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井岡一翔に最強を証明する機会は訪れるのか?激化するスーパーフライ級戦線の行方

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
海外からも熱い視線を送られる井岡(写真:アフロスポーツ)

エストラーダvsロマゴン3

 軽量級で強豪がしのぎを削るスーパーフライ級の展開が一段と熱を帯びてきた。

 3月13日、米テキサス州ダラスでWBC王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)がWBAスーパー王者ローマン・ゴンサレス(=ロマゴン。ニカラグア)に2-1判定勝ちで2冠統一王者に就いた。この一戦が、両者ノンストップで打ち合う超激闘だったことと公式スコアに反してロマゴンの勝利を支持する意見が多かったことで即リマッチを熱望する声が沸き上がった。

 しかし勝者エストラーダには前WBC王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)との指名試合が通達されている。シーサケットはエストラーダvsゴンサレスの同日、タイで元ミニマム級世界王者クアンタイ・シスモーゼン(タイ)に3回終了TKO勝ち。勝って当然の相手だったが、勝利で自身の存在をアピールした。1年以上、指名挑戦者のポジションを占めることも過去1勝1敗のエストラーダをけん制する。

 一部でエストラーダはWBC王座を返上してWBAスーパー王座一本に絞りロマゴンと再戦すべきだという意見も出たほど。それでは権威が薄れると案じたWBCは一策を講じる。エストラーダを“フランチャイズ”チャンピオンに格上げし、シーサケットとの指名試合をひとまず回避させ、ダイレクトリマッチ(両者は12年に対戦しているので第3戦)を実現させる動きを取った。

 これでは待たされたあげくに挑戦できないシーサケットは報われない。そこでWBCはシーサケットと元王者でランキング上位のカルロス・クアドラス(メキシコ)による正規王座決定戦を同時に通達した。2014年、当時WBC王者だったシーサケットにクアドラスが地元メキシコで挑み8回負傷判定勝ち。その実績とエストラーダに2敗、ロマゴンに1敗しているものの、いずれも好勝負を演じたことがクアドラスが評価された理由だろう。

 これでエストラーダvsゴンサレス3とシーサケットvsクアドラス2の勝者が対戦して真のWBC王者を決める筋書きが出来上がった。正直なところ、このトーナメントが今すぐに実現する保証はない。世界タイトル承認団体の中で、他の主要3団体を規模で圧倒するWBCの音頭取りにしても4陣営の足並みが揃うのは難しいという見方もある。それでも対決機運が盛り上がるカードを優先して締結させようというWBCの方針はファンやメディアに支持されている。無理やり別格のフランチャイズ王者を設けることへの風当たりはあるが、今回は仕方がないというムードになりつつある。

WBO井岡vsIBFアンカハス

 スーパーフライ級のすごいところは、この4人だけでも実力伯仲なのにプラス、IBF王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)、WBO王者の井岡一翔(Ambition)が控えていることである。連続8度防衛中のアンカハスはペンディング状態だったIBF3位ジョナタン・ロドリゲス(メキシコ)との9度目の防衛戦がようやく締結。4月10日、米コネチカット州アンカスビルで行われる。コロナ禍も影響して1年4ヵ月ぶりのリングとなるアンカハスはどんなパフォーマンスを披露するだろうか。

 アンカハスはWBAスーパー・IBF統一バンタム級王者の井上尚弥(大橋)のライバル、同級WBO王者ジョンリール・カシメロや井上の次回挑戦者として有力なマイケル・ダスマリナス(ともにフィリピン)らを擁する米国人ショーン・ギボンズ氏がプロモーター兼マネジャー。以前から同氏は「エストラーダvsゴンサレス、アンカハスvs井岡が今年実現し、勝者同士が2022年の前半に4つのベルトをかけて戦う。パーフェクトなタイミング、シナリオだ」と米国メディアに発言。自身のSNSにアンカハスと井岡の合成写真をアップ。対決ムードを盛り上げる。

アンカハス(右)とギボンズ・マネジャー(写真:Philppine Star)
アンカハス(右)とギボンズ・マネジャー(写真:Philppine Star)

 ギボンズ氏の提案は今回のWBCのプランとシンクロする。アンカハスはスーパーフライ級の実績で他の王者たちを上回る印象もするが、まだビッグネームとの対戦がなく、ロマゴンやエストラーダと比べてやや影が薄い。米国のリング誌選定パウンド・フォー・パウンドで10傑入りした井岡と比較しても知名度で劣る気がする。また契約していたトップランク社と別れ、同じく大手プロモーションのPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下に入ったことがビッグマッチ実現の妨げになる可能性もある。とはいえアンカハス側が売り手市場に出たことを井岡と陣営は歓迎すべきだろう。実現すれば井上vsカシメロ同様、日本のファンにはシビれる対決になるに違いない。

井岡vsエストラーダorロマゴン

 同時に井岡はエストラーダvsロマゴンの勝者との統一戦を希望している。これはシーサケットやクアドラスが介在するだけに交渉はスムーズに運ばないかもしれない。彼ら4人はストリーミング配信のDAZNで試合が中継されており、試合締結が比較的容易なメリットが見逃せない。エストラーダvsロマゴン2のインパクトが強烈だっただけになおさら井岡絡みの統一戦締結は現時点で困難を伴う。

 それでも最新の田中恒成(畑中)との防衛戦はリング誌のみならず海外の専門家、メディアから称賛の声が起こった。エストラーダvsロマゴン3の行方が気になるところだが、井岡はここで一気に売り手市場に出て存在感をアピールしてもらいたい。今その価値は十分にあると思う。

 ちなみにターゲットの一人エストラーダは井岡vs田中の勝者を田中と予想していた。高い評価を与えた田中にパーフェクトな内容でTKO勝ちした井岡に今、熱い視線を送っている。リング誌のパウンド・フォー・パウンド・ランキングでもエストラーダは7位を占める。全盛期同士の対決を期待せずにはいられない。

 ロマゴンにしても仮にエストラーダとの第3戦が流れた場合、井岡挑戦に傾くのではないか。日本での知名度が抜群でファンに愛されているロマゴンが日本の第一人者の井岡と雌雄を決すると思っただけで胸が躍る。

第3戦へ動き出したエストラーダvsロマゴン(写真:Ed Mulholland / Matchroom Boxing)
第3戦へ動き出したエストラーダvsロマゴン(写真:Ed Mulholland / Matchroom Boxing)

スーパーフライ級でWBSS開催

 ただ彼らだけにとどまらず、2018年の大みそかマカオで井岡に僅差の判定勝ちを収めた4階級制覇王者ドニー・ニエテス(フィリピン)、ニエテス同様、最初はミニマム級世界王者だったフランシスコ・ロドリゲスJr(メキシコ)らが虎視眈々と挑戦のチャンスを画策しているのがスーパーフライ級の充実ぶりを物語る。WBAレギュラー王者ジョシュア・フランコ(米)と前王者アンドリュー・マロニー(豪州)第3戦の行方も気になるところだ。

 バンタム級で井上尚弥が優勝したワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)をスーパーフライ級で開催してほしいという要望が聞かれる。「言い得て妙」だ。これだけのタレントを相手に井岡が実力を証明する機会が訪れるのか?クールな井岡が燃える時、果たしてどんな驚きを我々にもたらすのか想像するだけで楽しい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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