パトリオットPAC-3でイスカンデルM弾道ミサイルを撃墜、キーウ防空戦闘
ウクライナ空軍司令部は、5月29日11時30分(現地時間)に首都キーウにロシア軍のイスカンデルM弾道ミサイルとイスカンデルK巡航ミサイル合計11発が飛来、全弾を撃墜したと発表しました。
これは5月28日に自爆無人機が54機飛来、5月29日夜明け前に巡航ミサイル40発と自爆無人機35機が飛来した攻撃に直ぐ続くものでした。(こちらはウクライナ全土に攻撃された数の集計。)
- "Іскандер-М" イスカンデルM弾道ミサイル
- "Іскандер-К" イスカンデルK巡航ミサイル
- "ОТРК" 「戦術任務ミサイル複合体」の略
※イスカンデルM弾道ミサイルとイスカンデルK巡航ミサイルは大きさも種類も全く異なるミサイルですが、同じ発射車両から撃つことが出来ます。
キーウの路上にパトリオット防空システムのPAC-3迎撃ミサイルの残骸が落下していることが確認されています。残骸の大きさと形状、特に安定翼と操舵翼の特徴から、衝突の衝撃で部品の脱落があるものの、PAC-3迎撃ミサイル(初期型ないしCRI型)の尾部だと推定されます。
これは対弾道ミサイル迎撃戦闘でイスカンデルM弾道ミサイルにPAC-3が直撃して撃墜に成功したものと見られます。
PAC-3迎撃ミサイルの残骸が道路上に落下する様子(Liveuamap)
道路上に落下したPAC-3迎撃ミサイルの残骸は幸いにして自動車へ直撃することはなく、死傷者は出ませんでした。ただし偶然の結果です。地上に弾道ミサイルが直撃するよりは被害は遥かに少なくて済みますが、迎撃に成功しても残骸はどうしても降ってきます。※落下の別視点の動画(NEXTA)
PAC-3迎撃戦闘の様子(Jaime)
5月29日のパトリオットPAC-3の迎撃戦闘の様子です。7秒以降と11秒以降に空中に突然に白く短い煙が発生しますが、これはPAC-3迎撃ミサイルのサイドスラスターが噴射した様子です。
PAC-3は炸薬を搭載せず、代わりにそのスペースにACM(姿勢制御モーター) と呼ばれる小型固体ロケットモーターを180個も搭載してサイドスラスターとして使用します。近接爆破を行わず体当り直撃で目標を撃破する、対弾道ミサイル用の特殊な迎撃ミサイルです。
PAC-3迎撃戦闘の様子(Max Zander)
空中に幾つもの白い小さな丸い雲が発生していますが、これはイスカンデル弾道ミサイルにPAC-3迎撃ミサイルが命中した様子です。
PAC-3は対弾道ミサイル戦闘時は近接爆破を行わず、体当りの直撃を行う特殊な迎撃ミサイルです。
ウクライナ軍パトリオット防空システム:対弾道ミサイル迎撃戦闘
- 5月04日:キンジャール×1
- 5月16日:キンジャール×6、イスカンデルM(推定)×3
- 5月29日:イスカンデル×11(M型とK型の数の内訳は不明)
イスカンデルM弾道ミサイルはキンジャールの原型のミサイルです。弾道ミサイルであるために巡航ミサイルよりも大きく高価なので備蓄数がそれほど多くなく、2022年2月からの開戦初期に在庫をほぼ撃ち尽くしていると見られていました。2022年10月から冬にかけての電力インフラを狙った攻撃でもほとんど投入されておらず、纏まった数の使用は1年近くぶりになります。
2週間前の5月16日に行われたキンジャール6発の攻撃に続く5月29日のイスカンデル11発の攻撃は、ロシア軍にどのような意図があるのでしょうか? 攻撃目標がパトリオット防空システムそのものだとすると、まるでアメリカ製の弾道ミサイル防衛システムにロシア製の機動式弾道ミサイルが何処まで通用するのか試しているかのような攻撃です。
パトリオットを撃破したかったのか、あるいは性能を探りたかっただけなのか。それとも首都を攻撃することでパトリオットを後方に釘付けにして、前線に配備されることを防ぎたかった牽制だったのか。
ロシア軍の攻撃理由ははっきりしていませんが、ウクライナ軍のパトリオット防空システムがキンジャール/イスカンデルに対して5月16日と5月29日の2回の攻撃とも凌ぎ切って有効に迎撃できており、弾道ミサイル防衛システムとしてPAC-3迎撃ミサイルが性能の真価を発揮していることは間違いない事実のようです。
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