Yahoo!ニュース

うまく話そうとするほど「逆効果」の人3選 相手に合わせて話し方を変える「話し方改革」とは?

横山信弘経営コラムニスト
テクニック使って話せばいいってもんじゃない……(写真:イメージマート)

■やればやるほど若者の気持ちが離れる「1on1ミーティング」

「1on1ミーティングとか、もうやめてくれませんか?」

ある課長が若い部下に、こう言われたそうだ。

「意味がない」

「それどころか、気持ちが離れる」

こうハッキリ言われたらしい。よかれと思って「1on1ミーティング」を継続してきた上司はショックを隠せない。

「1on1ミーティング」は、上司と部下が一対一で話し合う場である。部下の意見や悩みを直接聞くことで、仕事の改善や部下の成長を促すことを目的としている。にもかかわらず、なぜその部下は気持ちが離れてしまったのか?

その部下の言い分を聞いてみた。すると次のような答えが返ってきた。

・上司が親身になって話を聞いているという演出が鼻につく

・いちいち「何をしたいのか」と問われるのがイヤ

・1on1ミーティングでフィードバックはやめてほしい、やるなら現場でしてほしい

・メールで伝わることをわざわざ1on1ミーティングで言わないでほしい

これを知った上司は「信じられない」とつぶやいた。無理もない。「1on1ミーティング」を円滑に進めるために何度も研修を受けたぐらいだからだ。

「まだスキルが足りないのか?」

「もう一度、1on1ミーティングのやり方を見直したい」

とその上司は言うが、私は「違う」と指摘した。単にこの部下に「1on1ミーティング」が合わなかっただけなのだ。ただそれだけなのである。実際に、本人に尋ねると、次のように返ってきた。

「1on1ミーティングは有効な手段だと思っています。ただ、私には逆効果です」

理由は明白だ。

「わざわざ1時間も時間が奪われるのが、すごく苦痛。上司にも、そんな時間を使ってほしくない」

「メールやSlackで伝えてくれれば従うし、フィードバックが欲しいときはその都度声をかけている。形式的に1on1ミーティングをやる意味がない」

上司が期待するのは、部下の仕事を改善すること、成長を促すことだ。1on1ミーティングはその手段に過ぎない。手段に焦点を合わせすぎると、目的を見失ってしまう。コミュニケーション手段も相手に合わせることが大事だ。

■なぜデータを使って話したら「よけいに分かりづらい」と言われるのか?

「データを使って説明されると、よけいに分かりづらいんですが」

こんな衝撃的なことを言われた経験があるだろうか? 私には、ある。

コンサルタントの性(さが)だろう。「ファクト(事実)」に基づいて考えることがクセになっている。したがって、曖昧な意見や見解をほとんど使わない。

だが、20年近くコンサルタントをしてきたから分かる。「ファクト(事実)」で話されることが苦手な人は一定数いる、ということを。

「データで説明されると、ついつい分かっている振りをしてしまう」

こう言っている営業と会ったことがある。

ある日、課長が「商品Aの販促活動に力を入れよう」と指示した。販売データを分析してみたところ、商品Aが最も売れていたからだ。課長の指示にしたがい、商品Aの販促に力を入れた。ところが後日、部長に呼び出されて叱責を受けた。

「商品Aじゃなくて、Bの販促を強化しろ。データを見れば一目瞭然だろう」

と部長は言うのである。実は、会社の方針は新商品Bの販売促進だった。Bの販売データを見ると当初の計画を大きく下回っていた。慌ててて商品Bのプロモーションに力を入れることになったのだが、今度は社長からは「何をやってるんだ」と注意された。為替変動の関係で商品Cの利幅が大きいから「Cを売れ」と言うのである。

「どのデータを見て判断したんだ?」

と社長に苦言を呈され、すっかり自信をなくしたという。客観的データに基づく事実(ファクト)で説明されると、なんでもかんでも信じてしまう。だからデータを使った説明が始まると、思考が停止してしまうのだという。

この話を複数の人に紹介したところ、かなりの人が「身に覚えがある」と言った。

「データを使って言われると、よく考えずに賛同してしまう」

「間違っている気がしても、反論できない」

確かにデータを使って説明されると、なんとなく納得してしまう人も多いだろう。しかし実際は、その背景にある意図や目的を理解できていないと、どう判断していいかわからないものだ。

話し手が十分に気を付けなければいけないこと。それは相手の立場に立って話すことだ。相手が論理的な人なら、データを使ったファクトベースで話したほうがいい。しかしどちらかというと感覚的な人なら、もっと感情に訴えたほうがいいのだ。

目的は「正しく伝える」ことではない。相手を「その気」にさせること。動かすことなのだから。

■「TEDトーク」風プレゼンをしてお客様に怒られたワケ

「TEDトーク」風のプレゼンテーションをしてお客様に怒られた営業もいる。

その営業には、なんとしても受注したい案件があった。大きなビジネスチャンスであり、成功すれば会社にとっても大きな利益となる。しかしその案件を獲得するためには、競合他社を凌ぐプレゼンテーションが必要と思われた。そこで、メンバーと3人で練習を繰り返し、「TEDトーク」風のプレゼンを試みることにした。本屋でたまたま見つけたプレゼンの本にインスパイアされたからだ。

「TEDトーク」風のプレゼンは視覚的にも特徴があり、聴衆の心を引きつけることで知られている。そのスタイルを取り入れることで、プレゼンがより魅力的になってこの案件も受注できるだろうと考えた。しかしこれが大きな誤算だった。

プレゼン当日、明るい声、ビジュアル的に魅力的なスライド、感情に訴えるストーリーテリング。3人は練習した通りにプレゼンした。しかし見ていたお客様からは、

「ふざけているんですか?」

と厳しい言葉を浴びせられた。

後ほどお客様にフィードバックを求めたところ、もっと形式ばった説明をしてほしかったとのこと。ライバルに勝ちたいがために、新しいスタイルに挑戦することでお客様を驚かせ、感動させようと考えた営業たち。しかし、それが裏目に出てしまったのだ。

■話し方のテクニックを使うと逆効果の「タイプ」3種類

話し方のテクニックは、多くの場合、コミュニケーションを円滑にし、相手に好印象を与えるための有効な手段である。しかし、すべての人が同じように感じるわけではない。むしろ、一部の人々に対しては逆効果を生む可能性がある。以下に、そのような「タイプ」を3種類紹介する。

(1)過度に分析的な人
(2)感情に反応しやすい人
(3)批判的思考が強い人

まず一つ目のタイプは「過度に分析的な人」だ。

このタイプの人は論理的であり、話の整合性や根拠に対してとても敏感である。そのため話し方のテクニックが過剰に使われると、相手は話の内容よりもそのテクニック自体に注意を向けてしまう。

私もこのようなタイプの相手に、話し方で何度も失敗したことがある。

「ドア・イン・ザフェイスを使って話していますよね?」

「それはイエスセットですか?」

とテクニックを見抜かれて、苦笑したことがある。当然、リアル会議や面談など、非効率的な手段でコミュニケーションをとろうとすると嫌がられる。

「なぜわざわざリアルで会う必要がありますか?」

「テキストデータのほうが記録する手間も省けますし、正しく認知できます」

と苦言を呈される。

二つ目のタイプは、「感情に反応しやすい人」である。

このタイプの人は、客観的で、無機質なデータを使った話し方が苦手だ。たとえ主観的な意見であっても感情に訴えられることを好む。だから話の内容よりも話し方そのものに強く反応する。五感で感じられるような、体験型のコミュニケーションだといっそうハートに火が付くだろう。

三つ目のタイプは、「批判的思考が強い人」である。

このタイプの人は、話の内容を冷静に分析し、評価する(クリティカルシンキング)傾向が強い。そのため、話し方のテクニックが露骨に感じられると、「この人は私を操作しようとしている」と感じ、話し手に対して強い警戒心を抱くことになる。

このようなタイプの人には、過剰な強調や演出を避け、シンプルに理路整然とした話し方を心がけたい。

■相手に合わせて話し方を変える「話し方改革」の時代

私は相手に合わせて話し方を変える「話し方改革」を推奨している。決して1on1ミーティングがダメなわけではない。むしろ部下の成長を考えたら効果的なことのほうが多い。データを使った説明のほうが説得力が高いのは間違いないし、「TEDトーク」風のプレゼンテーションが威力が発揮することも多いだろう。

ただ、すべての人にその手段が有効かというと、そうではないのだ。そのときの気分にも寄る。昔なら40人の小学生全員にハンバーグのランチを出したら、誰も文句は言わなかっただろう。ほぼ全員が大喜びしたに違いない。

しかし現代は違う。40人中3~4人はハンバーグが苦手と言うかもしれない。そういう場合は、個人に合わせてハンバーグのほうがいいか、から揚げのほうがいいかを聞いたほうが適切だろう。食事を提供する側は、全員同じのほうがはるかに効率的だが。

誰かに何かを話すときもそうだ。いや、もっと気を付けなければならないだろう。

上司は部下全員に対して同じやり方で話をしたいし、営業もお客様に、最も効果的な話し方をしたいと思うだろう。しかし、すべての人に効果的な話し方など存在しない。相手によっては逆効果、ということもあるのだ。常に相手のタイプを念頭に置いて、柔軟に話し方を変えよう。

<参考記事>

【超大作】相手に合わせて話し方を変える「話し方改革」 7タイプ徹底解説

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

横山塾~「絶対達成」の思考と戦略レポ~

税込330円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

累計40万部を超える著書「絶対達成シリーズ」。経営者、管理者が4万人以上購読する「メルマガ草創花伝」。6年で1000回を超える講演活動など、強い発信力を誇る「絶対達成させるコンサルタント」が、時代の潮流をとらえながら、ビジネスで結果を出す戦略と思考をお伝えします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

横山信弘の最近の記事