガスとの顔合わせ。和歌山箕島球友会は大会2日目の第3試合で、相手はNTT東日本。残念ながら以上の3チームは初戦で敗退してしまいました。パナソニックは大会4日目、11月2日の第3試合でホンダ(埼玉)と戦います。
きょうは、初日の一番手で登場したカナフレックスの試合結果をご紹介します。西濃運輸とは10月1日にオープン戦(練習試合)をしており、結果は11対3の完敗でした。おまけに、本大会初戦は昨年の都市対抗で橋戸賞を受賞した佐伯尚治投手が先発とわかっていますから、苦戦は覚悟の上だったとか。そう思うと、この結果は大健闘と言えるのではないでしょうか。
《第41回 社会人野球日本選手権大会》
10月30日 1回戦 (京セラドーム)
カナフレックス-西濃運輸
西濃 001 020 000 = 3
カナ 000 100 000 = 1
◆バッテリー
【カナ】●大西(9回) / 田中-福田(8回~)
【西濃】○佐伯(9回) / 森
◆二塁打 中村2、坂本(西濃)
◆スターティングメンバ―
【西濃運輸】 【カナフレックス】
1]遊:東名 1]中:飯田
2]二:中村 2]二:山内
3]右:谷 3]指:深瀬
4]三:伊藤 4]一:北條
5]指:阪本 5]遊:藤井
6]左:黒水 6]三:稲森
7]中:藤中 7]左:福井
8]一:長棟 8]捕:田中
9]捕:森 9]右:年綱
試合経過
大西は1回、先頭の東名に初球を中前打され、犠打と暴投で三塁1死三塁とするも無失点。2回も先頭に右翼フェンス直撃の二塁打を浴び、やはり犠打で三塁へ進めますが得点は与えません。しかし3回、また東名に中前打され、続く中村に右翼線へタイムリー二塁打。バックホームが惜しくも届かず先取点を与えました。なおも1死二塁で後続を断ち、4回は5番からを三者凡退!
一方、打線はいい当たりの打球があったものの、西濃運輸・佐伯に3回までパーフェクトピッチングを許します。しかし4回、1死から山内がレフトのエラー(落球)で出て二塁まで進み、続く深瀬のショート内野安打で一、三塁。と思ったら、ショートが悪送球!山内は一気に生還して追いつきました!深瀬も二塁へ進み、チャンスは続いたのですが…北條は中飛、藤井も右飛で同点止まりです。
すると5回、先頭の長棟をショート藤井の送球エラーで出し犠打で二塁へ、大西は東名にショート内野安打を許して(走者はそのままで1死一、二塁)、続く中村に勝ち越しのタイムリー二塁打を浴びます。さらに1死二、三塁から谷の中犠飛。これで3対1となりました。その後、大西は6回に1安打されますが自身の牽制など3人で片づけ、7回は1四球のみ。8回は三者凡退、9回は2死から内野安打を許しただけで追加点を与えていません。
打線は5回が稲森の死球、6回は深瀬が中前打、7回は稲森の中前打と1人ずつ走者を出すもチャンスを広げられず。8回に先頭の年綱が右前打して、飯田の犠打でピッチャー佐伯が送球エラー。無死一、二塁となります。ところが山内はバント失敗の三振、深瀬も空振り三振、北條が快音を響かせた打球は中飛で得点なし。9回は藤井が初球を打って、これもいい当たりでしたが右飛。2死後に福井のショート内野安打で沸いたものの、反撃はそこまで。3対1で敗れました。
自分が出塁できたら…と悔やむ藤井選手
藤井宏政選手(25)は、2回にカウント2-2から空振り三振、4回は2死二塁で中飛、7回が先頭で遊ゴロ、9回も先頭で右飛という結果。初出場での開幕試合は緊張した?と聞いたら「いや、そんなに緊張はしなかったですよ」という答えでした。京セラドームは初めてじゃないでしょう?「はい、オープン戦でやっていますね」。2年続けて1軍のオープン戦に呼ばれた藤井選手ですが「最初の年はヤフードームに行って、次の年はここでやりました」と言います。
こんな応援の中で試合するのって、あまりないのでは?「いや、阪神のオープン戦の方が緊張しました」。なるほど、たとえオープン戦でもファームの試合とは全然違いますか。「それもあるけど、試合に途中から出る方がイヤです」。先発出場の方が気は楽なんですね。それと阪神1軍の応援を経験していたら、何も怖くないってことで。
それにしても、さすが橋戸賞投手。なかなか打たせてもらえなかったですね。「術中にはまってしまいました。打ちにくくはなかったんですよ。だからもったいなかった」と悔しそうでした。9回のライトフライも客席が沸いたけど、いい当たりがほとんど野手の正面に飛んでしまった印象です。「それが持ち味なんやろなって思います」と冷静なコメント。
とはいえ、大西投手も完投して8安打されながら3失点(自責1)は好投だし、3対1という結果も善戦と言えますね。「でも、僕がこのへんで出ていたら…」と、私のスコアブックで7回と9回のあたりを指差します。確かに、7回の第3打席は先頭で初球を打って遊ゴロ。9回も先頭で初球を打って右飛。当たりがよかったことは関係なく、先頭で出塁できたらもしかして、という後悔でしょう。
日本選手権が終わるともう公式戦はなく、社会人野球もシーズンオフに入ります。本大会での白星を次の目標に、来年へ向かっていくわけですが、そんな話をしていると藤井選手は「都市対抗、いきたいっすね!」と言ってニッコリと笑いました。ことしは野原選手だけだったけど、来年は東京ドームで4人揃ってほしいなあ。都市対抗は開会式があるから、まさに勢揃いですよ。
河埜監督「来年に生かしてほしい」
続いて河埜敏幸監督(60)。「クリーンアップに、ここ数試合ヒットがないんですよ。企業チームとの練習試合と、きょうの試合を入れて9戦全敗。力の差を感じますね。やっぱりピッチャーがいいですよ。タイミングをうまく外したり、そういうのが勉強になってくれれば。あとはバッター。藤井なんか、もっとドシッとしてくれたらね。何とかせなアカンという気持ちが強すぎて。北條もそう。責任感で固まってしまう」。主将の北條選手と、副主将の藤井選手の名前が出ました。
「大西はゲームを作ってくれた。オープン戦(練習試合)で対戦した時は11対3の大敗だったので、コールド負けするんじゃないかと思ったけど。バッテリーは攻めのピッチングができていましたね。守備では藤井のエラーから2失点だからね。基本の大切さをわかってくれたかな。藤井もこわごわやってるからねえ。のびのびやってほしい」と、これまた藤井選手の名前が…。やっぱり硬かったですか?
「藤井だけじゃなくて、みんな動きが硬かったねえ。ドームでの試合も、こんなに応援があるのも初めてだし。でも見た目より声は出ていた。ベンチも今まで以上に大きな声を出していたし。いい勉強になったんじゃないかな。来年に生かしてほしい。いや、生かしてくれないと!」。まだ専用グラウンドのないカナフレックスですが、昨年11月に就任した河埜監督の尽力もあり練習時間や場所は改善されたとか。それに本大会出場が決まってからは企業チームとの練習試合も一気に増えました。これが第一歩、ここからですね。
必死で無我夢中!と深瀬選手
深瀬幹太選手(23)は打点こそありませんが、4回1死二塁で放った内野安打が相手エラーを誘って同点になりました。しかも唯一のマルチヒットで「日ごろ打てていなかったので、よかった~」と声をはずませます。貴重な1点となって「すごく嬉しいですね!もう必死でした。無我夢中」と笑っていました。もう1本出て「よかったです」とニッコリ。そして「応援がありがたかった」と言います。
実は「1打席目の空振りで緊張が解けた」とのこと。でも1打席目はストライク、ボール、ストライク、ファウルで5球目を打って右飛だったので、4球目のファウルのことでしょうかね。「80キロくらいのカーブでした」。いやいや、そんなに遅い球はなかったですよ。「あはは、あんまり見えてなかったんで(笑)。とりあえず振って楽になった」。そりゃ緊張しますよね。
そういえば河埜監督も「最初の打席で思いきり空振りしている選手が何人かいたでしょう?あれはわざとなんですよ。緊張をほぐすために」と話していました。深瀬選手の2安打は、まさにその効果ですね。ただ負けたのは「僕の、あの三振です」と、2死一、二塁で空振り三振に倒れた8回の打席を悔やみます。3対1の試合結果は「自信になりますけど、勝たないと!」。大健闘と言われても、だからこそ勝ちたかったというのが本音のはずです。
深瀬選手は福知山成美高校出身で、阪神・島本投手の1つ先輩。いつも「島本、元気ですか?頑張ってますか?」と聞かれます。島本投手も大好きな先輩だったようで、よく連絡を取っているとのこと。ことしは日程の都合で流れましたが、来年は阪神との交流試合があるといいいですね。でも“深瀬先輩”としては、そこで島本投手と対戦するより1軍で活躍していてほしいかも。「来年は先発しますかね?先発の方がいいですよ」と何だか嬉しそうでした。
大西投手の1球がカナフレックスの始まり
締めは、河埜監督が「攻めのピッチングでゲームを作ってくれた」と高く評価した大西健太投手(24)。「今まで社会人相手に自信をなくしている部分もあったんです。でも自信を持っていかないと勝てない。きょうは胸を借りるつもりで投げて、その結果がこの内容につながったかも。緊張するかと思ったけど、意外とすんなりいけました。京セラドームは初めてです。投げやすいですね!」
8安打のうち左打者に7安打(東名3、中村2、阪本2)された点について「特に左が苦手というのはないんですけど。1、2番は警戒しましたが、自分の甘い部分を打たれているのはスコアに表れていますね」と反省。立ち上がりでいきなり打たれ、動揺はあったかと聞かれた大西投手。「ストライクを取りにいってもいいという判断で打たれたので、そんなに気にはならなかった。逆に初球を打たれて、気持ち的に割り切れた」そうです。
3失点完投の結果は「ちょっと出来すぎなところもあるけど、もう少し勝負所を詰めていければと思いますね。5点くらい取られるかもという気持ちがあったので、うまくいけたかも」と、ホッとしたような笑顔。初出場だった今大会、善戦及ばず初戦敗退となりましたが、大西投手はこんなふうに話しています。
「自分の1球が、すべてにおいてカナフレックスの始まりになったかもしれないと思うと…そういうところで名前を刻めたのは、すごく嬉しいです」
応援に感謝!恩返しは来年の飛躍
なお初出場のカナフレックスですが、本当に多くの方が来てくださっていて感激しました。立命館大学応援団吹奏楽部の生演奏と、チームがある東近江市の滋賀学園高校がチアリーディング、大阪商業大学と大阪産業大学の学生さんたちも席を埋めてくれたのです。中でも大商大は翌31日に『関西地区大学選手権大会』の試合があるという状況で来てくれたとか。ちなみに31日の1回戦で完封勝ちしたものの、1日の2回戦で負けてしまいました。明治神宮大会を目指して、第2代表決定戦へ回っています。
また滋賀学園も秋季近畿大会の真っ最中で、翌31日は準決勝。この日のお返しにカナフレックスの選手たちも皇子山球場へ応援に行ったそうですよ。その甲斐あって龍谷大平安に7回コールド勝ち!初の決勝進出を果たしています。ただし1日の決勝で大阪桐蔭に惜敗。明治神宮大会出場は逃しましたが、来年のセンバツ高校野球に出たら藤井選手らも応援に行くでしょうね、きっと。
どれくらい客席が埋まるか予想もできなかったというカナフレックス。藤井選手いわく「大会前にチラシを持って配りにいったんですよ。地元のスーパーとか回って」とのことで、その効果は絶大!社員や仕事関係の方だけでなく、滋賀から応援に来てくださった方も多かったみたいですよ。えんじ色のスティックバルーンがスタンドいっぱいに揺れていました。来年はまた新しい戦力がかなり増えるそうです。これからのカナフレックスに、ぜひご注目ください!
懐かしい人にも会える大会
最後に、この日は試合を見に来られたパナソニックの奥代監督にお会いして「きょうは練習を休みにしたんですよ。だからうちの選手も来るんじゃないですかね」とおっしゃっていました。その通り、阪口哲也選手がパナソニックのチームメイトと一緒に観戦に来たんです。同い年の3人だとかで、なぜかライトポール近くの離れた席で見ていました。第1試合を見て、第3試合(三菱重工長崎)も見ると言いながら、用事が出来たのか途中で引き揚げたようです。
また打1試合が終わって、第2試合のチームと両方でごった返すベンチ裏で藤井選手が「あ、前田さん」と。振り向いたら、もと阪神の前田忠節さんがこっちを見ています。昨年からセガサミーのコーチをしているんですよね。挨拶にいくと「おっ!藤井!」と驚いた様子。え、それで見ていたんじゃないんですか?「知らんかった」…あらまあ。第2試合がセガサミーで、ベンチも同じ一塁側だとわかっていたものの、忙しくて会えないと思っていました。なので大急ぎで写真だけ撮った次第です。
セガサミーは昨年のこの大会で決勝に進み、トヨタ自動車に敗れたんですよね。ことしも30日の初戦で初出場のフェデックスを下し、2回戦に進んでいます。それから31日の第2試合では町田公二郎監督率いる三菱重工広島も順当に勝ち進みました。あす3日は若竹竜士投手がいる三菱重工神戸・高砂が登場します。とりあえず、きょうのパナソニックに勝ってもらわないと。哲ちゃん、頑張れ!
※なお、このあとの試合で登場した3選手の記事は、こちらからでもご覧いただけます。