「年収の壁」撤廃で人手不足はどうなる?
10月27日に行われた第50回衆議院議員総選挙でキャスティングボートを握った国民民主党の玉木雄一郎代表は、「手取りを増やす」を前面に打ち出し選挙戦を戦った経緯もあり、「103万円の壁」を178万円に引き上げる政策の実現を自民党に要求しています。
こうした所得控除額の引き上げは政府から見れば税収の減少にほかなりませんから、さっそく政府からは、所得控除の引き上げが実現されれば「減税」の規模は約8兆円になる試算が出され、その財源をどうするのかと指摘されれば、玉木代表は「103万円の壁の引き上げが実現されない限り、予算や法律には一切協力しない」と明言するなど、様々な駆け引きが行われています。
国民民主「年収の壁」対策、実現時7.6兆円減収 政府試算(2024年10月30日 日本経済新聞)
「103万円の壁」は本当に存在するのか?、社会保険料が発生しはじめる「106万円の壁」の方が現役世代にとっては大きな負担なのではないか?という問題はさておき、いわゆる「年収の壁」が撤廃されると、人手不足がどの程度解消されるのかについて見ておきたいと思います。
「年収の壁」議論再び 税制の誤解を解けるか(2024年10月31日 日本経済新聞)
総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」に、追加就労希望就業者という指標があります。この追加就労希望就業者とは、「定義上、就業時間が短い就業者のうち就業時間の追加を希望している者となるため、いわゆる「年収の壁」による就業時間の調整との関係が深い」とされています(内閣府「地域の経済2023」)。
同調査によれば、2024年4~6月期の、追加就労希望就業者は、全国で195万人、うち男性64万人、女性191万人となっていて、就業者数の2.9%に相当します。もちろん、195万人のすべてが103万円の壁が178万円に引き上げられれば、望むだけ就業時間を増やすわけではありませんが、一つの目安とはなるでしょう。
私たちの手取りを増やすには、もちろん憲法25条の生存権を保障するための最低生活費控除である人的控除の基礎控除額が長年据え置かれていることは全く正当化できませんから「103万円の壁」を引き上げるのは重要でしょう。
しかし、「社会保険料の壁」を崩すドラスティックな改革こそより喫緊の課題であり、そのためには、空洞化が著しい国民年金や現役世代から莫大な仕送り金に依存する高齢者医療制度の改革が不可避でしょう。
筆者は、「103万円の壁」もいいですが、異次元の少子化・高齢化の進行、経済の低迷、メタボな政府・社会保障などより大きな問題を見据えてこの国をどうしていくのかという日本のグランドデザインの在り方で連立の枠組みを決めていく必要があるように思いますが、いかがでしょうか?