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静岡県で線状降水帯発生 今年から線状降水帯の半日前予測が地方ごとから府県ごととなったものの

饒村曜気象予報士
大雨による水害と住宅(写真:イメージマート)

静岡県で線状降水帯

 令和6年(2024年)6月28日は、九州北部から関東地方にのびる梅雨前線上に発生した低気圧が東進したため、南海上から低気圧や前線に向かって、暖かくて湿った空気が流入したため、西日本から東日本では雨が続き、非常に激しい雨や雷雨になる所がありました(図1)。

図1 活発になった梅雨前線の雲と地上天気図(6月28日12時)
図1 活発になった梅雨前線の雲と地上天気図(6月28日12時)

 6月28日早朝の段階では、九州北部では午前中に「線状降水帯」が発生し、大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があると懸念されていましたが、実際に線状降水帯が発生したのは静岡県でした(図2)。

図2 静岡県の線状降水帯と3時間解析雨量(6月28日11時00分)
図2 静岡県の線状降水帯と3時間解析雨量(6月28日11時00分)

 西日本太平洋側から関東地方では24時間降水量が50ミリを超え、特に静岡県では高根山で247ミリなど200ミリ以上の大雨となり、東海道新幹線が一時運転を見合わせるなど、大きな影響がでました(図3)。

図3 6月28日0時から24時までの雨量(24時間降水量)
図3 6月28日0時から24時までの雨量(24時間降水量)

 線状降水帯は湿った空気の流入が持続することで積乱雲が次々に発生し、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで大雨をもたらし、災害の危険度が高まりますが、現状の観測・予測技術では、正確な予測が困難です。

 このため、気象庁は令和12年度(2030年)までの10年計画で、線状降水帯に関する情報の改善に取り組んでおり、その途中成果を使って線状降水帯に関する情報を発表しています。

 線状降水帯の半日前予報もその一つです。

線状降水帯の予測

 現在の天気予報はすべて数値予報が基本になっています。場所や高さによって異なる大気の状態は、3次元的な格子点ごとの風向や風速、気圧、気温、水蒸気量などで定量的に表すことができます。

 このように格子点上に表された気象要素の時間変化を物理学の法則を用いて計算し、将来の大気の状態を予想するのが数値予報です(図4)。

図4 数値予報のための格子の模式図
図4 数値予報のための格子の模式図

 しかし、これらの方程式は複雑に組み合わされており、膨大な計算量が必要な数値解析という方法を用いて解いています。数値予報は、その利用目的によって、いくつかの種類(モデル)があります(表1)。

表1 主な数値予報モデルの概要(令和6年(2024年)5月現在)
表1 主な数値予報モデルの概要(令和6年(2024年)5月現在)

 一般的に、この格子間隔を小さくすればするほど、予報期間を長くすればするほど、飛躍的に計算量が増えていきます。物理学の法則の数を増やし、より精密に適用すれば計算量はさらに増えます。このため、コンピュータの能力から、数値予報の予測精度の上限が決まっています。

 線状降水帯の予報に用いているのは、一番細かい数値予報モデルである局地モデルです。

 気象庁では、令和6年(2024年)3月から、従来の2倍の能力を持つ新しいスーパーコンピュータの運用を開始し、令和5年(2023年)3月に運用を開始した線状降水帯予測スーパーコンピュータと連携することで、従来の4倍の計算能力を持つようになり、局地モデルの予測時間は18時間先までとなっています。

 局地モデルの運用が始まったのは平成25年(2013年)3月で、主として航空気象用に使う9時間先までのものでした。そして、平成31年(2019年)3月に10時間先まで、令和6年(2024年)3月に18時間先までですから、この間の計算機の飛躍的進歩にかかわらず、9時間先から18時間先まで延長するのに10年以上かかっています。

 それだけ、計算資源が膨大に必要で難しかったのです。ただ、この延長ができたことから、降水帯の半日前予報は、地方ごとから府県ごとの細かさで予測することが可能になっています。

 とはいえ、線状降水帯の半日前予報の精度は、まだよくありません。

 気象庁が府県ごとの予報を始める前に、精度として、線状降水帯の2回に1回は見逃す可能性があり、線状降水帯が発生すると予報しても実際に発生するのは4回に1回くらいと発表していますが、この想定通りの精度の予報です(表2)。

表2 線状降水帯の府県別半日前予報の一覧
表2 線状降水帯の府県別半日前予報の一覧

 線状降水帯の半日前予報が府県ごとになってから、これまで4回の事例がありますが、甘く採点して、適中は1回ですし、県ごとに見ると、ハズレ感は大きいと思います。

 しかし、6月28日5時0分に気象庁が発表した情報では、線状降水帯が発生して大雨災害の危険が急激に高まる可能性がある地域と期間は、「福岡県・熊本県・大分県で、28日午前中にかけて」となっていますが、29日6時までの予想24時間雨量は、九州北部の150ミリに対し、東海地方は200ミリと予想しています。

 線状降水帯の予報はできなかったといっても、線状降水帯が発生したときくらいの雨量は予想できているのです。

 また、線状降水帯が発生しなかった5月下旬と6月中旬の場合も、大雨警報が発表になるほどの大雨が降り、被害が発生しています。

 精度が良くないといわれる現時点においても、かなりのことが予測できています。

 さらに、令和8年(2026年)からは、世界最速のコンピュータになったこともある「富岳」を使って1kmメッシュで18時間先までの計算を行う予定となっていますので、線状降水帯に関する情報は、いつまでも精度が低い情報ではありません。

図1、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:饒村曜(平成24年(2012))、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

表1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

表2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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