賞味期限切れを安く売る一方で販売期限切れを大量廃棄 1兆円の税金で家庭ごみと焼却処分 食品ロス減る?
報道では「食品ロス」がトレンドに
2008年から細々と「食品ロス」問題に取り組んできて、ここまで「食品ロス」がメディアに取り上げられることは初めてかもしれない。
2016年から「食品ロス」問題がメディアに取り上げられる機会が増えている。日本最大のビジネスデータベースサービス「G-Search」によれば、「食品ロス」という語句は、2016年以降、年に1,000件以上の頻度で、主要メディア150紙誌に取り上げられている。
2016年は、廃棄カツの転売問題が発生したため、特別多くなっている。2019年は、1月1日から6月12日までの半年近くで、すでに、2018年の一年間と並ぶくらいになっている。
2019年6月11日にフジテレビ系「めざましテレビ」12日に朝日新聞朝刊
筆者も、毎週、マスメディアの取材依頼を受けている。
6月11日にはフジテレビ系の「めざましテレビ」で、「今、人気の賞味期限切れ食品を売るお店」特集に関し、出演してコメントさせて頂いた。
6月12日には、朝日新聞朝刊のコンビニ値引き、食品ロス減る? ポイント還元、ローソン450店開始という記事の締めに、記者の方に1時間お話した内容から抽出されたコメントが掲載されている。
そもそも「余り過ぎ」
影響力の大きいマスメディアに食品ロス問題を取り上げて頂けるのはありがたい。賞味期限切れ食品を売る店の登場や、大手コンビニ各社が社会実験を始めている(企業によっては始めようとしている)のも、とてもよい動きだと思う。
最初の一歩を踏み出すのはエネルギーが要る。何もしないで今までと変わらずにいるのが一番ラクだが、そうではなく、さまざまな立場の人や組織が最初の一歩を踏み出していることは、素直に評価したい。
ただ、そもそも、日本全国に加工食品が「余り過ぎ」であるということを、マスメディアは指摘して欲しい。「安い」「ポイント」「いいね!」で終わらせるのではなく。
多くの一次産業品(野菜・果物・鮮魚・肉など)は、厳格な規格や生産調整で廃棄されている。
多くの先進国にある寄付者を守るための「免責制度」も日本にはない
せめて余剰食品は必要なところに提供したいが、日本には米国のような「善きサマリア人(びと)の法」のように、万が一食品事故が発生した場合、寄付者に責任を問わない免責制度がない。寄付者が法律や制度で守られない。せっかくいいことをしようとしても、企業が責任を負わされる可能性がある以上、ほとんどの食品企業が寄付せず廃棄するのは致し方ないだろう。善行のおかげで会社がつぶれてしまっては本末転倒だ。
企業がフードバンクなどに食品ロスを寄付した場合、全額損金算入とする制度が2018年12月に導入された。食品メーカーに14年以上勤めていた筆者の立場から言えば、米国のように全国の企業が自社食品を安心して寄付するためには、税制優遇によるコスト低減に加え、前述の免責が担保される必要がある。それがない限りは、多くの食品関連企業にとって、メリットよりデメリットが多いと判断せざるを得ないと思う。企業はボランティアではない。
「売り切れごめん」の商売、大手小売業では、ほぼ皆無?
賞味期限が切れる背景には複数の要因があるので、一概には言えない。ただ、少なくとも「売り切れごめん」ではなく、賞味期限や消費期限が切れるまで余剰在庫を抱えているということ、ではある。
コンビニの、消費期限の手前の弁当やおにぎりに、これまで100円で1ポイントつけていたのを100円で5ポイント付けますよというのも、消費期限ギリギリまで商品棚に残っているからできること、とも言える。欠品(棚に無くなること)は許されない、もしくは評価されないから。
食品ロスより「機会ロス(売り上げ機会の損失)」が悪とされる
消費者向けの講演で、「なんで企業は余るほど作るのか」という質問を受けることがある。それは食品業界の裏側をご存知ではないから指摘できることだ。
一部の食品関連企業は、「欠品=悪」という考え方をしている。「せっかく来たお客様に対し、商品がないとご迷惑をおかけしますから」という言い分だが、自分たちの店の売り上げを失うこと、他の競合店に客を取られることを恐れている、という事情も推察される。メーカーは、欠品を起こすと小売業から取引停止にされる可能性がある。彼らと取引を継続するためには欠品は決して起こしてはならず、必要以上に作らざるを得ない。
長年にわたって「機会ロス(売り上げ機会の損失)」を重要視する企業もある。
消費者は正当な怒りを持ち「おかしい」と問いかけする責務がある
消費者は、次の2つを知る必要がある。
1、捨てる前提で商売している食料品や店の価格には、食べ物を捨てるためのコスト(廃棄コスト)が間接的に含まれている
2、メーカーから出る食べ物ごみ以外の売れ残り食品は、自分たちが市区町村に納めた税金およそ1兆円で家庭ごみと一緒に焼却処分されている
日本のごみ処理費は、年間およそ2兆円。日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長は、そのうちの40%から半分近くが食べ物ごみだと推定している。概算に過ぎないが、税金1兆円が食べ物ごみの焼却に使われている計算になる。
消費者には権利があるが、一方で責務もある。これは、中学校の家庭科でも習う内容だ。
権利だけを主張するのはおかしい。事業活動に対し、批判的な視点で見て意見を述べることは、消費者の責務でもある。
消費者庁の資料には消費者の5つの責任が挙げられており、先頭には
『与えられた情報をうのみにするのではなく、「あれ?何かおかしいな?」と疑問や関心をもつ』
と書かれている。
具体的にどうしたら食品ロスは減るの?
では、具体的に、どうすれば食品ロスは減るのだろう。
本質的な答えは、環境配慮の原則である、3R(スリーアール)のうち、最優先のReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制、ごみやロスを出さない)を心がけることだ。
製造業者は、作り過ぎない。
小売業者は、売り過ぎない。
消費者は、買い過ぎない。
とはいえ、これは理想論なので、そう簡単に事が運ばない。だから、関係者は、もう何年も食品ロス削減に苦慮しているわけである・・・。
だが、小さくても、適正な数の製造や販売を実践している企業がある。
2014年6月12日 国際自然保護連合がニホンウナギを絶滅危惧種に指定
今から5年前の2014年6月12日、国際自然保護連合(IUCN)は、ニホンウナギを最新版レッドリストに加えたと発表した。レッドリストとは、絶滅の恐れがある野生生物を指定するものだ。絶滅危惧種に指定されたということになる。
セイコーマートは枯渇するウナギの代わりにさんまへシフト
そのほぼ1ヶ月後の2014年7月18日、北海道に拠点を置き全国でコンビニエンスストアを展開するセイコーマートの会長が講演し、ニホンウナギの話に触れている。
ニホンウナギが絶滅危惧種に指定された時点で、すでに、ニホンウナギを使ったうな重の代替品として、さんまの蒲焼重を提供している。
資源が少なくなっているものを、さらに減らすことに加担せず、「売り過ぎない」ことに着手している。
自社の売り上げだけを考えるのではなく、社会や地球全体の資源の持続可能性を考えている証だろう。
京都大学では潤沢にある魚資源を使った「ブルーシーフードカレー」を提供
ちなみにレッド(シーフード)の対語として「ブルー」が使われる。比較的資源が潤沢にある魚資源は「ブルーシーフード」と呼ばれることもある。京都大学の正門入ってすぐ左手にあるレストラン「カンフォーラ」では、「ブルーシーフードカレー」が提供されている。筆者が食べたときには、カレーの上に、ホタテやサバがのっていた。限りある資源を大事にしようという、京都大学の山極(やまぎわ)総長や京都大学の関係者の意思を表明する一品だ。
「もう大量販売はやめにしよう」の広告が大きな共感を生んだ兵庫県のヤマダストアー
枯渇する魚資源を無駄にしたくない、という思いで、「前年増」ではなく、前年と同じ数だけ(前年実績で)恵方巻きを作って売り切った兵庫県のスーパー、ヤマダストアーも、すでに「作り過ぎない」「売り過ぎない」を実践する企業の一つだろう。
「これから頑張ります」という学生と、すでに毎日実践している学生と、企業はどちらを採用するのか?
6月3日、NHKに出演した際、たくさんの学生たちが採用面接に訪れていた。
企業は、学生を人材として採用する際、今何もやっておらず、「そうですねー、今年の秋くらいから頑張りマース♪」という学生と、すでに必死で毎日何かに取り組んでいる学生と、どちらを採用するのだろうか。
消費者は、前者のように「がんばります」と言う企業と、後者のように、今この瞬間からロスを最小限に抑えて頑張っている企業の、どちらを選ぶだろう?
消費者には、権利と同時に、責任がある。