人はなぜ「テツ」になるのか 終わらない鉄道の人気
この国では鉄道の人気が高く、鉄道ファンも多い。10万部を超える鉄道雑誌が複数販売され、多くの人に読まれるだけではなく、ニュースサイトなどでも鉄道の話題はひんぱんに取り上げられ、ページビューを獲得している。
「鉄道大国」日本は、「鉄道趣味大国」日本でもあり、多くの人が鉄道に関心を寄せる状況は、近年さらに増している。
なぜ、そのようなことになったのか。
身近にある鉄道
鉄道ファンは、都市部で生まれ育った人が多い。大都市圏の子どもたちは日常的に鉄道に親しむ中で、鉄道に対し関心を持ち、鉄道のおもちゃで遊び、親に手を引かれて鉄道を見に行くことをせがむ。鉄道に関する博物館なども近年は充実している。
筆者のように、地方で育った鉄道ファンは珍しい部類に入る。しかし、家の近くには115系3両編成の普通列車と165系4両編成の急行列車が行き来する路線が走っており、よくその路線を見に行ったものだった。
また当時通っていた図書館にも、鉄道関係の本は多くそろえられており、そういった本を借りてきてはよく読んだ。
それで、日本各地にさまざまな鉄道があることを知り、まだ見たことのない各地の鉄道を、写真や時刻表を見て想像していた。
多くの子どもたちは、身近にある鉄道を見ることで、鉄道に対し関心を持ち、身近な駅から日本国内へと広がるネットワークに関心を持つようになっていく。それが、多くの鉄道ファンの原点だろう。
旅に出る
中学生や高校生くらいになると、自ら各地の鉄道に乗ってみたいという思いも出てくる。私が中高生だったころは、各地に「青春18きっぷ」が使用可能な夜行快速列車が運行されており、それを利用してさまざまなところへと向かう。
また学校によっては、鉄道研究部があることがあり、そこで同じ趣味の仲間たちを友人とすることがある。こういったところでは合宿で鉄道旅行をすることがあり、それは大きな思い出となるだろう。筆者はそういったことをやっている都会の中高生がうらやましかった。
大学に行くと
主要な大学には、鉄道研究会がある。そこでは模型や写真、鉄道旅行など、さまざまな鉄道趣味をやっている人が集まっている。筆者は早稲田大学に入ると鉄道研究会に入会した。
鉄道研究会では、合宿などを行い、そこでは鉄道事業者の車庫見学も行った。合宿の会場までは、みんながさまざまなルートを使って会場まで向かう。そのルートをどうするかが、会員それぞれの個性が現れているようで、面白かった。
一方、世の中で鉄道の人気がそれなりにあるのに対し、鉄道研究会に入ってくる人は少なかった。もっと鉄道ファンが多いのでは、と同級生などと話していた。
社会人になっても鉄道が好き
大人になっても鉄道を追いかけている人は多い。高い機材を買い各地に撮影旅行に行く人や、長距離の鉄道旅行をする人、模型にお金をかける人。社会人の武器である「財力」を利用して、それぞれが鉄道を楽しんでいる。ただし、こういった蓄積があるのも、小さなころから鉄道に親しみ、研鑽を積んできたからこそである。
「鉄道友の会」などの鉄道愛好団体に参加する人もいれば、鉄道に関する同人誌をつくりコミックマーケットなどで頒布する人もいる。こういった形で鉄道を楽しんでいる人もいるのだ。
筆者に至っては、鉄道について書くことを職業の一つとしてしまった。カメラを持ち、新車の発表会に行くこともある。ほかのジャンルの執筆も行っているものの、現状では鉄道について書くことが多くなっている。
それでも嫌にならないのは、鉄道が好きだからだ。また鉄道には、多くの人々の関心を引きつけるような要素が多くあるからだ。そういったものを組み合わせていけば、自然と原稿は書けてくる。
女性の鉄道ファンも多い
鉄道趣味の世界は男性優位の世界と言われがちだが、女性の鉄道ファンも多い。大学鉄研の多くには女性の会員がおり、慶應義塾大学の鉄研では女性が代表を務めたことがあった。早稲田大学鉄道研究会の出身者には、『鉄道ジャーナル』に寄稿している女性もいる。
鉄道が好きなことを売りにしている女性タレントなども多く、鉄道イベントの司会などでよく登場する。
鉄道が人々の生活と日常的に関わり、その中で鉄道に関心を持っていると、自然と「テツ」になるという仕組みができあがっている。鉄道の仕組みはしっかりとしたものであり、「仕組み」に関心を持つタイプの人が、さらに鉄道のことを探求しようといろいろと調べる。
鉄道は日々少しずつではあるものの進化し、その動向は多くのファンに関心を持たれる。鉄道そのものがファンを生み出し、各種メディアがその関心を増幅させ、さらに多くの人が鉄道に対して関心をもつようになる。
そういった仕組みが、日本の鉄道の人気を高めているのだ。