Yahoo!ニュース

パチンコとコロナ禍に関する間違った論調について

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

さて、休業問題で揺れる一部のパチンコ店に対してとうとう特措法45条3項による全国初の休業指示が出たようです。以下、デイリーからの転載。

吉村知事、兵庫で『指示』のパチンコ店問題「背後に依存症問題」「カジノは規制ある」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200501-00000091-dal-ent

大阪府の吉村洋文知事が1日、大阪府庁で会見。この日、兵庫県が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業要請を受けず、営業を続ける神戸市のパチンコ店3店に特措法45条3項による全国初の休業指示を出したことに関して、「大阪府民が遠征しているという話もある。依然として営業を続けるパチンコ店に関していかが(な思い)か」と質問された。[…]

「(パチンコ店問題の)背景としては依存症の問題があるんだろうと思う。なので、やはりパチンコについては、国もギャンブルとして認めてなかった。遊戯として認めてたわけで。3点方式というよく分からない方式ですけど、結局これはギャンブルです。ギャンブルとしての規制、依存症対策、これに正面から取り組まないといけないと思う」と持論を展開。

上記、大阪吉村知事の発言に関して、ギャンブルの専門家の立場から2点ほど申し上げたいと思います。

その1:

先月末に発された松井市長によるパチンコ論もそうですが、元弁護士であるハズの吉村知事まで「パチンコは遊技ではなく賭博だ」という論調を採っている様です。しかし、これまでも散々説明申し上げて来たとおり、パチンコは一時の娯楽に供する物の得喪を争う「賭博」として、刑法によって可罰的違法性が適用除外された賭博行為です。

また、特に世の批判の多い三店方式でありますが、これもその仕組みやシステム化の背景に対して非常に誤解が多い分野。三店方式は、風営法およびその関連法規の定める「買い取り/買い取らせ」の禁止を遵守しながら、そこから暴力団の介入を排除する為に「後付け」で作られたシステムであります。この辺りに関しては詳細に解説を行った動画をYouTube側にアップしましたので、以下をご覧頂ければ幸いです。

その2:

これは今回の吉村知事のコメントだけに限らず、ここのところ気になっていた事なのですが、どうも今回のパチンコ店の休業に纏わる騒動を「依存症」とダイレクトに結びつける論調が多い様です。これは業界識者と称されている人達の中でもそうで、例えば一連のパチンコ店の報道に関連して以下の様なコメントを寄せている人達が散見されます。以下、東京新聞より転載。

依存症には逆効果? パチンコ店名公表がさらに客を呼ぶ

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020042802100006.html

「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は驚きを隠せない。「客が行列をつくる様子を見ると、世の中にはこれだけ多くの依存症の人がいて、救済されていないということが分かる」[…]

NPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典理事も「依存症患者はパチンコに行きたくて行っているわけではない。ギャンブルに心身を支配され、行きたくなるようにさせられている。家族をだましてでも、お金を借りてでも、電車を乗り継いででも行く」

ただ私として上記の様な方々に申しあげたいのですが、勿論、依存が原因でこの様な行動を取っている人達も一定比率でいるでしょうが、ギャンブルに纏わる問題を何でもかんでも「依存症」に帰結させる論調は辞めて貰いたいですし、逆にそういう「決めつけ」は問題解決にあたってマイナスにしかなりません。

現在のコロナ禍の中、様々な側面において国民の「行動変容」が求められています。一方で、その様な社会的要請があるにも関わらず、社会的にみて「好ましくない」と思われる様な行動を起こしてしまう人はどの分野においても沢山いるわけで、例えば

・夜の接客飲食業種が自粛を求められている中、未だそういうお店にいってお酒を呑んでる人はアルコール依存なのですか?

・性風俗系業種にも自粛が求められている中、未だにそういうお店に行って遊んでいる方々は性行為依存なのですか?

・生活必需品の買い物すら時間をズラして少人数で行きましょうという事になっているのに、未だ街に出てショッピングとかしてしまっている方々は買い物依存なのですか?

各メディアに向かって「ギャンブル依存がー」と言っている人達は、上記のように様々発生している社会的にみて好ましくない市民の行動を全部、依存症で説明するのですか?と。例えば、ギャンブルに纏わる問題行動でいえば、依存症の他にも、衝動性の欲求を抑える事の苦手なADHDを始めとした発達障害、社会的に求められるルールやモラルなどを守る事が苦手な反社会性パーソナリティ障害、そもそも自身の行動そのものを認知することが苦手な認知症など、様々な要素が要因になると言われています。更に言えば、今パチンコ店に並んでいる人達の中には、そういう精神障害として診断されるほどのレベルではないが、緩やかな「傾向」を持っている人も沢山いるでしょう。

その様に、様々な背景から発生する問題を何でも「依存症だ」で片づけてしまうのは「論者のスタンスとしては」非常に楽なのは判りますが、残念ながらリアルな現場の問題解決には一切繋がらない。それどころか、問題を見誤った結果、間違った解決手法すらあてられてしまう可能性があるわけで、何でも「依存だー」と仰っている方々にこそ、その言動に対する自粛をお願いしたいものです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事