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日本の木材は世界一安い?高い?

田中淳夫森林ジャーナリスト
海外に輸出するため国産材の船積みが進む。(筆者撮影)

日本の木材は安いのか、高いのか。

ふと疑問に思った。というのは、国産材の海外輸出に関して、期せずして2つの話を耳にしたからだ。

現在、日本の木材の海外輸出が急増している。数年で2倍3倍になる勢いだ。輸出先は主に中国、韓国、台湾。とくに中国向きは爆発的に増えている。

そんな時に聞いたのは、中国に住んでいた人の話だった。その人は、現地の木材関係者に「なぜ日本の木材を輸入するのか」と尋ねたという。すると答は「安いから」。

これに尽きるそうだ。日本の木材は世界一安い。安い木材だから買うのであって、品質は関係ない。高い木材は買わない。製材も高くなるから買わない……のだそうだ。実際売れているのも、B材C材と呼ばれる日本では価格がガクンと落ちるものばかりだ。

日本側では、これでは売れても利益が薄いので、高級材や製材輸出に切り換えていこうという声を聞くのだが、中国側の眼中にそれはないらしい。使い道も品質を問わない梱包材などが主流で、建材にはあまり回らないという。

ちなみに高い木材は、カナダ材だとか。あちらは製品と結びついた販売をしているので高くても買うという。その点、日本の木材は単なる素材扱いなのだ。

なんだか、ガックリとした。

そんな時に台湾の林業を調べた人に出会ったので、台湾事情を聞くと……。

台湾は国土の58%が森林で、昔は巨木のタイワンヒノキなどが有名だった。だから林業も盛んなのかと思ってしまうが、なんと木材自給率はコンマ以下、ほとんどゼロなのだそうだ。木材需要の99%以上を輸入で賄っているという。

だから日本の木材も求められてるのか……。

ただ台湾政府も、少しでも木材自給率を上げようと躍起になっており、林業に補助金を注ぎ込んで台湾産材を使うよう政策誘導しているという。ところが、そこに安い日本の木材が流れ込んでくるのだそうだ。業者はそちらに飛びつく。

日本の安い木材のせいで、台湾の木材自給率が上がらない」と林業政策担当者に嘆かれているのである!

これ、言い換えると台湾産材より日本の木材の方がかなり安いということだ。

結局、日本の木材が世界で求められているのは「安い」からに尽きるのではないか。

かろうじて韓国ではヒノキブームが起きているそうで、多少高い日本の木材も買われるそうだが……。

だが、本当に安いのか。

森林・林業白書によると、スギ人工林の造成・保育にかかる費用は、植栽から50年生まで育つのに平均で約248万円/haを要するとされている。これは欧米の造林費の10倍以上だ。

さらに育った木を収穫(伐採・搬出)する経費も馬鹿高い。機械化を進めているというが、生産性はシステマティックな施業を展開する欧米と比べるとまだまだ低くコストは1・6倍以上。木材加工でも2倍以上のコストがかかっている。つまり日本林業のコストは世界的に見ても非常に高いのだ。

莫大なコストをかけて育て収穫した木を、採算度外視で海外に思い切り安売りしている……これが実情なのではないか。

なぜ、それが可能かというと、まず補助金がジャブジャブと出ること。一般に林業にかかる経費の7割以上が補助金とされている。

次に山主にしわ寄せしていること。数十年かけて育てた木を国内外に安売りして得たわずかな利益も山主にはあまり還元されない。費やした経費の一部にしかならず(補助金の多くは各作業を実施する業者に落ちる)、育林経費は持ち出しだ。ただ数十年の育林期間が、過去の支出をうやむやにしてしまう。

一方で、日本人が国産材で家を建てようとすると建築家などに「高くつきますよ」と脅されることが多い。遠くから運んできた外材の方が安く家が建つという。なぜか日本国民は日本の木は高いと思い込まされている、いや実際に高値で買わされている。

日本の林業にかけている経費と売上の間にどんな金の流れがあって、どこから金が注ぎ込まれ、その金はどこへ吸収されていくのか。

この摩訶不思議な方程式を誰か解いてくれないか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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