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初主演、初のラブシーンを経験して次の一歩へ。禁断の性愛のイメージが強い「卍」に挑む

水上賢治映画ライター
「卍」で主演を務めた新藤まなみ   筆者撮影

 女性同士の性愛に焦点を当て、いまだ「禁断」といった背徳的なイメージの強い谷崎潤一郎の小説「卍」。

 1928年に発表されてから、これまで何度も映画化されてきた同作が、令和のいま再びリメイクされた。

 となると、これまで何度も映画化されてきた原作を、なぜいま再び描くのか?いま、改めて映画化する意味は果たしてあるのか?

 そう疑問を抱くことはある意味、素直な反応かもしれない。

 でも、いまだから「卍」なのかもしれない。むしろいまこそ「卍」ではなかろうか。

 令和に届けられた「卍」を前にすると、そんな感想を抱く。

 禁断はもはや過去で「卍」という物語の世界が、いまという時代にひじょうにフィットしていることに気づかされる。

 果たして、令和のいま「卍」と向き合った俳優たちは何を感じ、何を思ったのか?

 W主演のひとり、新藤まなみに訊く。全六回。

「卍」で主演を務めた新藤まなみ   筆者撮影
「卍」で主演を務めた新藤まなみ   筆者撮影

初主演映画「遠くへ,もっと遠くへ」での経験を振り返って

 今回の「卍」の話に入る前に、彼女には初主演映画「遠くへ,もっと遠くへ」でも話をきいている。

 そのとき、同作は自身にとって大きなチャレンジだったことを明かしてくれた。

 改めて振り返って、自身にとってどんな作品になっただろうか?

「わたしにとって『遠くへ,もっと遠くへ』との出合いは、ほんとうに大きかったと思います。

 映画で主演も務めさせていただくことも初めてならば、ベッドシーンに挑むのも初めてでした。

 すべてが初物尽くしみたいな感じで、主演という大役を、小夜子という役を自分がまっとうできるのか不安がなかったといったらウソになる。

 でも、年齢としても30代に入るときで、それまでとは違う新しいチャレンジをしたいと思っていました。新たなチャレンジをすることで、ひとつの節目である30代の第一歩を踏み出したくもあった。そこでチャレンジを恐れてはいけないと、思い切って飛び込んでみました。失敗を恐れずに、小夜子を全身全霊で演じることに集中しました。

 小夜子という役を演じ切れたのか、期待に応えられたのかは、見てくださった方が判断することなので、自分ではわかりません。

 でも、わたしの中では何ものにも代えがたい大きな経験になりました。

 『わたしはこの映画で主演を務めています』とはっきり大きな声で言うことができる、自分の名刺代わりになるような作品になりました。

 ほんとうにあのとき、ためらわずに決断してチャレンジしてよかったと思っています。

 実際、『遠くへ,もっと遠くへ』の出演後、少し活動の幅が広がったんです。

 遅すぎず、早すぎず、自分のベストなタイミングで新たなチャレンジができて、30代の第一歩を踏み出すことができました」

期待を裏切らないように気持ちも新たに頑張らないと

 「遠くへ,もっと遠くへ」のチャレンジが確実に今回の「卍」につながっているという。

「そうですね。

 今回の『卍』の井土紀州監督は、『遠くへ,もっと遠くへ』の脚本を手掛けられていた。

 井土監督に直接伺うことはできていませんけど、でも『遠くへ,もっと遠くへ』がいまいちだったら、たぶん今回声をかけてくださっていないと思うんですよね。

 どれぐらいかはわからないですけど、少しはわたしになにか可能性を感じてくださったから、声をかけてくださったと思うんです。

 ですから、今回のお話が来たときは、うれしかったですし、期待を裏切らないように気持ちも新たに頑張らないとと思いました

 そして、もし『遠くへ,もっと遠くへ』にチャレンジしてなかったら、今回のお話はなかった。

 『遠くへ,もっと遠くへ』に全力で取り組んだからこそ、今回の『卍』につながったと思って。

 繰り返しになりますが、恐れずにチャレンジしてよかったなと思いました」

映画「卍」より
映画「卍」より

前作でライバルだった光子という名の女性を今度は演じることに

 これは不思議な奇遇になるのだが、さきほどから会話に出ているように「遠くへ,もっと遠くへ」では小夜子を演じた。

 その小夜子のある意味、ライバルで恋敵にいたのが、光子という女性だった。

 そして、今回、奇しくも前回は恋敵として向き合った光子という同じ名の女性を演じることになった。

「はじめ、『これは、なにか目論見があるのかな?』と思ったんですよ(笑)。

 思いますよね、前作でライバル的存在だった名前の役を演じることになったら、なんか考えていることがあるんじゃないかと。

 だから、気になるので監督やプロデューサーを前に聞いちゃったんです。『なにか目論見や狙いみたいなものがあるんですか?』と。

 そうしたら、『全然そんなものはない。たまたま』と言われて拍子抜けしちゃったんですけど(苦笑)。

 でも、実際、そうだったみたいで、はじめにお話しをいただいたときに聞かれたんですよ。『光子と園子だったらどっちをやってみたい?』と。

 つまり、はじめの段階では、両にらみだったみたいで。

 で、そのとき、初期段階の台本をいただいて、わたしは読んでいたんです。読み終えたわたしの心はというと、断然、光子に奪われていました。それでほぼ即答で『光子を演じてみたいです』とお伝えしました。

 こうして今回は光子という役に取り組むことになりました」

(※第二回に続く)

映画「卍」メインビジュアル
映画「卍」メインビジュアル

映画「卍」

監督:井土紀州

脚本:小谷香織

出演:新藤まなみ 小原徳子

大西信満 黒住尚生 明石ゆめか ぶっちゃあ(友情出演)/仁科亜季子

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて (C)2023「卍」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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