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「キムチは伝統のチャイナ料理」――中国が韓国のプライドを傷つける強引な“現状変更”

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
キムチと泡菜の違いを強調する韓国農林畜産食品省の資料=筆者キャプチャー

 キムチといえば、朝鮮半島を代表する食べ物だが、最近、中国がその“現状変更”を試みるかのような言行を繰り返している。韓国側が敏感に反応すればするほど、中国側はその神経を逆なでするかのように挑発姿勢を前面に押し出している。

◇「泡菜」の認証を曲解

 ことの発端は昨年11月だった。

 中国にはキムチに似た発酵野菜「泡菜(パオツァイ)」がある。中国メディアによると、2017年ごろから、一大生産地・四川省眉山市が主導して、泡菜の作り方や運搬、保存に関する独自性を認証してもらうよう働きかけていた。

 その結果、世界標準規格を発行する非営利団体・国際標準化機構(ISO)は昨年11月24日、「ISO 24220泡菜(塩漬け発酵野菜)仕様と試験方法」を承認した。この時、英文名は「Pao cai(パオツァイ)」と記されていた。

 中国では韓国産キムチも「泡菜の一種」とみなして「泡菜」と呼ぶことがあるため、ISOはあえて「これはキムチには適用されない」と、両者を明確に区別するよう促していた。

 ところがその直後、共産党機関紙・人民日報系「環球時報」が、これを「中国のキムチ産業が国際キムチ市場の主要な指標になった」「キムチ宗主国の恥辱」などと伝えた。すると、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」などで、泡菜の国際標準なのに「キムチの国際標準」と曲解する書き込みが相次いだ。

 こうした動きに対し、韓国では激しい反発が起きた。農林畜産食品省も同29日に声明を発表し、「キムチと泡菜は別の食べ物である」「国際食品規格委員会(CODEX)が2001年に韓国のキムチに関する国際基準を策定している。今回のものは四川省の塩漬け野菜に関する事項である」「キムチと泡菜を区別せずに(泡菜の認証について)報じるのは不適切だ」と猛反発していた。

◇中韓YouTuberが「対決」

 この中韓の舌戦がネット上にも飛び火した。

 1410万人のフォロワーを有する中国人YouTuber「Liziqi」が最近、白菜キムチを漬ける場面の動画を「中国料理法」「中国料理」のタグとともにアップした。

 この動画に対する論評が韓国語で書き込まれ、「中国よ、どうかやめてほしい。キムチを自分たちのモノだといい、韓服から韓国という国まで、自分たちのモノと言うのか」などと反発が広がった。

 同時に「Liziqi」という存在についても否定的な見方が出て▽そもそも中国国内ではYouTube使用は許可されていないのに「Liziqi」は特別すぎる▽動画の撮影・編集の技術は非常に高い▽人民日報などでもその活動が取り上げられたことがある――などから「Liziqiの背後に中国当局の影が見え隠れする」などの指摘が相次いでいる。

 ただ、こうした韓国側の出方に対し、中国側は強硬姿勢で臨んでいる。

 529万人のフォロワーを持ち、中国でも人気のある韓国人YouTuber「Hamzy」が「キムチは韓国の食べ物なのは当たり前」とするコメントに「いいね」を付けたところ、中国側から「われわれを侮辱した」「反中国」との批判が巻き起こった。

 共産党政法委員会はこの件を念頭に今月13日に「韓国側は自分たちに対する自信が欠如し、被害妄想にとらわれている」などと露骨に批判。Hamzyの中国側事務所も同17日には「Hamzyの中国に対する侮辱が(中国の)大衆に極めて深刻な悪影響を及ぼしている」として契約解除を発表した。

 ただHamzyは同19日、YouTube上で「中国で活動するためにキムチを“中国料理”と言うならば、中国では活動しない。中国人も韓国で活動するために、中国料理を“韓国料理”と呼ぶ必要はない」と表明し、断固とした姿勢を示した。

 さらに、この話に中国外務省が割って入る。華春瑩報道局長は20日の定例記者会見で「泡菜は一部の国・地域にだけあるものではない。中国標準語でこれは『泡菜』と呼ばれ、中国朝鮮族や朝鮮半島では『キムチ』と呼ばれている」と指摘。キムチと泡菜を同一視するような発言をして韓国側の神経を逆なでした。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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