益虫テントウは可愛い殺し屋③=ハラグロオオテントウ
ハラグロ(腹黒)と言うと、いかにも悪漢のようだが、ハラグロオオテントウは桑(クワ)の主要害虫クワキジラミ幼虫を退治する益虫、正義の味方だ。もともとは西日本が生息域だったが、最近は温暖化の影響か、東京、千葉、埼玉など関東でも良く見かけるようになった。カメノコテントウと並んで、日本最大級のテントウなので、見つけた子どもたちはかなりビックリする。
クワキジラミは、どこのクワの木にもいる害虫(害を為すのは主に5~6月に大量発生する幼虫)だが、アブラムシほどの知名度はない。アブラムシのように、所かまわず発生するのではなく、クワを専門に食害する上、クシャクシャに丸まったクワの葉の裏側に集団でびっしり張り付いているので、そんな葉をわざわざ広げてみる虫好き、昆虫学者だけが拝謁の栄誉(一般人は見たいとも思わないが)に浴することができる。
ハラグロオオテントウの幼虫は、このクワキジラミ幼虫の集団の中に、敵兵を蹴散らす重戦車のように突入し、食い散らし、殲滅する。したがってハラグロオオテントウは、養蚕農家にとって守護神のような存在だ。
クワキジラミの幼虫は、尻の先に白く長い糸のようなロウ物質を付けている。このため幼虫の大集団は、糸くずのかたまりのように見える。これは虫嫌いの人にとっては、かなり気味悪い。
しかし、クワキジラミ幼虫を1匹1匹観察してみると、まるで羽衣を身にまとった天女のようにも見えてくる(そう見えない人の方が圧倒的に多い)。そう思うと、天女を片っ端から食い殺していくハラグロオオテントウの方が、腹黒い悪役の殺し屋に見えてくるから不思議だ。特にハラグロオオテントウの幼虫は、背中の目玉のような模様と無数の棘が恐ろしげで、見るからに悪党の姿だ。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)