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井上尚弥とオレクサンドル・ウシク。年末のPFP&MVPトップ争いが見逃せない

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥。最新のTJ・ドヘニー戦から(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

安定した力とメンタルの強さ

 12月下旬に日本とサウジアラビアで開催される統一王座タイトルマッチは文字通り、今年のボクシング界を締めくくるビッグイベントになる。それぞれ、体重が同等と仮定した実力比較パウンド・フォー・パウンド(PFP)と今年のMVPを決定する重要な試合となるだろう。12月21日、サウジアラビア・リヤドのキングダム・アリーナで行われるヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)vs.タイソン・フューリー(英)のダイレクトリマッチ。そして同24日に東京・有明アリーナでゴングが鳴るスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)vs.挑戦者サム・グッドマン(豪州)がそれに相当する。

 試合のプレビューでより分量を要するのはウシクvs.フューリーの方だ。5月に同じアリーナで行われた初戦はWBAスーパー・IBF・WBO統一王者だったウシクがWBC王者フューリーに2-1判定勝ち。4団体統一王者に輝いた。スコアカードは割れ、一部の識者はフューリーの勝利を唱えるものの、9ラウンドにダウンを奪った(正確にはスタンディング・カウント)ウシクが、それ以外にもより大柄なフューリーを窮地に陥れる場面をつくり、筆者には明白な勝利を飾ったように思えた。

 ロンドン五輪ヘビー級金メダリストのウシクは、プロで1階級下のクルーザー級で4団体統一王者に就き、最重量級へ進出。ボクシングの華、ヘビー級でも同じ偉業を達成した(IBF王座は指名試合の件で返上)。それだけに万能型ボクサーとして実力評価は申し分ないのだが、巨人フューリーとの大一番では勇気、決断力といったメンタルの強さを如何なく発揮してみせた。そのマシンガントークから「イギリスのモハメド・アリ」とも呼ばれるフューリーの大口を封じることに成功。井上と入れ替わり、世界的に権威があるとされる米国専門メディア「ザ・リング」のPFPトップに君臨することになった。

 ウシク(22勝14KO無敗)が今回そのポジションを“防衛”できる可能性はどれくらいあるだろうか。

5月の第1戦でフューリーに左強打を見舞うウシク(写真:CTV News)
5月の第1戦でフューリーに左強打を見舞うウシク(写真:CTV News)

予想はややウシクが有利

 オッズメーカー「bet365.com」は今日現在7-4でウシク有利としている。これは9月中旬の数字と変わらない。初戦は身長、リーチと体重で勝るフューリーが前半、アウトボクシングでリードしたが中盤から距離を詰めたウシクが極端に言えばド突き合いのような攻防に持ち込み、押し切った印象がした。フューリーとすれば、持ち味のテクニックとスピードそしてフットワークを活かしたボクシングを再戦でも貫きたいところ。デオンテイ・ワイルダー(米=元WBC世界ヘビー級王者)との3試合で何度もピンチに遭遇しながらも脱却した勝負強さは特筆すべきものがある。

 しかし1歳年上ながらウシク(37歳)はいまだにフレッシュさを発散させるボクサーだ。逆にフューリー(34勝24KO1敗1分)は下降線をたどっているという指摘もされる。即、リマッチが締結したのは両者の契約に再戦の条項が明記されているからに他ならない。ビッグマネーが保証されているだけに両者がサインを拒否するわけがない。ただフューリーは連敗すると後がないと見られる。キャリア続行が問いただされることになるだろう。

 そこで奮起したフューリーが眠りから覚めたように一世一代のパフォーマンスを披露して難敵ウシクにリベンジするシナリオもなくはない。ただし冷静に第1戦の内容を分析し、2人の現状の戦力を比較すると、オッズが正しいと思えてくる。

 予想の主流は今回も接戦になり、ウシクが小差の判定勝利を得るというもの。とはいえ23日にロンドンで開催された記者会見で両者が主張した「この試合は12ラウンドの戦いにならない」という発言が現実となれば、インパクトは絶大だろう。ウシクがストップ勝ちすれば、PFPキングの防衛は固い。反対にフューリーが倒して勝てば一気にトップへ躍り出ることもありえるかもしれない。やはりヘビー級のステータスは大きい。

ロンドンでの会見で顔を合わせたウシクとフューリー
ロンドンでの会見で顔を合わせたウシクとフューリー写真:ロイター/アフロ

3日後登場の井上に期待

 ウシクには2024年MVPの栄冠もフューリー戦にかかる。当然ながらライバルは井上尚弥ということになる。むしろ2017年以来、年3度リングに登場することになる井上の方がMVPとしての価値はウシクより上になるはずだ。ただしPFPとなると、「圧勝して当然」と見られるグッドマン相手では相当にインパクトある勝利を収めない限り奪回は難しいだろう。

 何しろオッズは33-1で井上、グッドマンは12倍といったところで圧倒的にモンスター有利と出ている。比較的、井上に対して好意的な評価を下すザ・リングにしても1位抜擢は、たとえ抜群の出来を披露しても判断に苦しむのではないか。去年、井上にTKO負けしたスティーブン・フルトン(米)の方がグッドマンよりずっといい選手だという風潮も米国メディアにはある。それでも井上vs.グッドマンはスペクタクル性が大いに期待できると思われ、塩試合に終わる可能性はウシクvs.フューリーの方が大きいとみる。

 そのウシクvs.フューリーが初戦に続き判定決着となった場合は試合内容に左右される。仮に判定に問題が生じ、第3戦が待望されるような展開になれば、井上に首位奪回のチャンス到来とも推測できる。逆に第1戦を超える華々しい攻防に終始すれば勝者はプラスアルファの評価を勝ち得るに違いない。

 PFPトップがかかる争いは昨年7月の井上vs.フルトンのスーパーバンタム級2団体統一戦、テレンス・クロフォードvs.エロール・スペンスJr(ともに米)のウェルター級4団体統一タイトルマッチを想起させる。あの時は先にフルトンを倒した井上の出来も非の打ちどころがなかったが、4日後にスペンスを一蹴してストップしたクロフォードに軍配が上がる結果になった。それを考えると今回、3日後のクリスマスイブにリングに登場する井上のパフォーマンスがますます楽しみになってくる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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