もと小虎たちが挑んだ社会人野球日本選手権〈その4〉阪口哲也選手の巻
阪神タイガースを退団し、昨年から社会人チームに入った野原将志選手(27)は三菱重工長崎、藤井宏政選手(25)はカナフレックス、穴田真規選手(22)はクラブチーム・和歌山箕島球友会でプレーをしています。そして阪口哲也選手(22)は、ことしパナソニックに入りました。この4選手が、10月30日から京セラドーム大阪で行われている『第41回 社会人野球日本選手権』に揃って出場。これはもう “小虎ファン” にとって夢のような出来事です。
これまた揃って初戦敗退というのは寂しい限りですけど、創部2年目で初出場とか、4大会ぶりとか、企業チームの中で2チームしか出ていないクラブチームであるとか、そういうことを含めても、本大会で1つ勝つことがどれだけ大変かと改めて感じました。でもきっと来年、リベンジに戻ってきてくれるでしょう。そんな3選手の試合結果を、まだご覧になっていない方はこちらからどうぞ。
その点、パナソニックは日本選手権に21大会連続36回目の出場。もちろん阪口選手は初めてで、しかもことしは都市対抗を逃したので全国大会自体が初体験です。まあ先輩方が慣れているので舞い上がることもないし、京セラドームも都市対抗の予選で経験済み。あとは4人の最後を飾って、2回戦へ勝ち進んでくれればと軽い気持ちで観に行きました。しかし結果は…
ドラフト指名投手の投げ合い
10月31日の大阪ガスは金曜の夜で、もろ地元のチームとあってスタンドはギッシリ。加えて三菱重工長崎の応援団もかなりの数でしたね。11月2日のパナソニックも、祝日前夜ということで驚くほどのお客様!ライトスタンドの一部にも団体客(学生さん?)が入ったほどです。阪口選手のご両親とおばあちゃん、そして小さい頃から哲也少年をよくご存じの、ヤクルト・川端慎吾選手のお父さんも観戦されていました。
選手家族席と区切られたブロックも時間を追うごとに埋まっていき、仕事を終えた社員の方々も来られて、おかげでパナソニック側の内野席にスペースがなくホンダ側にお邪魔しました。阪口選手が左打席なのでちょうどよかったとはいえ、アップの写真がまったくありません…。
この試合では先月22日のドラフト会議で指名された選手が両チーム合わせて5人います。パナソニックの近藤大亮投手(24)はオリックス2位、足立祐一捕手(26)は楽天6位、そしてホンダの石橋良太投手(24)は楽天5位、仲尾次オスカル投手(24)は広島6位、阿部寿樹選手(25)は中日5位で、全員が出場。お客様だけでなく、取材陣も相当な数でしたね。
試合は、近藤投手がホームランで先に1点を失いながら好投を続けますが、石橋投手を攻略できないまま終盤へ。ようやく8回に追いついて、さあ!と思ったら、その裏に1点取られて敗戦。負けたパナソニックが6安打、勝ったホンダは5安打という内容です。
《第41回 社会人野球日本選手権大会》
11月2日 第3試合 1回戦 (京セラ)
パナソニック-ホンダ
パ ナ 000 000 010 = 1
ホンダ 010 000 01X = 2
◆バッテリー
【パナ】近藤(7回)-●北出(2/3回)-田中篤(0/3回)-藤井聖(1/3回) / 三上
【ホンダ】石橋(7回2/3)-○オスカル(1回1/3) / 山崎
◆本塁打 多幡ソロ(ホンダ)
◆三塁打 柳田(パナ)
◆二塁打 足立(パナ)
◆スターティングメンバ―
【パナソニック】【ホンダ】
1]中:福原 1]右:井上
2]三:柳田 2]中:小手川
3]指:足立 3]遊:阿部
4]右:田中宗 4]三:多幡
5]一:丸木 5]一:川戸
6]左:松元 6]左:三浦
7]捕:三上 7]指:長島
8]二:阪口 8]二:西銘
9]遊:横田 9]捕:山崎
〈試合経過〉
先取点はホンダでした。1回を三者凡退で立ち上がったパナソニックの近藤は2回、先頭の4番・多幡に左中間へホームランを打たれます。その後は3回と6回、9番・山崎に単打を許したのですが、どちらも三上が盗塁阻止!それ以外は6回までしっかり抑えました。7回は先頭の小手川に中前打され、犠打で二塁へ進めたものの後続を断って7回4安打1失点です。
一方、ホンダ・石橋の前に7回まで3安打無得点のパナソニック打線。1回は2死から足立が右前打しただけ。先制された直後の3回は阪口が三ゴロに倒れたあと、横田の四球と福原の右前打で1死一、二塁としますが0点。3回と4回は三者凡退です。6回は2死から足立の二塁打と田中宗の四球で一、二塁になり、ここで代打・大江が出るも三直。7回はまた三者凡退。2死から出た阪口は、ヘッドスライディングも及ばず遊ゴロでした。
8回も続投の石橋に対して、まず横田が左前打を放ち犠打で二塁へ。続く柳田が左翼線にタイムリー三塁打!ようやく同点に追いつき、次はここまで2安打の足立でしたが残念ながら二飛に倒れます。2死三塁でピッチャーはオスカルに交代。田中宗が投ゴロに打ち取られ、勝ち越しはなりませんでした。それでも、重苦しかったベンチやスタンドは一気に盛り上がります。
ところが…その裏に登板した北出が1死を取ったあと長島に四球を与え、西銘の中前打で一、三塁。続いて既に2安打している山崎が、なんと1球ボールのあとでセーフティスクイズ!ピッチャーが捕り、ベースカバーの阪口に送って打者はアウトとするも、二塁から勝ち越しの走者が生還。次に四球を与えて北出は降板。代わった田中篤は暴投で走者2人を進め、代打・吉岡に四球。2死満塁で登板した4人目の藤井聖が阿部を遊ゴロに斬って取り、何とか1点に抑えました。
9回表の攻撃は、1死から松元が中前打してボークで二塁へ進みます。三上は遊ゴロで2死三塁となり、阪口の打順でしたが代打・藤井健。フルカウントとなって6球目の真っすぐをレフトへ!快音を響かせた打球もレフトがしっかりキャッチして試合終了。いったん追いつきながら、その直後の1点に泣いたパナソニックです。
「あっちゅう間だった」社会人1年目
試合を終えた阪口哲也選手は「何もできんかった」のひとこと。ホンダ・石橋投手について聞くと「コントロールよかったです。ちょっと動いてますね。5回(レフトフライ)は、初球ファウル打たされて追い込まれて。カットボール中心ですけど、ドーンとくる真っすぐがありました」という感想。打てなかった悔しさと、申し訳なさとが入り混じった感じでした。
守備は打球が「そんなに飛んで来なかったから」と言います。確かに、フライが2つとゴロが1つだけ。同点に追いついた直後の8回裏、あのセーフティスクイズで捕球した時の「ああ~」って顔が印象に残りましたよ。「あれはもう作戦なんで仕方ないです」と阪口選手。相手の作戦にやられて、これがまた決勝点になっただけに悔しかったでしょうね。
それもそのはず、日本選手権で社会人チームはシーズンを終えるわけで「近藤さん、メッチャよかったんで何とかしたかったです。一緒に試合するのは最後なんで。足立さんも」と言っていました。7回のヘッドスライディングは、何とかしたい気持ちの表れだったかもしれません。
社会人の世界に移って初めてのシーズン、どうだった?「あっちゅう間でした」。そう言って少しだけ哲ちゃんスマイル。また、大会初日のカナフレックスの試合を一緒に見に来た同級生と写真に写ってくれています。
その藤井健選手(23)は、相手が左のオスカル投手に代わっていたこともあり、9回2死三塁の場面は阪口選手の代打で出場。結果はレフトフライで「哲に申し訳ない!悔しい。当たりはよかったんですけど」と。阪口選手に「なんで俺にやねん」と突っ込まれても「いや、ほんま哲に申し訳なかった」と繰り返しました。来年、ぜひ2人で借りを返して下さい。
出番はなかった花岡竜也投手(23)は「来年がんばります!来年は僕メインでお願いします。あ、その前に肉体改造せなあかん」と、全部ひとりで話しながらバスに荷物を運んでいました。改造するって、どこを?「心身ともにです」…肉体改造だけど、肉体だけじゃないわけですね。頑張って!
勝ってプロに送り出したかった
最後は柳田一喜選手(28)に締めて頂きましょう。一度もお話させていただいたことはなかったのですが、思い切って帰り際を直撃。8回のタイムリー三塁打、あれで一気にムードが変わったと思います。ナイスバッティングでした!「ありがとうございます」。何が何でも還すぞって気合いですね?「はい、何とかしたかったので」。それまでにチャンスを作れなかった石橋投手には「いいピッチャーですわ」と柳田選手。
1点差、本当に悔しい敗戦でした。「逆転したかった!でも勝負なんで仕方ないですね。誰が悪いわけでもない。もう少し早く出ていればとは思いますが、でも全員で戦った結果なので」。そして柳田選手もやはり「近藤がいいピッチングしていたんで、何とかしたかったんですけど。近藤も足立も、いい終わり方でプロに送り出してやりたかったですね。それが残念です」という言葉でした。
プロの世界から社会人へ働き場所を移した選手もいれば、そこからプロへと羽ばたいていく選手がいます。また、これを最後に現役引退という選手も。この時期に行われる社会人野球日本選手権大会は、1つの区切りなんでしょう。