ISの元人質が語る人身売買と奴隷の現状
現在ISによって約3500人が奴隷状態に置かれているとみられ、女性の多くが性奴隷にされている。子どもはISの軍隊として軍事訓練などを行われ、仲間入りするよう過激思想を植え付けられる。
まるで20世紀のようだが、こうした状況が現在起こっている。
イラクの宗教的少数派ヤジディ派の女性2人が脱出に成功し、その実態をFTのインタビューで答えた。日本に住んでいる私たちにとって想像を絶するが、具体的にどのようなことが起きているのか簡単に紹介していきたい。
彼女(ラヤンさん、仮名、24歳)は2014年8月にISが村を襲撃した際に「戦利品」として連れ去られた。
親や兄弟とは引き離され(いまだに見つかっていない)、シリアまでバスで他の女性らと一緒に連行。そして、気づいたら他の女性が部屋に入れられ、レイプされていた。帰ってきた女性は泣き崩れ、"もう私たちの人生は終わった"と述べた。
その後、バスで町から町へ転々と運ばれ、4500ドル(約54万円)で売買、「奴隷」として扱われた。ラヤンさんはカザフスタン人の指揮官に買われたが、2人の妻にいじめられ、コーランを読むように強制させられた。ラヤンさんは数ヶ月お風呂に入ることもできず、食事が与えられない時もあったという。
ISがヤジディ派を虐殺したと聞いた時にはカザフスタン人の指揮官に「なぜ私の兄弟を殺すの?」と聞いたが、「神の意志だ」としか答えなかった。しかし、米国が主導する空爆によって、"家族”はバラバラになり、必死に逃げ回って、たまたま逃げ込んだ家で、匿っているのが見つかれば一緒に殺されるためISに連れ戻されることも多いが、無事に保護された。
もう一人の女性、バスマさん(仮名)はもっと複雑な道を辿った。
既婚者であった彼女もバスで連れ回され、ISの幹部に買われた。その数ヶ月後には、数人の若い兵士に買われ、性奴隷として扱われただけではなく、結婚まで強要されたという。
バスマさんは14歳の少年と同じ家に入れられ、その少年は自爆ベルトや車に詰め込む爆弾などを作らされた。しかし、買主がバスマさんに惚れたのかお金のためか、シリアの中心街へとバスマさんの子どもと一緒に車に乗せて逃がしてくれることとなった。その後買主からバスマさんに電話があり、"あなたの声が聞けなくて寂しい。子どもにも会いたい。あなたが幸せか知りたい”と言ったが、バスマさんは"あなたは15000ドル(180万円)を得たんだから気にしなくていい”と冷たく対応し、こう言っている。"彼はモンスター”だと。
また、こうした奴隷となっている人々を助けるのにも大金が必要になっている。レンタカーや部族とのやりとりなどで、最大で2500ドル(30万円)がかかるとされており、昨年の秋には100人以上が救出されている。つまり、(最大で)3000万円かかっている。
このような奴隷の現状は、文字にするとなかなか実感が湧かないが、実際は相当過酷な状況だろう。ISが運営している奴隷市場では数百ドルから数千ドルで取り引きされている。
2014年から1万人近くが奴隷として拉致されており、その多くが女性や子どもだ。ISのヤジディ派に対する虐殺と拉致は戦略的に行われている。その目的は性奴隷を獲得して、幹部、前線にいる若い戦闘員に女性を与えて士気を高めることにある。イスラム世界では、若い男性が女性と接する機会はほとんどなく、ISに入れば女性が手に入るという売り文句で新兵を募集している。また、子どもは過激思想に染まりやすく、戦闘員不足を補うために育てられている。
奴隷として連れてこられると、ISが欧米人の首を切断する場面のビデオを見せられ、ヤジディ教からイスラム教に改宗しなければ、お前も同じ運命を辿ることになると脅されるという。
人質となった米国人女性は、最高指導者バグダディ容疑者の性奴隷となり、改宗と結婚を強要され、それを断ったために殺害された。さらに死んだ証拠として両親に彼女の写真を送りつけていた。
こうした状況が今でも続いている。もちろん性奴隷だけではなく、空爆や戦闘による死亡者も多い。シリア人権監視団によると、1月にはシリアで4680人が死亡、そのうち民間人が1345人(うち子ども295人)を占める。また、その民間人の約半数がロシア軍の空爆によって殺されている。
現在、ジュネーブで和平協議が行われているが、対話がうまくいっておらず解決の目処は立っていない。反体制派は「ロシアの空爆停止が交渉を始める最低条件だ」と述べており、今回の和平協議が成功するかはロシアがカギを握っている。シリア問題が解決しなければ、本格的にISを崩壊させることもできず、奴隷となる被害者は増え続けるだろう。