テレビ局各局、ネットでも放送と同じ内容を送信〜同時再送信(サイマル)の公共性〜
未曾有の災害に、テレビ局各局が放送中の映像をネットで送信
この14日夜に続いて昨夜遅く、熊本で再び大きな地震が起こっている。
テレビ局各局は、この災害を受けて通常の番組を中止し、特別な編成で現地の様子を報道し続けている。こういう時には、テレビ放送の機動力、リアルタイム性は社会的に重要な役割と言えるだろう。
そして今回の地震では、各局がインターネットで放送と同じ映像を同時に送信している。
- NHK→NHK news web内の特設ページ
- 日本テレビ系列→YouTube/日テレチャンネル内
- テレビ朝日系列→YouTube/ANN ニュースチャンネル内
- TBS系列→YouTube/TBS News-iチャンネル内
- フジテレビ系列→ホウドウキョク
災害時にネットで放送と同じ映像を流すことには非常に大きな意義がある。テレビ受像機がない場所や移動中でも、災害の情報を得ることができるのだ。現地の被災者にとっても、様子を見守る日本中の人びとにとっても、大変役に立つことだろう。
映像を長時間視聴すると、スマートフォンでは通信の負担になる点には留意してほしいが、いま実際にどうなっているか知りたい人は、積極的に利用するといいと思う。
このように放送と同じ映像を別経路で送信することは「サイマル放送」あるいは「同時再送信」などと呼ばれ、放送界の今後のテーマのひとつとなっている。
NHKは昨年来、こうした災害時に同時再送信を行ってきたが、今回のように民放も含めて一斉に取り組むことは初めてではないだろうか。2011年の東日本大震災の時には一部で行われたが、応急措置的な取組みだった。今回は、各局ともこうした事態を想定して準備をしていたようで、最初に揺れた14日夜も含めて非常にスピーディに行われた。
同時再送信には、著作権の問題がありふだんの放送ではなかなか実行しにくい。映像に出てくる画像の中には放送のみの許諾しかとっていないものも多く、その場合は映像の中で”フタをする”作業が必要になる。また音楽はネット用には別途許諾が必要なのでかなりハードルが高い。
今回のように報道番組であれば、そうした要素が少ないので取り組みやすいのだろう。だが技術的な面や営業面、例えばCM時にどうするかなどはあらかじめ議論してルールを整える必要もあっただろう。それらをクリアして今回実行できたことには大きな意義があると思う。
ネット独自の”放送”も意義を発揮
ところで、上のリストでフジテレビだけ「ホウドウキョク」の名称がある。これは、フジテレビが昨年からスタートしたネット独自の報道で、いつもはテレビ放送とは違う番組を送信している。そのサイトを今回、同時再送信のために使ったのは注目すべき取組みだろう。完全に放送と同じ映像を流すのではなく、CM時などにはホウドウキョクのオリジナルな報道も行っている。同時再送信とネット独自の内容のミックスにより、伝える内容の立体度を高めたと言えそうだ。さらにホウドウキョクはLINE LIVE内でも映像を配信しており、若者層にはアクセスしやすい形をつくっている。
一方テレビ朝日はちょうど今週から、ネット広告代理店サイバーエージェント社との共同事業として「AbemaTV」というネット上の”放送局”を立ち上げていた。その中にはAmebaNewsというニュース専門のチャンネルもある。そこでも、YouTube内のチャンネルとは別に、放送と同じ内容を送信したり、独自の報道を行ったりしている。こちらも、放送を拡張するような試みで非常に興味深い。
報道だけでなく意義がある同時再送信
今回は報道での各局一斉の同時再送信で、公共的な意義がわかりやすく示された。ただ、通常の番組を同時再送信するには先述の通り著作権の壁があり、またサーバーの負担も計り知れないものがあるなどハードルは多い。
だが報道以外の領域でも、ネットで番組を送信することには多様な意義があると思う。とくに、今後若者層にアクセスしてもらうためには欠かせないと言ってもいいだろう。
欧米でもアジアでも、テレビ局が同時再送信を行うのはもはや、常識になりつつある。世界の常識から取り残されないためにも、同時再送信は放送界が本気で取り組むべきテーマだ。我々視聴者も、その効果に期待して、行く末を見守りたい。