騙された感が半端ない!米インフレで企業の苦肉の策「スキンプフレーション」 ── 日本も他人事ではない
筆者がたまにランチなどで購入する、お気に入りのインドカレーがある。
トロッとしたバターチキンカレーと独特の風味があるバスマティライスがセットになったパッケージ商品だ。物価高が続く中、だいたいどこのスーパーマーケットでも9ドル(約1260円)以下と当地ではお手頃価格で売られていて、味も良い。
しかし最近それを食べようとして「あれ?」と思ったことがあった。これまでカレーの具は柔らかいチキンの胸肉だったが、いつものチキンは入っておらず「チキンのすり身団子」にすり替わっていた。
パッケージを確認するとやっぱり「チキン」と書かれてあるが、改行後に「ミートボール」という文字があるのに初めて気づいた。パッと見のデザインが同じなので、これまで同様、カットされた肉塊の具だと思って購入する消費者も多いことだろう。
また別の日、ミッドタウンの中華料理店に食事に行った時のこと。
我々がオーダーしたクルーシャン(フナ)の煮付け料理(21.95ドル=約3000円)はメニュー表によると、付け合わせにネギが入っているということだった。しかし運ばれてきた魚料理には、約3cmにカットされたネギが気持ち程度に数切れ入っているだけで、代わりに砂糖で味付けされた甘いタレがたっぷりとかかっていた。
飲み物のジャスミン茶も、明らかにジャスミン茶とは言えるものではなかった。間違ってオーダーが通ったのではないかと店員に確認したが、やはりジャスミン茶で間違いないという。食事の雰囲気が台無しになるためそれ以上は追及しなかったが、明らかに質の悪い烏龍茶のような味がした。
これらは、典型的なスキンプフレーション(Skimpflation)の一例だろう。
「ケチる」からきた新たな造語、スキンプフレーション
インフレになって、「ポテトチップスの大袋を開けると中身が少なくなっていた」「1枚の大きさが以前より小さい」「歯磨き粉を買ったら、箱の大きさは同じだがチューブが明らかに小さくなっている」などの声がよく聞こえる。商品価格をほぼ変えずに内容量を減らすこれらの動きが、Shrink(縮める)をもじったシュリンクフレーション(Shrinkflation)と呼ばれて久しい。
同様にスキンプフレーション(Skimpflation)も、記録的なインフレが進むアメリカで最近、頻繁に聞こえるようになってきた。
スキンプフレーションのSkimp(スキンプ)は、時間やお金、材料を必要以上に費やさない(つまりケチる)という意味。Flation(フレーション)は文字通りインフレのことで、この2つをもじった新たな造語がスキンプフレーションだ。
具体的には、企業がこれまでとほぼ同じ価格帯を保ちながら、商品の製造コストを削減するために、より安価な原材料を使用し製品化することを指す。例えば、ある食品企業は食品の原材料としてこれまで本物のアーモンドを使っていたのにいつの間にか「アーモンド風味」に置き換えたり、バターの代替商品の原材料である植物油の含有率が以前は60%超えだったのが40%以下に減少したりしているのが報告されている。
チキンが「チキンのすり身」にいつの間にか置き換わっている件のチキンカレーも、飲食店でオーダーしたものがメニュー表の説明と「微妙に」異なったり、客の期待に応えるほどの質を満たしていないものだったりするのも、スキンプフレーションと言えるだろう。消費者からすると一抹の「騙された」感がよぎるものである。
日本経済新聞の14日付の記事には、「インフレならぬ『ケチフレ』である」と書かれている。記事によると、スキンプフレーションにはサービスの削減も含まれるといい、「小売りなら販売時の説明を省く、ホテルなら送迎や清掃の頻度を減らす」も、スキンプフレーションの1つという。さらに「米国が震源のスキンプフレーションだが、実はコロナ後の日本でこそ大きく広がる余地がある」ということだ。
最近、日本の大手コンビニのサンドイッチの具が少ないとネット上で話題になっていたが、以前からも言われているような弁当の底上げも含め「見た目はボリュームがあるのに実際の中身が少ない問題」も、シュリンクフレーションやスキンプフレーションの一端と言えるだろう。
スキンプフレーションが我々の食生活に与える影響
前述の中華料理店の3000円の魚の話に戻ると、甘いソースがたっぷりかかっていることで、どのような質の食材でも「美味しく感じさせ満足させる」のは明らかだ。しかし砂糖たっぷりの味付けが、健康に良いはずはない。
医療系の米非営利団体、ヘンリー・フォード・ヘルスは9日、スキンプフレーションが我々の食生活に与える影響について発表している。
この記事でも、「風味を加えるためのもっとも簡単で安価な方法は、塩分と糖分を加えること」とある。よって「食品企業が高騰した原材料を使用する代わりに塩や砂糖を追加投入して味を調整するのは、驚くことではない」と同団体の登録栄養士、アレグラ・ピカノ氏は述べている。 「消費者は原材料の配合の変化に気づかず、これまでと同じ食品を買い続けるかもしれないが、栄養価や健康面では良いとは言えない」。
その上で「質の良い製品に辿り着く方法」として、記事はこのように紹介している。
1. 栄養成分表示を確認する(日常的に購入してきた商品でも)
成分表のトップに書かれているものはメインの原材料なので、「ポテトスープ」の場合は最初に「水」と書かれているが、その後に書かれている素材、ポテトの「質」なども確認すること。パッケージに大きく「マルチグレインのパン」と書かれている商品でも、成分表の最初に書かれているのが「無漂白の強化小麦粉」だとしたら、穀物から栄養素を取り除いて再び加えたものなので、栄養素の含有量が減ったことを意味する。
2. ナチュラルフレーバーは必ずしも「自然」とは限らない
ナチュラルフレーバーとは、本物の原材料を使う代わりにそのような香りを使用したものを指す。例えばタンパク質が豊富なアーモンドの代わりに、アーモンドから抽出されたアーモンドフレーバーなど。ストロベリーキャンディーと呼ばれる商品にストロベリーフレーバーが含まれていても、本物の苺が原材料に含まれているとは限らない。ナチュラルフレーバーには栄養価はない。栄養成分表示を確認すること。
3. 低ナトリウムの商品を選ぶ
スープなど多くの包装済み食品はナトリウムが多く含まれるので、無塩または低ナトリウムの商品を選ぶ。手作りが良いのは論を俟たない。低ナトリウムのブロス(出汁)にたっぷりの野菜、肉、ハーブなどを入れて作るのが良い。
4. 小腹が空いたらホールフードスナックを選ぶ
シリアル、クラッカー、ポテトチップス、クッキーの代わりに、アーモンド、クルミ、ヒマワリの種、リンゴ、アボカド、セロリ、ニンジンなどのホールフードスナックを選ぶ。.
5. 栄養成分表示で、砂糖(糖分)の量を確認
自然由来の糖質はヨーグルトや牛乳にすでに含まれているものだが、多くのケースで我々の健康に害を及ぼすのは追加された砂糖(糖分)であるため、栄養成分表示を確認する。
また記事では、「冷凍や缶詰の野菜や、冷凍の果物は生鮮食品より長持ちし、価格も低い」「キノア、玄米、豆、レンズ豆は良質のタンパク質であり、価格も(アメリカでは)比較的安価の傾向がある」などとし、これらの食材をうまく使い分けることもインフレを乗り切る方法の1つとして紹介した。
物価高騰の折、不健康な食習慣にならぬよう、また騙されたという気にならぬよう、消費者側も知識を持ってより賢く商品や店を選んでいく必要があるだろう。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止