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『ぐるナイおもしろ荘』で岡村隆史がもっとも気に入った女芸人ゆめちゃんの「奇妙なフレーズ」は何か

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

『絶対に笑ってはいけない』の流れからの『ぐるナイおもしろ荘』

大晦日12時を越えて年が明けたあと、1月1日最初に見る番組は『ぐるナイおもしろ荘』だという人も多いだろう。

年明け1日の午前0時30分から始まる。

もともと『絶対に笑ってはいけない』シリーズを見終わったその流れで見続けることが多かった番組だ。

でも、今年2022年は『絶対に笑ってはいけない』は放送されずに別の企画番組になっていた。

しっかり見ていたわけではないが、なかなかすっと入り込めない番組だった。

日を跨いで、つまり年を跨いでからしばらく見ていたが、まったく内容についていけないかった。

何だったんだろう。

すぐに『ぐるナイおもしろ荘』が始まって、とてもほっとした。

本当に無名な芸人がでてくる『ぐるナイおもしろ荘』

『ぐるナイおもしろ荘』はネタ番組であるが、出てくる芸人たちが本気で無名である。

毎年10組出てくるが、本当にほぼ知らない。

テレビ初出演とか、全国ネット初出演とかの芸人さんが多い。

そのへんに、新年とはいえ、えもいわれぬ深夜感がある。

深夜だから、おもしろいか、おもしろくないか、微妙なラインの芸人さんたちなのだ。

かなり変わった芸風の人たちもでてくる。

ちょっとキワモノじみている。

でも「深夜の新年」というハイな気分が影響しているのか、笑い続けてしまうことが多い。

芸人が本来もっている「くすんだ気配」

近年は「お笑い好き」というふつうの人が増えてきて、そのぶん「表面上は洗練された気配」の芸人も多くなっている。

M−1人気が異様に高くなっていくのとリンクしていような気配である。

でも本来の「芸人」は、いま「文政天保のころの寄席小屋」に放り込んでも何とか客受けさせるそうなしぶとさと泥くささがあるもので、そういう意味で本物の芸人は「すれっからし」でないとやっていけない。

だから、だいたい「くすんだところ」がある。

この正月番組にはその「すれっからしで、くすんだ芸人になりそうな気配たっぷりの若手」が揃っているのである。

そこがなかなかたまらない。

ぎりぎり境界線の芸人のおもしろさ

「ぐるナイおもしろ荘」では「TVショウのタレントとして活躍できる可能性を少しだけれど持っている気配の芸人」と「寄席小屋で内々に受ける芸をつなぐくすんだ気配の芸人」が混じっている。

いちおうテレビ番組だから(しかも生中継でもないし)、ほんとうに怪しい部分は消されているとおもうが、ときどきかなり濃厚に「くすんだ気配」が漂ってくる。

それでいて(というか、だからこそというか)みんな、これをきっかけに売れようと必死で、この番組ではその必死さがくっきり見えてくる。

そこもまた深夜番組らしくて楽しい。

「やす子」と「エビバディ」は2021年に出場

実際、この番組で初めて見た芸人が、そのあとどんどん露出が増えることがあるのだ。

たとえば2021年でいえば、「やす子」だろう。

2022年でコーナーMCを任されていた。

「やす子」は、元自衛官の女性芸人、「はいっ!」と甲高い声で答えるのが耳に残る芸人さんである。

また「クリティカルヒッ!」というリズム芸で2021年に知名度が一気に広がったエビバディも、2021年元日の「ぐるナイおもしろ荘」での露出が大きかったとおもう。

MCナイナイの岡村が「クリティカルヒッ!」がとても気に入り、何度も「クリティカルヒッ!」と繰り返し、エビバディもそれに反応していて、そこがとても耳に残った。

2021年の優勝はダイヤモンドだったのだが

『ぐるナイおもしろ荘』も、投票によって、出演者10人のうちの優勝者が決められている。あまり意味がない。というか重みはない。

また2位と3位も発表される。

「やす子」は2021年3位であった。

2021年の優勝はダイヤモンド。

スタバの一番大きいのはベンティというネタで、かなりまっとうな漫才だった。

そのためか2021年さほどブレイクしていない。

そもそも2022年の同番組で、呼ばれたのが3位の「やす子」で、ダイヤモンドが呼ばれてないというところがすべてだろう。

エイトブリッジ、そいつどいつ、餅田コシヒカリ、ラランドが2020年組

つまり「ぐるナイおもしろ荘」に出たからといって、全員、有名になるわけではない。半分は忘れ去られるという感じである。

また優勝したからといって、その後のブレイクが約束されているわけではない。

そんへんはリアルに深夜番組らしい。

前々年2020年正月に出場したメンバーでは、エイトブリッジ、そいつどいつ、駆け抜けて軽トラ(特に餅田コシヒカリ)、ラランド、このあたりがその後、いろんなところで見かけるようになった芸人である。

ただ、見かけるといったって、ほんとにしばらく見かけただけ、のこともある。

やがてゆるやかに消えていく若手もいる。そのへんはしかたがない。

「フレーズ」の勝負となってくる

前年と前々年のことをおもいだしてみると、どこかに切れ味にいい部分がないと覚えていられない。

全体でおもしろいお笑いをつくっても印象に残らないのだ。誰もM−1のように真剣に見ていない。

だからある意味「フレーズ」の勝負でもある。

「フレーズ」だけでは決まるわけではないが、でも耳に残る音があれば強い。

2022年もっとも耳に残ったゆめちゃんの「シカゴッ!」

今年2022年に優勝したのは「ゆめちゃん」だった。

ミュージカル女優を目指している彼女の、奇妙な踊りと「シカゴッ!」という叫びがとても耳に残った。

「シカゴッ!」が決めセリフで、それを変えてくる。

まったく変えて、はずしてしまうこともあって、そこも含めて、めちゃおもしろかった。おもいだしても笑ってしまう。

「シカゴッ!」は、「鹿5」であったり「四か五」であったり、あとは「さかご」「あかご」「いなご」などに変わっていくのだが、べつだん意味はどうでもいい。

途中何を言っているのかわからないところが何度もあり、有吉はネタどうでもよくてただふざけているだけだと指摘し、出川哲朗も何やってるかわからなかったと言っていた。

それが「おもしろ荘」らしくて、いいんである。

岡村が何度も「シカゴッ!」と声をかけていて、これは「クリティカルヒッ!」のときと同じである。

2021年に岡村隆史が気に入っていたフレーズは「クリティカルヒッ!」であり、2022年はあきらかに「シカゴッ!」であった。

白石麻衣も気に入っていた。

2022年、「シカゴッ!」をこれから何度も聞きそうな予感がする。

「米騒動!」の「あっぱれ婦人会」

上位に入らなかったけれど、「あっぱれ婦人会」も強烈だった。

40代おばさんコンビの、悪ふざけにつぐ悪ふざけ芸だ。

彼女たちも何を言ってるのかよく分からなかったが、踊り出したとき、椅子を肩に担いで「米騒動!」と叫んでいるところは聞き取れた。

「米騒動!」「エッサエッサエッサッサ」というところばかりが強く印象に残る。

あまりに暴れすぎてスカートの裾が繰り返し翻っていたけれど、まったくそっち方面には気にならないという「本物のおばさん感」もすごかった。

ちょっと忘れられない。また、見てみたい。

見たいとはいっても、ときどきでいいし、深夜の変なテンションのときでないとダメだとおもうのだけれど、でもまた見たい。

「ニュートンズ」の鳩と「ブラゴーリ」のゾウ

あとは「ニュートンズ」。

鳩くんの表情が、とても印象的だった。

いま見返して気づいたが、「ゆめちゃん」「あっぱれ婦人会」「ニュートンズ」は後半になって連続して出ている3組だった。

「ゆめちゃん」のシカゴッ!にやられて、見てるほうが変なテンションになって、そのまま引っ張られたのかもしれない。

最初に出てきた「ブラゴーリ」も、これも「ゾウが強い」ということを見せるだけの悪ふざけの芸であった。

とくに、塚田は名前を呼ばれるたびに「塚田!」と答えるところがこれも意味がわからず、笑ってしまった。ちょっとバカすぎである。

でも最初に出てきたので、次々と出る強烈な存在にかなり印象が薄れてしまった。

しかたない。

どんな番組でも出順はいろんなことに大きく影響する。

そしてそれはまた、その人たちが持っている運だと考えるしかないのだ。

ゆめちゃんの「シカゴッ!」は世間を席捲できるか

印象に残ったのはそのあたりである。

年に一回の大会で、大半はすぐに忘れてしまう。

それでも、しぶとく生き残り「フレーズ」が広がっていくことあって、それを見ているのは楽しい。

ゆめちゃんの「シカゴッ!」に期待したい。

まとめておくと、2022年、おもしろ荘出身としては、

「ゆめちゃん」「あっぱれ婦人会」「ブラゴーリ」

に要注目である。

いま書きだして、「ニュートンズ」はちょっと弱いかなあとおもったので、はずしてしまった。すまぬ。

とにかくがんばっていただきたい。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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