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次世代森林産業のベクトルはローテク・ローコストかも

田中淳夫森林ジャーナリスト
森林産業の将来を支える技術は何かと考える機会となった。(筆者撮影)

 9月14~16日、東京ビッグサイトで開かれた「フォレストライズ2022~第3回次世代森林産業展」を覗いてきた。

 この見本市、林業・木材産業の新しい動きを中心に紹介していて、その名のとおり次世代の進む方向を探る意味で面白い。そこで私が感じたことを記したい。

 まず目立ったのが、ロボットやAIを活用した林業DX(デジタル・トランスフォーメーション)とかスマート林業と呼ばれる分野に供する技術である。

 とくに森林計測の分野は多かった。人間が森に入らなくてもレーザーやドローンの画像データ解析で森に生えている木々の本数はもちろん、太さや樹種まで確定し、そのバイオマス量まで計算してしまうのである。

 ほかにもスマホで行う森林境界線の確定や、衛星画像による盗伐監視、さらに改質リグニンもあれば小型熱電併給プラントにデジタル森林浴までと幅広い。木材生産の前に森林の情報を的確に得ようという方向は大切だろう。

 なおオーストリアとフィンランドのほか海外企業のブースもあって、国際色も感じる。

 だが、私が本当に興味を持てたのは、それらとはまったく違う方向性だった。

ローテクの積層材DLT

 まず長谷川萬治商店が出品していたDLTである。Dowel Laminated Timberの略で、日本語に訳すならダボ集成材となるのだろうか。ダボとは部材をつなぎ合わせる小部品のことだが、ここでは木の棒のようなものを思い浮かべたらよい。それで積層した木板を串刺ししてつなぎ止め大断面に集成するのである。

 一般の集成材や国が推進するCLT(直交集成板)、あるいは合板なども含めたマスティンバーと呼ばれる大規模木質材料で、部材を張り合わせる際に使われるのは、接着剤である。多くは石油系の化学物質だ。しかしDLTでは木ダボで行うのだから、100%木質の素材となる。

 このアイデア自体は新しいものではない。おそらく数世紀前から行われていた。とくにヨーロッパでは珍しくないはずだ。私も昔見たことがある。ただ、それを現代の建築様式に合うように復活させたものなのだろう。

 積層する板(ラミナ)はスギ材で、ダボは硬いオウシュウブナ材を使っていた。それを高圧でプレスするのだが、両者の水分量が違ってラミナは縮小、ダボは膨張するため強い摩擦が発生して、簡単に外れることはない。

 接着剤を使わないのだから、シックハウス症候群の心配もないわけだ。木質以外を含まないから、二次加工も楽だ。そして廃棄時あるいは再利用時に化学物質の心配をしなくてよい。そのまま燃やしても、チップにしても、あるいは再びばらして板として使用することも可能だろう。

 用途は、一般の集成材やCLTと同じく、床パネルや壁パネル、屋根パネルにも使える。すでに海外では大規模建造物に使われているそうだ。

皮つきの端材を使い意匠材となったDLT。(筆者撮影)
皮つきの端材を使い意匠材となったDLT。(筆者撮影)

 見本を見て面白く感じたのは、丸太から板を製材する際に出る皮つきや丸みのついた部分も使っていた点である。これがデザイン的に木の風合いを感じさせると建築家に人気なのだそう。

 ほかにもスリットを設けて吸音材を仕込んだものもあった。また建具や家具などの素材にも使えるという。おかげでグッドデザイン賞を受賞している。

 私が注目した理由は、構造がシンプルだから製造工程も簡単なことである。接着剤の硬化時間もないから、完成も早い。製造に大規模な設備が必要なくて端材まで使えば無駄も出ない。中小の木材業者でも生産可能だろう。極めてローテクで、ローコストなのだ。

 昨今は、生産効率を上げるため大規模製材工場の建設が推進されている。しかし資金調達に悩み国の補助金も絡んでくるうえ、大量生産しなければ採算が合わなくなり、接着剤ほかの材料・設備がいるので製品価格も上がる。そして画一的な商品になりがちだ。

 しかし地方振興の視点から見れば、各地の林業地に分散して小さな工場があるとよいのではないかと考えていた。DLTなら、それが可能かもしれない。

中古機械をカスタマイズ

 もう一つ注目したのは、富士岡山運搬機だった。こちらは林業機械の売買を行っているのだが、扱うのは中古なのだ。

 林業の機械化が叫ばれて久しいが、1台数千万円もする高性能林業機械を導入するのは、大きな負担であり経営上のリスクだ。場所によっては必要な機械も変わるから何種類も必要となる。それでいて、この手の機械は壊れやすい。

 そこで中古機械に目を向けたという。その代わり修理やメンテナンスなどアフターフォローを充実させた経営を展開している。その際に機械のメーカーを選ばず対応できるだけでなく、互換性のないアタッチメントでもカスタマイズするなど、技術力を誇る。

 日本の林業現場は千差万別で、所有面積は小さい。経営者の方針も細かく分かれやすいため、それらに適した機械も違ってくる。そこにローコストな中古機械を、カスタマイズも含めて安心して使えるよう提供するわけだ。

 中古を扱うと聞くと時代遅れのイメージになりがちだが、むしろ機材を長く使えることは、エネルギーや資源を無駄にしない点で次世代向きなのではないか。

 いずれも私が興味を持ったブースは、ハイテクや最新技術を売り物にする森林産業とは少し違うかもしれない。ここで紹介したのは一例にすぎないが、意外に思った人もいるだろう。

 しかし今後の林業や木材産業、そして建築業は、生産量や建築着工数などで発展を測るのではなく、人口減社会に対応した多様な現場にきめ細かく応えられるかどうかが鍵になると思っている。そのためには小回りの利いた経営が必要となる。

 それに加えてSDGsなどで指摘されるように、人も資源も持続的であることが至上命題となる。いくら高性能でも、コストが高く環境負荷の大きいものは、次世代に向いているか疑問だ。

 もちろん、ハイテクを否定するわけではない。危険と労力がいっぱいの林業現場をICTやAI、ロボットなどでサポートされるのなら素晴らしい。大いに推進してほしい。ただローテクな方が効果的な面もある。両方を融合させて、林業から建築業界まで通した合理的な将来像を描けないか。

 そんなことを考えさせられた次世代森林産業展だった。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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