オートバイのあれこれ『Project BIG-1。威風堂々のCB1000SF』
全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。
今日は『Project BIG-1。威風堂々のCB1000SF』をテーマにお話ししようと思います。
レーサーレプリカモデルが流行し、とにかく“ハイスペックであること”が正義とされていた1980年代。
そうしたなか、ホンダの社内では新たな方向性を望む声が上がるようになりました。
「スペック一辺倒はそろそろ終わりにして、ライダーの遊び心をくすぐるような風格あるバイクを作れないだろうか」
当時のホンダの二輪開発部には、かつての名車『ドリームCB750FOUR』や『CB1100R』へ長年憧れを抱いていたエンジニアが少なからずおり、彼らの記憶に刻まれていた“威風堂々たるCB”を今改めて作ってみたいという機運が高まり始めたのです。
もっとも、この背景には、カワサキ『ゼファー』が想定外の大ヒットを記録し、トラディショナルなネイキッドスタイルのオートバイに需要があることが明らかになったということもあったかもしれません。
スペックではなく、味わいやスタイルといった側面に世間の関心が移り始めたことを好機と捉えたホンダは、ここで迫力重視の新たなCBを開発することを決断。
そうして誕生したのが、1992年(平成4年)デビューの『CB1000SF』(CB1000スーパーフォア)でした。
『プロジェクトBIG-1』というコンセプトを掲げて作られたCB1000SFは、「BIG」の文字どおり、大型バイクであることをこれでもかというくらい主張する大柄な車格となっていました。
全長2,220mm&ホイールベース1,540mmは、同時期のライバル『ゼファー1100』(全長2,165mm&ホイールベース1,495mm)を余裕で凌駕。
その昔、本田宗一郎氏が“ナナハン”の完成車を見た際、「こんなにデカいの、誰が乗るんだ?」と言い放ったそうですが、CB1000SFについても、宗一郎氏のそのセリフがピッタリ当てはまる体躯をしていたといっていいでしょう。
車格の大きさという点では「CBナナハン以来の衝撃!」と表現して差し支えないかもしれません。
実は私(身長174cm)もCB1000SFの実車にまたがったことがありますが、たしかに車体はかなり大きく感じます。
(個人的推測になりますが、身長が170cmに満たない人だと、CB1000SFの取り回しはそれなりに体力仕事となるでしょう)
エンジンのほうも、ビッグバイクらしい重厚な加速を味わえるよう、ツアラーモデル「CBR1000F』のものをベースに低速トルクを強化。
見た目を裏切らないパワフルな加速を演出するためのアレンジでしたが、これが結果的にストップ&ゴーの多い街中における扱いやすさへもつながり、CB1000SFは「一度走り出せば乗りやすい」という評価とともに人気モデルとなりました。
CB1000SFはその外観こそ迫力満点でワイルドな一方、乗り味はいかにもホンダ車的な優等生だったといえるでしょう。
以降、CB1300SFへと進化し、やがてCB1000SFから始まった血統は長寿となったのでした。
世間のニーズからではなく、社内スタッフの秘めたる想いが発端となり生まれたCB1000SFが、結果的に広く受け入れられたことは、地味なようで実は奇跡的なことだったといっていいのかもしれません。