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ドメイン投票方式のメリット・デメリットと票を貯えられる投票方式の提案

島澤諭関東学院大学経済学部教授
写真はイメージです(写真:アフロ)

日本維新の会の吉村洋文共同代表(大阪府知事)は、次期衆議院選挙の公約に少子化対策として、0歳児への選挙権付与を盛り込む考えを示しました。

「0歳児選挙権」公約に 維新共同代表(時事通信 2024年5月13日)

巷では突拍子もない、バカげた提案だと頭ごなしに否定する向きも多いです。

米山隆一氏「0歳児は選挙権行使できません」ド正論ツッコミ 吉村府知事に「人目ひく綺麗ごと」(日刊スポーツ 2024年5月14日)

紀藤正樹弁護士 吉村府知事の〝0歳児選挙権〟案をバッサリ「平等権侵害として違憲無効な法律」(東スポ 2024年5月13日)

しかしながら、この提案自体は古くから議論されている投票方式であり、アメリカの人口学者ポール・ドメインが1986年に発表した論文に端を発するいわゆるドメイン投票方式として知られています。

ドメイン投票では、選挙権を与えられていない子の投票権を選挙権を有する親が子に代わって代理投票することになります。

また、欧米では投票権を割り当てられていない子の権利を擁護するために日本よりは昔から代理投票制度として真剣に議論されてきています。

ドイツやハンガリーでも議論されたことがありますし、日本の国会でも取り上げられた実績は既にあります。

吉村知事の提案の場合も、投票権を実際に行使するのは子供ではなく親であることに注意する必要はありますが、親は自らの子育て環境や子供の将来を改善してくれる政党なり候補者に投票することが期待されています。何より日本の置かれた文脈で考えれば、シルバー民主主義への対抗策となることも期待される訳です。

なお、蛇足ではありますが、シルバー民主主義への対抗策としての投票制度改革案としては、ドメイン投票の他に、年齢別選挙区平均余命投票など、主に経済学者から積極的に提案されていることを指摘しておきたいと思います。

しかし、実際には、親が子の嗜好を正しく認識し投票するかは分かりませんし、もし親が間違った政策を支持し子に莫大な政府債務などのツケが残った場合には、子が親の選択ミスの責任を負うことになってしまいます。もっとも高いハードルは一人一票の原則に抵触する可能性が高いことでしょう。

そして何より、投票権は基本的人権の一つですからたとえ0歳児であっても投票権は基本的人権として設定されているはずなのですが、判断力などの関係で政策的な見地から行使できないように制限されていると解釈できます。そうした基本的人権を親とはいえども他者に代理で行使させることの是非は徹底した議論が必要だと思います。

個人的には、子の基本的人権を侵害してまで親に代理投票させるのではなく、生まれた瞬間から投票権を付与するものではありますが行使できるのは18歳(現在の日本の場合)からとし、ただし、その時点で18歳までに蓄えた18票の投票権を保有し、しかも30歳になるまでは一度に保有する票数の範囲内で何票でも使ってもいいですし、また使わないで貯めておくこともできるようにする投票方式を提案したいと思います。Storable votingやCumulative votingの変種と言えるかと思います。

この変型Storable votingであれば、もちろん乗り越えなければならないハードルはドメイン投票方式と同様存在しますけれども、子の判断力の問題や代理投票の問題をクリアできますし、分別が付いた後に自分が一番推したい政策課題に多くの票を投じることで選好の強さも表明できますし、若い世代に多くの票を割り当てることができますからシルバー民主主義対策にもなります。

本当は、ドメイン投票であれ、本記事での提案であれ、こんな奇策に頼らずとも今を生きる私たち世代の責任としては、子供たちにも恥ずかしくない投票をすることだとは思います。

読者のみなさんはいかがお考えでしょうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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