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「お(ご)~いたします」は正しい敬語!二重敬語ではない理由とは【文化庁「敬語の指針」に沿って解説】

おやさいなおライター┃正しい日本語レッスン

同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」といいます。たとえば「おっしゃられる」は「言う」を尊敬語にした「おっしゃる」に、さらに尊敬の「~れる」を加えた二重敬語で、誤った敬語表現とされています。

さて、「ご説明いたします」「お待ちいたします」といった言い回しについても二重敬語ではないかといわれることがあるのですが、実はこれらは二重敬語ではないとされています。この記事では、文化庁が発表した「敬語の指針」に沿って、なぜ「お(ご)~いたします」が正しい敬語といえるのかについて解説していきます。

Q.そもそも自分の行為・ものごとに敬語の「お(ご)」をつけていいの?
A.こちらの記事で解説しています!
Q.二重敬語ってなんだっけ?
A.こちらの記事で解説しています!
ぜひ併せてご一読ください♪


「お(ご)~いたします」は正しい敬語

<前提①>
二重敬語ではないかと言われる理由

結論から言いますと、「お(ご)~いたします」は正しい敬語です。ではなぜ二重敬語と間違われがちなのか。ここでは「ご説明いたします」を例にとって考えてみます。

【例A】

上司:A社から○○について問い合わせが来ている件、どうする?
自分:明日、先方にご説明いたします

この例でいえば、「説明します」でも意味が通るところを、「説明する」の代わりに「ご説明いたす」を使っていますよね。この「ご説明いたす」を分解してみると、「ご説明する」「説明いたす」といった2つの敬語が使われていることがわかります。おそらくこれが原因で、二重敬語ではないかといわれるのではないでしょうか。

しかし実はこれ、2つの謙譲語の働きを両方兼ね備えた表現であり、二重敬語にはあたりません

<前提②>謙譲語は謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの2つに分けられる

まず、敬語は大きく尊敬語・謙譲語・丁寧語の3つに分けられます。そして文化庁が発表した「敬語の指針」によると、下記のように、謙譲語はさらにそこから謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの2種類に分けることができます

文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)より
文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)より

そして、同じ謙譲語でもⅠとⅡでは性質が違います。

謙譲語Ⅰ:自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの

謙譲語Ⅱ:自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの

ー「敬語の指針」より抜粋

簡単に言うと、謙譲語Ⅰは「向かう先」を立てて敬語を使っているのに対し、謙譲語Ⅱは話や文章の相手に対して敬語を使っています。なお、ここでの「向かう先」とは敬語で表現している行為・ものごとが向かう対象のこと、「立てる」とは「高い位置のものとして扱う」ことと理解しておきましょう。

ではここで、謙譲語Ⅰの「伺う」について考えてみます。

明日、御社に伺います

まず、「伺う」は「行く」の謙譲語。そして、この場合「行く」という行為は「御社」を対象としているため、この場合の「向かう先」は「御社」であり、御社を立てている表現となります。このような「向かう先」を立てる敬語を謙譲語Ⅰとします。

次に、謙譲語Ⅱの「参る」について。

明日、出張で東京に参ります

この場合、「参る」は「行く」の謙譲語ですが、「東京」を立てているわけではありませんよね。これは、「明日、東京に行きますよ~」と会話なり文章なりで伝えている「(話や文章の)相手側」に対して敬語を使っているのです。このような、相手側に対して丁重に述べるための敬語が謙譲語Ⅱです。

<結論>
「お(ご)~いたします」は謙譲語Ⅰ 兼 謙譲語Ⅱの表現なので二重敬語ではない

「ご説明いたします」は、謙譲語Ⅰ、Ⅱ両方が使われています。

「ご説明する」
 ⇒謙譲語Ⅰ(「説明する」の向かう先であるA社を立てている)

「説明いたす」
 ⇒謙譲語Ⅱ(話の相手である上司に対して丁重に述べている)

しかし前述の通り謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱは、それぞれ性質が違います。つまり「ご説明いたします」は 「自分側から相手側又は第三者に向かう行為についてその向かう先の人物を立てる」と「話や文章の相手に対して丁重に述べる」の両方の働きを兼ね備えているという、謙譲語Ⅰ 兼 謙譲語Ⅱの表現なのです。

<まとめ>

「お(ご)~いたします」は二重敬語ではない

「向かう先」を立てたい、かつ「話の相手」に対して丁重に述べたいときに問題なく使える正しい敬語表現である

「おっしゃられる」のような、同じ働きの尊敬語が重なった二重敬語とは違う、ということが伝わりますでしょうか。

なお、【例A】では向かう先がA社、相手が上司でしたが、もちろん向かう先と相手が同じ場合も「お(ご)~いたします」は使ってOK

たとえば、実際に【例A】の翌日になり、A社に対して「今から説明しますよ~」と伝える場面でも「ご説明いたします」を使えます。この場合、「向かう先としてのA社」と「話の相手としてのA社」のそれぞれを立てているだけで、【例A】と同様に謙譲語Ⅰ 兼 謙譲語Ⅱの形なので、二重敬語にはなりません

なお、「ご説明いたします」ではなく「ご説明します」「説明いたします」としてもOKです。謙譲語Ⅰ(ご説明する)もしくは謙譲語Ⅱ(説明いたす)のいずれかだけで、A社に敬意を払うのに事足りるからです。

【例B】
※目の前のA社に対して
自分:では、○○についてご説明いたします/ご説明します/説明いたします
(謙譲語Ⅰ 兼 謙譲語Ⅱ/謙譲語Ⅰのみ/謙譲語Ⅱのみ)

⇒すべてOK!いずれの表現でもA社に敬語を使えているため

<補足>
「お(ご)~いたします」を使うと違和感があるケースとは?

「お(ご)~いたします」が二重敬語ではない、ということは伝わりましたか?

では逆に、「お(ご)~いたします」を使わないほうがよい場面はどんなときでしょうか。それは、向かう先≠話の相手 かつ 向かう先と話の相手のいずれかには敬語を使わない場合です。

たとえば、【例A】の「相手」が仲良しの同僚だったり、「向かう先」が自分の後輩だったりしたら、「ご説明いたします」とは言わないはずです。下記に【例A】と異なるケースを並べてみますので、違いに注目しながら読んでみてくださいね。

【例B】
※向かう先にのみ敬語を使う場合

同僚:ねえ、A社から○○について問い合わせが来てたけど、どうする?
自分:明日、先方にご説明するよ(謙譲語Ⅰのみ)

【例C】
※相手にのみ敬語を使う場合

上司:Bくんが○○について知りたいみたいだよ
自分:明日、Bくんに説明いたします(謙譲語Ⅱのみ)

もし上記のようなケースで「ご説明いたします」を使っていたら少し違和感があるかと思います。「お(ご)~いたします」は、あくまで向かう先・相手の両方に敬意を払いたい場合に使える表現だと覚えておきましょう。

おわりに

最後まで読んでいただきありがとうございます。ここまで理解できたら、もう完璧!

今後も、みなさんの日本語・敬語に関する疑問を解消できるような記事を書いていきます。ぜひフォローしてお待ちください♪

<参考>文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)

ライター┃正しい日本語レッスン

国語・日本語好きのWebライター┃保有資格:校正士、中学校・高等学校教諭一種免許状(国語)┃元編集者┃明日から使える正しい日本語の知識をわかりやすく発信中┃ビジネス敬語や日本語の「あれ、なんだっけ?」「これ、どうしたらいいの?」を1つでも多く解決できるよう、活動していきます┃趣味:イラスト、語彙力アップ

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