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敗者ロマゴンはなぜ「勝者」と支持されるのか。エストラーダとの激闘はいまだに論議の的

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロマゴンは勝っていた?(写真:Ed Mulholland/Matchroom)

 期待通りの熱戦となった、いや期待以上の激闘となったスーパーフライ級統一戦。3月13日、米テキサス州ダラスのアメリカン・エアーラインズで行われたWBC王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)vsWBAスーパー王者ローマン・ゴンサレス(ロマゴン=ニカラグア)は2-1のスプリットデシジョンでエストラーダが2本のベルトを手中にした。

 スコアカードが割れたように観戦者によってさまざまな見解、判断がされた一戦だった。それでも117-111でエストラーダの勝ちと採点したベネズエラ人でマイアミ在住のジャッジ、カルロス・スクレ氏がWBAからサスペンドされたのは至極当然という見方がされる。他の2ジャッジ、ジェシー・レイジェス氏(米)は115-113でゴンサレス、デビッド・サザーランド氏(米)は115-113でエストラーダを支持。アグレッシブさを取るかクリーンヒットを優先するかといった採点基準もスコアが分かれる原因となった。

ロマゴンの勝利一色

 私は115-113でエストラーダの勝ち。これは「許容範囲」かなと思っていたら、米国などでは少数派だった。ある著名トレーナーがフェイスブックで発信したデータでは圧倒的に“ロマゴン”勝利の意見が多い。

 まずメディア関係ではダン・ラファエル記者(元ESPNドットコム。現在フリー)は116-112、ボクシングシーン・ドットコムは115-113、バッドレフト・ドットコムとボクシングニュース24ドットコムも116-112でゴンサレスの勝ち。

 トム・グレイ記者(リング誌)は116-113、グラハム・ヒューストン氏(殿堂入り記者。現ボクシング・ソーシャル)は115-113、ナイジェル・コリンズ氏(元リング誌編集長。現ESPNドットコム)も115-113でゴンサレス。

 ダグラス・フィッシャー氏(現リング誌編集長)は115-113、マイク・コッピンガー記者(ザ・アスレチック)、ノーム・フラウエンハイム記者(アリゾナ州。複数メディアに寄稿)、フェルナンド・バルボサ氏(ESPN)、アダム・アブラモウィッツ氏(サタデーナイト・ボクシング)、ダニエル・ヴァーノ氏(ニューヨーク州記者)も115-113でゴンサレスを支持した。

 さらにダビ・ファイテルソン氏(ESPNデポルテス。メキシコ人)、マルコス・ビジェガス氏(FOXテレビのスコアラー)も“チョコラティート”ことゴンサレスの勝利を主張する。

 ラテン系ではマルセロ・ゴンサレス氏(アルゼンチン・メディア)、アレホ・リベラ氏(ボクセオ・プラス)ともに116-112でゴンサレス。エストラーダと対戦したエルナン“タイソン”マルケス(元WBAフライ級王者。メキシコ)もチョコラティート。ゴンサレスに王座を奪われた元WBAスーパーフライ級王者カリド・ヤファイ(英)も間違いなくゴンサレスが勝っていたとツイートしている。

 そしてESPNで中継の解説を担当するアンドレ・ウォード氏(元スーパーミドル級&ライトヘビー級統一王者。米)も115-113でゴンサレスを支持。同じくESPNのコメンテイターで元スーパーライト級&ウェルター級王者ティモシー・ブラッドリー氏(米)、プロモーターのルウ・ディベラ氏も軒並みチョコラティートの勝ちに傾く。

391対314/2人で2529発

 私は最終12ラウンド、ゴンサレスがダメージを与えた場面を除き、見応えがある攻防の中でエストラーダがアウトボクシングを貫いたように感じた。しかし上記の識者や新旧ボクサーの見解から終始攻撃的な姿勢を示したゴンサレスの方が評価されたとみる。改めてエストラーダを支持する意見やスコアを探したが、すぐに出てこなかった。それが真の勝者が誰だったかを暗示しているように思う。

 試合後に発表されるパンチ・スタッツ(コンピュータ集計)を私はあまり重視しない。だが今回の一戦に限り真実を言い当てていたかもしれない。エストラーダは1212発パンチを出し314発当てた(的中率26パーセント)。対するゴンサレスは1317発繰り出し391発ヒット(同30パーセント)。それにしても2人合わせて2529発という手数の応酬は驚くほかない。

 プロモーターのエディ・ハーン氏(マッチルーム・ボクシング)は「エストラーダのファイトマネーがイルディリムの250万ドルより少ないのは私を悲しい気持ちにさせる」と語った。これは2月20日マイアミで当代一のスター選手、WBAスーパー・WBC統一スーパーミドル級王者カネロ・アルバレス(メキシコ)に挑んで3回終了棄権TKO負けしたアブニ・イルディリム(トルコ)を引き合いに出してエストラーダの健闘を称えたもの。同じ言葉はそっくりゴンサレスにも当てはまるだろう。

論議を呼ぶものの激戦を制したエストラーダ(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)
論議を呼ぶものの激戦を制したエストラーダ(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)

最高のパフォーマンスだった

 再度、米国メディアの見解をチェックすると、前半ややエストラーダが押し気味に進めた後、ゴンサレスがインサイドの攻防で優位に立ち、アッパーカットを中心にボディーアタックを強化したことが優勢に展開できた理由だという。確かに私もそう思う。だがジャブを放ちながら先手を取ったのはエストラーダだったと思った。またゴンサレスは多彩なアングルからの波状攻撃を得意とするが、あの日はやや後手に回る場面が見られたと感じた。

 しかし識者の意見は違った。試合を米国に中継したストリーミング配信DAZNでコメンテイターとインタビュアーを務めるクリス・マニックス氏は「チョコラティートは輝くようなパフォーマンスを披露した。33歳になっても以前と同じレベルでファイトできることを証明した。視聴者や観衆はリアルタイムでレジェンドを観戦できたのだ」と絶賛。また「チョコラティートは、ここ数年で最高のパフォーマンスを見せつけた。残念なのは勝利から見放されたことだ」(ボクシングニュース24ドットコム)という意見もある。

ハグラーの面影とロマゴン

 試合内容と結末から思い出したのが同日他界したミドル級の“比類なき”王者マーベラス・マービン・ハグラー氏(享年66)のこと。ラストファイトとなったシュガー・レイ・レナード戦で勝利を支持する声が多かったハグラー氏と“ロマゴン”がダブってしまった。

 米国のラテン系、メキシコ人のほとんどはゴンサレスの勝ちと見ているという。エストラーダの母国メキシコでも4人のうち3人がチョコラティートを支持しているそうだ。一時、失意のためグローブを吊るすことも頭をよぎったロマゴンだが復帰を明言。第3戦は必至と見られる。ちなみにハーン・プロモーターは今回、「もし試合がエキサイティングなものでなかったら、この商売から身を引く」と見栄を切った。第3戦が決まれば果たして氏からどんな言葉が発せられるだろうか。

第3戦へ意欲を見せるロマゴン(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)
第3戦へ意欲を見せるロマゴン(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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