バム・ロドリゲスの勢いが止まらない。中谷潤人そして井上尚弥との遭遇はいつ?
連続してインパクト十分のKO劇
米国軽量級のスター選手、WBC世界スーパーフライ級王者ジェシー“バム”ロドリゲスが9日(日本時間10日)米ペンシルベニア州フィラデルフィアのウェルズファーゴ・センターで同級暫定王者ペドロ・ゲバラ(メキシコ)に3回2分47秒KO勝ち。今年6月、長らくクラスの第一人者に君臨したフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)を倒して奪った王座の防衛を果たした。
“ガジョ”(闘鶏)ことエストラーダをノックアウトした右ボディーも強烈だったが、これまで47戦して一度もKO負けがなかったゲバラを撃沈したシーンもインパクト十分だった。3ラウンドに発生した2度のダウンシーンは最初が左ストレート、フィニッシュは右アッパーカット。日本でWBC世界ライトフライ級王座を争い八重樫東(大橋)、木村悠(帝拳)、寺地拳四朗(BMB)と対戦したメキシコ人に力の差を見せつけた。
当日は地元フィラデルフィアのIBF世界ウェルター級王者ジャロン・エニス(米)が指名挑戦者カレン・チュカジャン(ウクライナ)と防衛戦を行い3-0判定勝ち。しかしストップ勝ちを約束したエニスはダウンを一度奪うだけにとどまり、相手を持て余した印象が濃く、いっそうバムの勝ちっぷりが映えることになった。
次はロマゴンと一騎打ちか
試合前のオッズが18-1でバム有利だっただけに勝利は当然といえる。それでも「自分のパフォーマンスにハッピー。でも予めこうなることはわかっていた」と勝者は自信を隠せなかった。さらに試合内容を振り返り「彼はもっと正面から攻めてきてファイトすると想像していた。でもスタートから動いて揺さぶりをかけてきた。そこで私が何者であるかを証明できた」と発言。武器であるアングル取りの巧妙さをアピールし、対応力の高さを自負しているように思えた。
次戦に話が飛ぶと「この階級での統一戦を優先したい」とバム。7月、井岡一翔(志成)とのスーパーフライ級2団体統一戦に勝ったWBAスーパー・IBF統一王者(先月末IBF王座は返上)フェルナンド“プーマ”マルティネス(アルゼンチン)の名前をあげた。マルティネスと井岡は大みそかにダイレクトリマッチが有力だけに、その勝者とバムが対決する動きになるだろうが、どちらにしてもファン垂涎のカードになる。
バム・ロドリゲスvs.ペドロ・ゲバラ
ただ、スペイン語メディア「ESPNデポルテス」によるとバム(21勝14KO無敗=24歳)の次戦は4階級制覇王者“チョコラティート”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が最有力候補だという。日本では“ロマゴン”の呼称が定着しているゴンサレスは“ガジョ”エストラーダとの第3戦で惜敗した後、2023年は全休。バンタム級進出が濃厚に思えた。しかし7月、地元で587日ぶりに復帰しロベル・バレラ(コロンビア)に10回TKO勝ち。スーパーフライ級で再び王座カムバックを目指すもようだ。
ゲバラに勝ったリング上にはバムの共同プロモーター、エディ・ハーン氏(マッチルーム・ボクシング)も帯同。「あえて言わせてもらうが、バムに統一戦が実現しなければ、次はチョコラティートだ」と明言。ロマゴンと交渉を開始する素振りを見せる。バムもロマゴンも帝拳ジムと契約を結ぶ選手。日本でこのカードが組まれる可能性も少なくない。だが“あえて”と言ったハーン氏はバムvs.ロマゴンに相当、入れ込んでいる様子がうかがえる。ロマゴン(52勝42KO4敗=37歳)がエストラーダ戦を前にしたバムをスパーリングパートナーとしてサポートした背景もあり、今後どう展開するか興味は尽きない。
すぐにバンタム級進出も想定内
それにしても、マルティネス、井岡、ロマゴンとここまで触れただけでも魅力満点のカードが待望されるバムはやはり只者ではない。軽量級が冷遇される傾向がある米国リングでは一段と存在感が引き立つ。彼の師匠、ロバート・ガルシア・トレーナーは「115(スーパーフライ級)でバムが希望する試合が締結しないケースは、いち早く118(バンタム級)へ舵を切るだろう」と米国メディアに明かしている。補足として「彼は何事もチャレンジするのが好きなんだ」と同氏。
確かにバムは最初に今、腰に巻くWBCスーパーフライ級ベルトを獲得し、クラスをフライ級へ落とし、WBO王者に就き“逆2階級制覇”に成功。そこで3戦前にサニー・エドワーズ(英)をストップしてIBFとの2団体統一王者に君臨した後、またスーパーフライ級へ戻り強敵エストラーダを破って自身2度目となるタイトルを獲得した。これらを踏まえるとバンタム級進出はかなり有望で既定路線だと受け取れる。
ご存知のようにバンタム級は現在、世界王者4人が全員日本人で占められている。日本のジムの契約選手バムが今後、彼らと雌雄を決するシナリオは十分に想像可能。立ちはだかるチャンピオンたちもバム相手の防衛戦となれば、武者震いするだろう。
4人の王者の中で最近のファイトでファンをシビレさせているWBC王者の中谷潤人(M.T)にバムが挑む――想像するだけで胸が躍ってしまう。果たして2人は近い将来、グローブを交えることになるだろうか。
ビッグファイト実現はバム次第
すでに中谷には“モンスター”スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)との超ビッグファイトが話題に上っている。それでも来年2月頃に予定される次戦はバンタム級王座の防衛戦だと思って間違いない。だが、すぐにバムが対立コーナーに陣取ることは常識的に考えてあり得ない。おそらく次に中谷は来年夏にリングに戻って来るだろう。場所は米国リングかもしれない。そこでバムの挑戦を受ける見通しもなくはない。トップランクと契約を交わした中谷にはこれまでにないビッグステージとなる。
中谷がバムを破れば、これ以上ない箔づけになるはずだ。来年の今頃は「中谷、モンスターに挑戦!」という見出しがメディアに躍っているに違いない。その時、井上がまだスーパーバンタム級にとどまっているか、すでにフェザー級へ上がっているかで中谷戦実現の可能性、タイミングは変わってくるが、その展開を切望しているファンは多いはずだ。
もしバムが中谷に勝てば、一気に井上挑戦がクローズアップされるだろう。だが2人が相まみえるのは、それから少し先になるか。いずれにしても米国軽量級随一のスター、バムの試合結果と動向が重要なパートを占めることになる。Bam(強打する)の一撃が今後を左右する。