焼肉店で倒産が相次いでいるワケ
焼肉店の倒産が急増しています。2024年の上半期に20件が発生しました(帝国データバンク「「焼肉店」の倒産動向調査(2024年1-6月)」)。
コロナ禍では換気の点からも強いといわれてきた業態でした。そこが現在になって倒産増とは何があったのでしょうか。
なお、この20件という数字は負債1000万円以上の法的整理の数です。法的整理を伴わない「廃業」は含みません。これは焼肉店に限らない数ですが、2023年には約8600件が倒産したのに対し、廃業は約5万件でした。したがって、焼肉店でも、倒産件数の6倍ほど廃業していてもおかしくありません。
【あまりイメージ操作をしてはいけない】
ところで、各種のデータを見ますと、日本全国に焼肉店は約2万あります。さらに新規店舗も目立ちます。
各種の報道では、焼肉店がバタバタとなくなっている印象がありますが、そこはちょっと煽り過ぎの印象があります(むしろ、「え、倒産が20件だけ?」と思われた方も多いのではないでしょうか)。
その前提で以下を列記します。
【理由①ゼロゼロ融資への返済】
ゼロゼロ融資とは、コロナ禍で売り上げが減少した中小企業に対して、実質的な無利子・無担保で融資を行う仕組みです。この返済期限が到来し、このタイミングでつなぎの融資を受けるのではなく、倒産の決断をした事業者もいたと推測されます。
【理由②コスト高(1)円安】
執筆時点の為替レートは1$=157円でした。1年前が140円、2年前が133円、3年前は110円です。
もっとも大企業は為替差益で高利益が続いています。だから円安=悪と決めつけるものではありません。ただ、少なくとも輸入の影響は受けるのは当然ですから、円安の分だけ輸入牛のコストが増加しています。
【理由③コスト高(2)米国の干ばつ】
日本は米国からもっとも牛肉を購入しています。米国は大半の牛肉を国内で消費することが知られ、輸出分は約1割にすぎません(なお、オーストラリアはむしろ輸出分が大きく7割が輸出)。
このところエサの牧草が干ばつの被害に遭ってしまい、牛の飼育数が減少しました。そこで市場に出回る供給数が減少し価格上昇をもたらしました。当然、米国は国内を優先します。
執筆時点では、トモバラの卸売価格は国産が1226円/KGに対し、米国産が1436円/KGとなんと逆転しています。
また国内で消費されるうち国産は4割にすぎません。6割が輸入に頼っていますので、もちろん国産だけで輸入品を代替することは困難です。もちろん、加工品などは細かなスペックが決まっており、企業側の事情で代替できないでしょうが。
【理由④コスト高(3)他国との買い争い】
さきほどあげた米国ですが、10年前は日本にもっとも輸出していました。それが現在では韓国が最大の輸出国になっています。
これは豚食の文化がもともとあったところに、牛食が加わったからといわれます。そもそも牛肉の消費額は、所得に比例するといわれます。韓国国民の所得が上昇するのと比例して牛肉の消費額が増加しました。
ドルに対してウォンも安くなっています。ただ日本円ほど安くなっているわけではないので、まだ韓国のほうが有利といえます。また韓国では、生活防衛の意味も含めて立て続けに輸入関税を大幅に引き下げたことも記憶に新しいところです(ロイター「韓国、食品7品目の輸入関税引き下げへ 生活費上昇に対応」)。
なお、日本が「買い負けている」は言い過ぎで、現在でも日本に牛肉は入ってきています。「買い負ける場合もある」くらいが冷静な言い方でしょう。
基本的に企業(日本の企業)と企業(牛肉を販売してくれる外国の企業)は契約を結び、そして売買が成立します。ただ、供給側が契約数量を生産できなかったときに、調達側は足りない分をマーケットで探します。そのときに日本企業の条件が厳しかったり、量が少なかったり、対価が低かったりすると「なら他国に売るよ」となるのは当然でしょう。
【理由⑤コスト高(4)その他すべて】
さらにコストが増加する要因としては次です。
・電気
・ガス
・物流費
・人件費
とくにコロナ禍で離れてしまった人材をふたたび呼び戻すことが難しく、人材難で営業ができない店舗もあるほどです。
【おわりに】
と、ここまで(ゼロゼロ融資は除けば)コスト面から、焼肉店の苦境について説明してきました。冒頭で強調したように、あまり倒産増加を煽ってはいけないと思います。ただし、円安や、他国との関係、さらにはあらゆるコストが上昇しているのは、何か象徴的に感じます。
さきに紹介した記事によると焼肉店は3割を超えて赤字になっています(帝国データバンク「「焼肉店」の倒産動向調査(2024年1-6月)」)。実質賃金が2年以上あがらないなか、消費が盛り上がるまで、あとしばらく各事業者の創意工夫と行政の支援が望まれます。