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物価高、インフレ進む米国 思わぬ食品、卵が「高級品」の仲間入りのワケ

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

先日、ニューヨークの友人とこのような会話になった。

「何でも値上がりで嫌になるわよね」

「卵が9ドルよ、9ドル!牛肉が7ドル。牛肉より卵が高いって、一体どうなってるのよ!?」

厳密に言うと、牛肉も卵も重量や質によって価格はマチマチだが、それでもここ1年の卵価格の上昇率は尋常ではないと感じていたので、友人の指摘はごもっともだと思った。

日本でも日々価格高騰が伝えられるが、アメリカ、特にニューヨークやロサンゼルスなどの大都市での価格高騰は日本の比でないほど顕著だ。今やラーメンはチップも含めると20ドル(約2600円)以上は当たり前。並みのレストランやフードホールで軽くサンドイッチを食べても、だいたいそのくらい。観光客が行ったファミレスでちょっとしたパンケーキセットの朝ごはんが2人で8000円だったとも伝えられている。

観光客が行く店は、地元の人が普段使いするそれより一般的に価格が高い傾向があるが、それでも地元民が普段使いする飲食店やスーパーでも価格が上昇したことは日々実感中だ。

ここで特に気になるのは、冒頭に書いた尋常でない卵の価格高騰である。

ニューヨーク市内のスーパー。(c)Kasumi Abe
ニューヨーク市内のスーパー。(c)Kasumi Abe

スーパーでは肉や魚、パン、バター、シリアル、スナック菓子など食料品全体の価格が跳ね上がっているが、上昇率が尋常でないのが「卵」なのだ。

インフレ前は一般的なスーパーで、1ダース(12個入り)2~3ドル台(約300円前後)の商品が主流だったと記憶している。しかしここにきて、主流商品は5~7ドル(約642~899円)に、中には9ドル~12ドル(約1155~1540円)近くする高級品のようなものまである。今やアメリカでは、卵そして卵を使った料理は歴とした「高級品」である。

昭和時代の戦後間もない時、アメリカでも昔は高級品だっただろう。しかし時代は21世紀。卵は卵である。筆者は今の所最安値から1つ上のランクの5、6ドル台の商品を選ぶことが多く、それで満足している。1600円近くする卵には到底手が届かない。一体どんな飼育方法で生まれ、どんな味だろうかと思いを馳せる。

この店では、$5.49〜$9近いオーガニック商品が主流。(c)Kasumi Abe
この店では、$5.49〜$9近いオーガニック商品が主流。(c)Kasumi Abe

「なぜ卵の価格がこんなに高いのか」米誌が解説

なぜ卵の価格がここまで上がってしまったのだろうか?

カリフォルニア州で12個入りの卵が7.37ドル(約946円)に値上がりしたとして、食関連のマガジン『フード&ワイン』は13日、「なぜ卵の価格がこんなにも高いのか」という記事を発表した。

アメリカ労働省の今月の消費者物価指数によると、家庭の食料品価格の上昇を示す波は横ばいに落ち着いているが、卵1ダースの価格だけが上がり続けており、前年比で59.9%上昇したという。昨年11月から12月にかけての上昇率は著しく、11.1%も跳ね上がった。平均価格は2021年12月の時点で1.79ドルだったのが、昨年11月の時点で3.59ドル、12月で4.25ドルになった。

卵の価格を押し上げる要因はいくつかあるが、最大の要因は進行中の鳥インフルエンザの流行だという。アメリカ農務省の発表では、46州で約5800万羽のニワトリや七面鳥が鳥インフルエンザに感染し殺処分されたことで、産卵鶏の数は5%減少した。これが供給に影響しているようだ。

また卵の価格高騰の理由はほかにも、燃料費、鶏の飼料費、卵のパッケージの包装費などの上昇が関係している。

ニューヨーク市内のスーパーの卵売り場では、このような張り紙も見るようになった。

「現在、全米で卵不足による価格高騰が続いています。これらの供給の課題に対処するためできる限りのことを行っています。ご理解に感謝します」

卵の供給不足が価格高騰に繋がっていることを告げる張り紙(写真は一部加工済)。(c)Kasumi Abe
卵の供給不足が価格高騰に繋がっていることを告げる張り紙(写真は一部加工済)。(c)Kasumi Abe

また卵の価格高騰の影響を受けているのは一般の消費者だけではない。飲食業界の経営者にも頭が痛い問題だ。

同誌は、「卵のコストが週750ドルから2500ドルに跳ね上がった」と頭を抱える飲食店の経営者や、メニューの値上げを踏みとどまっている別の経営者のコメントなどを紹介している。値上げの踏みとどまりの理由は、「消費者が、この価格高騰の裏でいったい何が起こっているのかをどこまで理解しているかわからないため、闇雲にメニュー表の値上げに踏み切ることをためらう。新規客に気軽に店に来てもらいたいから」。

飲食業界の悲鳴は、日本もアメリカも同じようだ。

(Text and most photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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