公明党の選挙公約を与党内調整ではなく公開で修正させた岸田政権の政治手法
フーテン老人世直し録(617)
霜月某日
公明党の選挙公約であった18歳以下に現金一律10万円を支給するという「未来応援給付」や、マイナンバー保有者への3万円分のポイント付与の方針は、自民党との交渉で960万円の所得制限が設けられ、またすべてが現金ではなく半分はクーポンになるなど、公明党は自民党の主張に譲歩させられた。
総選挙直後に、しかも第二次岸田政権が発足する前に飛び出したこの公明党の選挙公約を巡る与党内の攻防を見て、フーテンは20年以上続く自公連立体制が今回の選挙によって変化したことを感じた。
総選挙の結果が判明したのは11月1日未明である。自民党は議席を減らしたが絶対安定多数を単独で確保し、公明党は2議席増やした。一方で維新が議席を4倍近く増やして躍進し、また中道を掲げる国民民主党も議席を伸ばした。
その選挙結果を受けて、10日に首班指名を行う特別国会が召集され、その日に岸田総理は第101代内閣総理大臣に指名されて組閣を行い、新内閣は12日に最優先課題であるコロナ対策の全体像を示す。そして新たな経済対策については公明党と調整して19日に閣議決定する予定になっていた。
ところがそうした予定より先に、5日の読売新聞朝刊が、新内閣がまだ発足もしていないのに、政府は公明党の選挙公約を19日にまとめる経済対策に盛り込むと報じた。見出しは「18歳以下に10万円支給へ」だ。するとその報道によって国民の間から「バラマキ批判」が一斉に巻き起こった。
このスクープ報道は公明党案を潰すためのリークだとフーテンは思った。潰すためのリークは「よくある話」だ。その一方で、そうしないと公明党に押し切られる可能性を政府関係者が感じたからリークしたとも思った。
選挙公約は国民との約束事だから非常に重い。従って公明党が強い態度に出てくるのは当然だ。ただ連立政権であれば通常は与党内部で調整を図るのに、新聞にリークしたことは、それ以上の事情があることをうかがわせる。公明党に対する政府の立場を強くしておく必要があったのだ。
その事情とは何か。フーテンは2つのことを考えた。1つは選挙結果で維新が公明党の議席数を抜いて第3党になったことだ。そして維新は憲法改正や安保政策で公明党より自民党に近い。連立与党の一角に入り込もうとする可能性がある。維新が第3党になったことは公明党の立場を弱くする。
だからこれまでより強い姿勢で自民党と向き合わないと足元をすくわれると公明党は考える。与党内調整で公明党がこれまでより姿勢を強めてくると考えた政府関係者は、読売新聞にリークして機先を制しようと考えた。
もう1つは、岸田総理にとって忌まわしい昨年の思い出だ。当時の岸田政調会長は安倍元総理の了解の下、コロナで困窮した世帯に30万円支給を考えた。ところが公明党が全国民に一律10万円支給を主張し、当時の二階幹事長と菅官房長官がそれに同調したため、形勢は逆転して岸田政調会長の主張は通らなかった。
無能の烙印が押され、ポスト安倍には菅官房長官が選ばれた。岸田総理は苦難の1年を送った。今回の18歳以下の一律支給はそれを思い出させる。だから決して認める訳に行かない。自民党総裁選挙で戦った相手は河野太郎だが、その後ろには菅前総理と二階元幹事長がいる。そして菅、二階の背後には公明党の存在がある。
公明党の要求に屈する訳にはいかないとの思いで新聞にリークし、それによって調整を有利に進めようとしたが、案の定、選挙公約であるから公明党は一律支給を撤回せず、所得制限も受け入れない。
するとフーテンが注目したのは7日のメディア報道だ。「遠山清彦元公明党衆議院議員任意聴取」のニュースが一斉に報じられた。遠山清彦元衆議院議員は公明党の将来を担うホープだった。この総選挙では比例区ではなく神奈川6区の小選挙区から立候補することになっていた。
ところが今年1月に「週刊文春」が、緊急事態宣言下なのに銀座の高級クラブを深夜に訪れたという記事を書き、遠山元議員は議員辞職、総選挙も不出馬を余儀なくされた。
すると8月には秘書2人が貸金業法違反事件の関係先として家宅捜索を受け、遠山元議員の自宅も家宅捜索の対象となった。その遠山元議員が東京地検特捜部から任意で聴取を受けたというのだ。このタイミングでの任意聴取は決して政治の動きと無縁ではない。フーテンの経験で言えば検察ほど政治的な動きをする機関はないからだ。
これで公明党は自民党の言う通りになるだろうとフーテンは思った。事実、公明党は自民党が主張する960万円の所得制限を受け入れ、10万円の現金支給も5万円はクーポンでの支給になった。マイナンバーカードの3万円ポイントも2万円に減額された。
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