こどもの溺れを予防するには 〜江戸川のケースについて考える〜 #こどもをまもる
はじめに
報道によると、2023年3月31日、千葉県市川市にある江戸川で、幼い男児が浮いているのが見つかった。現時点(3月31日、午後4時)では詳細は不明だが、その前日30日の夕方から行方がわからなくなっていた3歳男児ではないかとみられている。
江戸川で幼児見つかる 心肺停止 不明3歳男児と見て確認進める
NHKニュース 2023年3月31日 12時09分
今回の溺水の発生状況を推測してみよう。「花見のために、皆で河原にやって来た。午後のまだ明るい時間で、河原敷きで6人くらいのこどもたちが遊んでいる。3歳児もいっしょに遊んでいたが、チョウチョなど興味を引くものが目に入る。3歳児では、興味があるものしか目に入らない。それを追って川の方に小走りで歩いていく。川を見ると、何か流れてきて、それを見ようとして川に近づく。足元を見ていないので、石につまずいて転んで、川の中に転落する。川は流れが速く、流される」という状況が推測される。
過去には、「公園に遊びに行った。公園脇には川が流れていた。遊んでいたボールが河原に転がり、それを拾いに行ったところ、サンダルが脱げてしまい、そのサンダルを拾おうとして川に入って溺れた」という事例もある。このことから、こどもの溺れを予防するため「サンダルバイバイ」などの活動も行われている。泳ぐつもりがまったくなくても、海や川のそばに行けば溺れる可能性があることを知っておく必要がある。
こどもの溺れを防ぐためには
こどもは水が大好きであり、海や川だけでなく、浴槽やトイレの水にも興味を示す。浴室やトイレのドアにはチャイルドロックを付けることで、こどもが中に入れないようにすることができるが、海や川にはチャイルドロックを付けることはできない。こどもを見守るか、こども側に何らかの対策をとるしかない。
見守りに関しては、消費者安全調査委員会の調査がある。保育の場のプールにカメラを設置し、プール活動中の保育士とこどもの動きを録画して、保育士が目を離した時間、すなわち監視していない時間の調査が行われた。10か所の園で、のべ226時間のプール活動が記録された。それを分析すると、見守っていなかった時間、すなわち監視の不備がなかった園は一か所もなかった。狭くて限られた園のプールの場でさえ、ひとときも目を離さないことはできないことがわかる。海や川で、見守りで溺れを防ぐことはできないということだ。
「幼稚園等のプール活動・水遊びでの溺れ事故を防ぐために(消費者庁、2021年4月公表)」
近年、ライフジャケットのレンタルステーションを設置している海水浴場が増えているが、海水浴シーズン以外はステーションの設置はないケースが多く、川辺にはほとんど設置されていない。また、バーベキューなど「水の中に入らない」ことを前提で行われるイベントや浅瀬での川遊びでは、落水して溺れる可能性を考えない人がほとんどであろう。
テクノロジーで防ぐことができるか
今回のように、泳ぐつもりがない場合の溺れを予防するには、どうしたらいいのだろうか。現時点では、こども自身に何らかの装置を取り付けるという対策しかないのではないか。主に小学生向けの製品であるが、こどもの居場所を確認するためのGPS端末が広く普及している。また、手首に取り付けるタイプで、水中に没すると浮き輪が出てくるライフジャケットに似た製品も市販されている。水の中に入る際はもちろん、入らない場合でも、水の近くに行く時はこのような製品を活用することで溺れによる重大なケガを防ぐことができる。
人の目で防ぐ場合には
次善の策として、「人の目で防ぐ」という方法もある。ある程度、大人数で行うイベントでは、こどもの居場所を常に確認することは難しい。上記のようなテクノロジーを使用しない場合はなおさらだ。そのような場合、「監視役」を決めておくという方法がある。これは保育所や幼稚園などのプール活動で行われている方法で、指導する人と監視する人をわけ、監視する人は監視に専念するという方法である。監視役の人は、手伝いなど他のことは一切せず、監視に専念する必要がある。
この方法を応用して、グループの中で「監視役」を決め、その人は準備や片付けなどには関与せず、ひたすらこどもの居場所の確認に専念する。人数や場所によっては複数の監視役が必要であり、イベントが長時間に及ぶ場合は監視役の交代も必要だろう。この場合、できれば監視役であることがわかるように目立つ色の帽子をかぶることもおすすめしたい。
おわりに
幼いこどもの命が奪われる事故が相次いでいる。同じような事故が同じように起きている事実に、私たちはあらためて向き合わなければならない。今回のような溺れについても、今までに多くの団体や専門家から注意喚起が出されてきた。しかし、そのような注意喚起を繰り返しても事故が減らないということは、それらは有効ではなく、効果はきわめて限定的であるということだ。子育ての期間は短く、当事者は数年で入れ替わる。子育て世代は多忙であり、起きるか起きないかわからない、多くの場合は「起きない事故」について、真剣に向き合う時間はない。そのことを踏まえた対策が必要であり、そのためには国や自治体、事業者の関与が欠かせない。
今年もまた水辺に親しむ季節がやって来る。こどもの溺れを防ぐため、テクノロジーを駆使した新たな溺れ対策が急務である。
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