禁断のイメージが強い「卍」に挑む。初めての女性との濡れ場は、男性との場合とは別もの？
女性同士の性愛に焦点を当て、いまだ「禁断」といった背徳的なイメージの強い谷崎潤一郎の小説「卍」。
1928年に発表されてから、これまで何度も映画化されてきた同作が、令和のいま再びリメイクされた。
となると、これまで何度も映画化されてきた原作を、なぜいま再び描くのか？いま、改めて映画化する意味は果たしてあるのか？
そう疑問を抱くことはある意味、素直な反応かもしれない。
でも、いまだから「卍」なのかもしれない。むしろいまこそ「卍」ではなかろうか。
令和に届けられた「卍」を前にすると、そんな感想を抱く。
禁断はもはや過去で、「卍」という物語の世界が、いまという時代にひじょうにフィットしていることに気づかされる。
果たして、令和のいま「卍」と向き合った俳優たちは何を感じ、何を思ったのか？
W主演のひとり、新藤まなみに訊くインタビューの番外編。
これまでに収められなかった話を続ける。番外編全三回。
男性とのセックスシーンとはまったく別ものでした
本編インタビューの最終回となる第六回で少し触れたが、今回、新藤は、園子を演じた小原徳子、園子の夫である孝太郎役の大西信満と、男性と女性を相手にいわゆる『濡れ場」を演じることになった。
女性との性愛のシーンは初となったがこう振り返る。
「ひと言で表すと、男性とのセックスシーンとはまったく別ものでした。
まず、前提として、わたしと小原さんの間で、光子と園子として立ってその場で感じたことを素直にそのまま出していこうという共通認識があったんです。
お互い言葉で確認したわけではないんですけど、現場の空気感からそういうことを感じ取っていました。
それぐらいお芝居をしていて呼吸が合っていた。だから、お互い自由に演じながら、そのとき感じたものをそのまま相手にぶつけることができたところがあったんです。
なので、小原さんとの濡れ場に関しても、自分の気持ちが素直に出せる。一方で、園子の思いも感じることができる。
ですから、演技ではあるんですけど、感覚としてはもう完全に二人で愛を確かめ合っている感じで。
わたしは鳥肌が立っていました。男性とは違って、『肌すべすべだ、ふわふわで気持ちいい』みたいな体のふれあいを感じながら、ものすごく幸せな気持ちに包まれていました。
始めはぎこちなかったんですよ。
だって、新藤まなみとしても、光子としても、女性と交わうのが初めてだから、どうしたってぎこちなくなってしまう。初体験ですから。
ただ、その始まりのぎこちなさを通り抜けてからはもう自分でも信じられないぐらい没頭していたとうか。小原さん＝園子との愛に溺れていましたね（笑）」
女性同士だとサポートしあうところがある
その体験をこう語る。
「たぶん、濡れ場に関していうと、おそらく男性主体で女性は身を委ねる形が多いと思うんです。
ただ、今回、実際に女性同士のベッドシーンに取り組んでみて感じたのは、女性同士だとサポートしあうところがあるというか。
男性だとお任せしちゃうところがある気がするんですけど、女性同士だと互いを尊重し、フォローしながら演じている感覚がありました。
今回がなにせ初めてで、すべての女性同士のベッドシーンがそうではないでしょうけど、わたしはそんなことを感じていて、男性がお相手のときとは全然違うなと思いました。
たぶん光子と園子も、触れたいけど触れたら嫌われるかも、でも触れたくてたまらない、みたいな感じで距離を縮めながら、一線を越えてしまうシーンだったので、余計にそういう感覚になったのかもしれません」
全身全霊でやってすべてを使い切って、着替える力も残っていなかった
この光子と園子が体を重ねるシーンは長時間の撮影だったと明かす。
「たしか4時間か5時間ぐらいかかったんですよ。あのシーンだけで。
かなり執拗に撮られたんですよ。
その理由はわたしはわからないので、井土監督に聞いてもらいたいんですけど、とにかく長かった。
でも、そんな長い時間撮っていると感じないぐらい、わたしは園子に溺れてました。
あと、スタッフ全員で、いいシーンにしようという気持ちがすごくあって、長時間の撮影だったんですけど、ものすごく全員が集中していたんですよね。スタッフもキャストも集中力がまったく途切れることがなかった。
だから、あの濡れ場の撮影が終わった瞬間は、もう脱力してしまって。
終わったら一気に疲れが襲ってきて、なんか放心状態で抜け殻のようになっていました（苦笑）。
それぐらい全身全霊でやってすべてを使い切って、着替える力も残っていなかったです（笑）」
（※番外編第二回に続く）
映画「卍」
監督：井土紀州
脚本：小谷香織
出演：新藤まなみ 小原徳子
大西信満 黒住尚生 明石ゆめか ぶっちゃあ（友情出演）／仁科亜季子
全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて （C）2023「卍」製作委員会
