Yahoo!ニュース

【逃げ上手の若君】軍記物語『太平記』は北条義時をどのように描いたのか?

濱田浩一郎歴史家・作家

集英社の『週刊少年ジャンプ』に連載されている漫画「逃げ上手の若君」が2024年7月6日から、アニメとして放送されています。「逃げ上手の若君」の主人公は南北朝時代の武将・北条時行です。時行の父は、北条高時。鎌倉幕府の第14代執権を務めた人物であり、北条氏の得宗家(北条氏の惣領の家系)当主でした。しかし、今回のアニメを見ても分かるように、暗愚に描かれています。時行が生きた鎌倉時代末から南北朝時代の動乱を描いた軍記物語に『太平記』(以下、同書と略記することあり)がありますが、では『太平記』は北条氏をどのように記述しているのでしょうか。

同書の冒頭付近では、源氏将軍(源頼朝・頼家・実朝)の世は三代、僅か42年で尽きたと記されていますが、その直後に頼朝の舅・北条時政、時政の息子・北条義時が「自然に天下の権柄を執って」幕府(武家)の勢いが漸く天下を覆うようになったとあります。その後、後鳥羽上皇が武家の勢力の伸長を嫌い嘆き、義時を滅ぼそうとして「承久の乱」が勃発。戦いは官軍の敗北に終わります。乱後、上皇は隠岐国に配流されますが、同書はこれをもって、義時が天下を手中にしたと書きます。

義時以降も、北条泰時・時氏・経時・時頼・時宗・貞時(七代)が出て、幕府が政治を行い、その徳(立派な行い)が困窮する民を慰めてきたと『太平記』は記すのです。同書は北条氏による政治を高評価していると言えるでしょう。ところが、時行の父・高時だけが『太平記』の中でボロクソに書かれているのです。北条七代が高評価なだけに、高時の低評価はより目立つことになります。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

濱田浩一郎の最近の記事