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同性婚の権利めぐり日米で「歴史的な日」も、両国政府の差を象徴

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

米議会上院は11月29日、同性婚の権利を連邦法によって保障する法案を可決した。翌30日、日本では、東京地裁が同性婚を認めていない日本の法律は「合憲」との判断を示した。性的少数派の人権に対する姿勢に関しては、日本政府と他の先進諸国の政府との間に大きな差があるが、日米両国で起きたこの2日間の出来事は、その差を象徴する出来事となった。

超党派で可決

米メディアの報道によると、「the Respect for Marriage Act」と名付けられた同法案は、早ければ来週にも下院でも可決される見通しで、かねて法案への支持を表明していたジョー・バイデン大統領の署名を経て成立する。

法案は、同性婚を州法で認めている州で結婚した同性カップルが同性婚を州法で認めていない州に移住した場合でも、連邦法によって婚姻関係を保障するという内容。また、婚姻を男女間に限定し、他州で結婚し移住してきた同性カップルの婚姻関係を否定する権限を州に与えている「the Defense of Marriage Act」(結婚防衛法)を無効とした。ニューヨーク・タイムズ紙は「歴史的な法案」と報じた。

法案が可決されたのは、同性婚を認めることに消極的な野党共和党から議員数の約4分の1に当たる12人が賛成に回ったことが大きい。その中には、大統領選に出馬したこともある共和党の重鎮で、保守的なモルモン教徒でもあるミット・ロムニー氏も含まれている。

レズビアンの娘を持つ上院民主党トップのチャック・シューマー上院院内総務は、法案可決後、娘の結婚式の時につけていたネクタイをつけて会見に臨み、「娘たちが愛情を持ち、安心して子育てできることを望んでいる」と感極まった様子で語った。

国民の意向を反映

法案可決の背景には、同性婚を合憲とした2015年の最高裁判決が、ドナルド・トランプ前大統領の下で極端に保守に傾いた現在の最高裁によって覆される可能性が出てきたことがある。最高裁は今年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を約半世紀ぶりに覆したが、その際、保守派のクラレンス・トーマス判事は、憲法で保障された同性婚の権利や夫婦が避妊具を使う権利も見直す可能性を示唆していた。

そこで、民主党が多数派を占める議会は、最高裁が同性婚の権利を否定する判決を実際に下した場合に備え、判決の効力を弱めるための法案作りに動きだした。

議会の動きを後押ししたのは世論だ。ギャラップ社の世論調査によると、今やアメリカの成人の7割以上が同性婚を法律で認めることに賛成しており、その割合は年々増え続けている。最高裁の動きを受けての超党派による法案の成立は、米国では曲がりなりにも民主主義の基本である三権分立が機能し、また政治が主権者である国民の意向を反映して行われていることを示している。

「違憲状態」だが「合憲」

米上院が法案を可決した翌日の30日、日本では、同性婚をめぐる問題に関し、米議会の動きとは真逆とも言える出来事が起きた。

同性婚を認めていない現行の民法や戸籍法の規定は憲法違反にあたるとして同性カップルらが国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、現行法は「合憲」との判断を下した。ただ、同時に、同性愛者がパートナーと家族となるための法制度が整備されていない現状は、個人の尊厳を保障した憲法24条2項に違反する「違憲状態」とも指摘し、従来の判決より一歩踏み込んだ判断を示した。

判決の前日と当日には、同性婚の実現に向けて活動する公益社団法人「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」が、「日本のLGBTQ+の歴史的瞬間を見守る」として、記者会見に加え、トークイベントや映画上映会を開くなど、「歴史的な日」になることへの期待も高まった。

判決後、会見に臨んだ原告の間からは、「違憲状態」との判断に対し、「大きな前進」「安心した」など評価する声が次々と上がる一方、「(違憲状態ではなく)違憲です、とはっきり言ってほしかった」「もっと踏み込んだ判決だったらうれしかった」といった不満の声も相次いだ。

立法府の責任を強調

また、先進国を始め多くの国が同性婚の合法化に動き、日本でも世論調査で国民の6割前後が同性婚に賛成する中、主要先進国の中で唯一、日本だけが同性婚を認めていない現状に対し、国会の姿勢を批判する声も目立った。ある原告は、「立法府は、慎重な検討を要する、と繰り返し言うだけで、議論がまったく進んでいない。立法府が変わることを強く期待している」と述べた。

会見の様子はユーチューブで生配信されたが、視聴者からのコメントも、「政権に忖度した判断じゃないのか」「立法、動いてくれ~」「日本人だけど、日本は遅れていると思います。恥ずかしいです」など、政府や国会への注文が目立った。

原告弁護団の寺原真希子弁護士は、控訴する方針を明らかにするとともに、「違憲状態との判断が下された今、国会に対し、法改正に向けて速やかに動く義務があると訴えていきたい」と、同じく政府や国会の責任を強調した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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