物流業界の現場では何が起こっているのか
指定時間配達の緩和、残業代支払いの調査、宅配料の値上げなど、ヤマトに関する話題が世間を賑わせています。EC需要増加に伴う人手不足に端を発した問題ですが、働き方改革にまで話は及ぼうとしています。ところで、宅配業者ではなく、いわゆるもういっぽうの企業間物流はどうなっているのか。同じような状況にあるのか。専業コンサルタントに聞きました(聞き手:坂口孝則)。
--仙石さんは、企業間物流のコンサルタントです。ヤマトの問題で物流、運輸業全般が注目されています。現状はどうでしょうか。
「まず全般的に各社とも苦しいのは同様です。トラックの運転手でいえば、有効求人倍率が2倍を超えています。それでもひとがなかなか集まらない」
--保育士みたいですね。保育士も一人の保育士を奪いあう状況になっています。
「そうですね。でも業界の給与水準がそれでも低いので、なかなかやりたがらない。現在、6万3000社くらいはあり、いまはなんとかギリギリ運べている状況です。しかし、高齢化が進んで、もう将来はわからない状況にあります」
--経済メカニズムが働いていない状況にあるようですが、理由はあるんでしょうか。それだけ逼迫していれば、荷主に堂々と値上げを申請すればいい。
「まあ、そりゃそう指摘するひともいますけれどね、実際は難しい。値上げの話をすると荷主から切られる恐怖から、なかなか切り出せないでいる業者が多いようです」
--物流の進化があれば生産性向上するのでしょうか。
「問題となっているのは、納品するときなんですよ。待ち時間が非常に長い。たとえば小売業の倉庫などに納品しにいくでしょう。そうすると、前のトラックが作業していて、待つしかない。でも、なかなか前のトラックの作業が終わらなかったり、受け入れ体制が整っていなかったりで、2時間待つこともあります。さらに、そのあいだは何もできません」
--一日のうちそれだけ不稼動があれば他の時間にしわ寄せがいくでしょう。
「そうなんです。だから、荷主との契約をしっかりとしなければいけない。さすがにJIT(ジャストインタイム)で時間指定までは難しいかもしれないんですが、せめて待ち時間がないような契約にしていかないといけない。国交省もガイドラインを作って推奨しています。書面化を進めることで、業務内容を明確化しようとするものです」
--荷主と不平等条約を締結している、と。
「それはなかなか良い表現かもしれません。これまで制約や条件がはっきりしていなかったので、それを明確化することが物流の労働条件改善に寄与します。もちろん荷主は強い立場ですが、それも徐々に変えていくしかありません」
--よく物流の改善方法も喧伝されますが。たとえば共同物流とか。
「もちろん有効です。しかし、なかなか進みません。なぜなら共同物流は企業間の垣根をこえて取り組みます。しかし、各社すでに物流システムを持っています。となると、どっちのシステムに統一するんだ、といった争いが起きる。あとは、共同物流で安くなった取り分はどうするんだ、とか」
--ああ、もう想像できますね。
「だから日本ではトラックの積載率が50%を切っている状況なんです。忙しいのに積載率が悪い。これは非常に遺憾です。本来はモーダルシフト(鉄道等の活用)もありえますが、なかなか進んでいない状況です。いまのところ絶対的な取り組みはありません。ゆっくり徐々に改善を志向し、地道に取り組むしかありません」
--今日はありがとうございました。
仙石惠一(せんごく・けいいち)
Kein物流改善研究所 代表、国際物流総合研究所 主席研究員、物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。大手自動車会社で生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流IEとして物流効率化企画業務、新工場物流企画業務に携わる。