漂着した「軽石」は資源になる 沖縄県環境部が発表した軽石の分析結果
ものごとにはプラスとマイナスがあります。
今年8月、日本のはるか南海上で起こった福徳岡ノ場の噴火によって発生した「軽石」は、沖縄など南西諸島に漂着したときには、その得体の知れなさから驚きのニュースとなって全国に波及していきました。さらに11月20日現在、伊豆諸島や神奈川、千葉など関東の沿岸でも軽石の漂着が確認され、また沖縄では依然として大量の軽石が浮遊しており先の見通せない状態が続いています。
軽石の活用に向けて
この軽石は漁業などに甚大な被害を与え、厄介な漂着物であることは間違いありません。ところが11月17日、沖縄県環境部から発表された「県内に漂着した軽石の分析結果について」の報告書を読むと、軽石に意外なプラス面もあることがわかってきました。
知人の沖縄農業関係者によると、軽石が漂着したときに直観的に思ったのは「タダで土壌改良材が手に入る」ということだったそうです。粘度の高い沖縄の土壌には軽石のような水はけのよい素材が必要だからとのことでした。
とはいっても、軽石の中に毒性のあるヒ素やカドミウム、水銀などが入っていては使うことはできません。
そこで今回の分析結果ですが、結論から言うと沖縄県内三か所から採取したサンプルは、いずれも“土壌環境基準を満たしている”というものでした。
見方を変えると、今回の軽石は土木建築資材や農業用資材等としての活用が見込まれるということで、厄介者から一転、資源になる可能性が出てきました。
そこで、今回の噴火について、もう一度整理してみましょう。
宇宙からもわかるほどの噴煙
上の画像は、福徳岡ノ場が噴火した8月13日のひまわり画像です。画面中央、下部分に注目してください。噴火と同時に噴煙が勢いよく西へ流されているのが見えます。
当時の上空の天気図を見ると、チベット高気圧が張り出し、その南縁で風速20m/sほどの東風が吹いていました。この風に乗って西へ流れていったのでしょう。
しかし、これだけはっきりと写っているにもかかわらず、当時はそのニュースがあった記憶があまりありません。それもそのはず、本州では前線が停滞し広島県に大雨特別警報が出るなど、西日本を中心に記録的な豪雨になっていました。とても、はるか南海上で起きたことに目を向ける余裕は自分自身にも無かったように思います。
一方で、現場付近では凄まじい噴煙が写真に収められていました。
タイトル画像と上の写真は、福徳岡ノ場から北へおよそ60キロに位置する硫黄島で撮られたものです。噴煙の上部がカナトコ状になり、それ以上は雲が上昇することができない、いわゆる圏界面に達していることがわかります。また、火山雷(噴火の際に噴出した軽石や、火山灰などがぶつかりあって電気が生じたもの)が発生していることもわかります。
いずれも、スマートフォンで撮影したものとのこと。60キロの距離というと、東京から神奈川県の丹沢くらいになります。これだけ離れた距離でこのような写真が撮れたことからも、噴火の規模は相当大きかったと言えるでしょう
また気象の上では、火山の噴煙が圏界面を越えて成層圏に入ると気候に影響が出ると考えられています。当時の小笠原付近の圏界面は約1万7000メートル。噴煙の高さは1万6000~1万9000メートルですから、噴煙の一部が成層圏に入った可能性もあります。
軽石の漂着と今後の展望
噴煙による直接の被害はなかったものの、その後、海上へ落ちた噴石(軽石)は、黒潮反流と呼ばれる海流にのって約2カ月をかけて、沖縄へ漂着しました。
先日、沖縄県の環境整備課の方に伺ったところ、「あまりに量が多くて、まだ撤去作業が手つかずのところもあります。35年前にも漂着したことがありましたが、これだけの大規模だったという記録はありません。どのくらいで収束するのか、想像がつきません。長期戦を覚悟しています。」と話されていました。
一方で、軽石の利用も検討中だそうで、「ヒ素やカドミウムなど火山性の有毒物質が含まれていないか分析を行い、土壌環境基準以下だった場合は農業や建築資材としての利用を考えたい」とのことでした。
それが今回(11月17日)の分析調査にもつながっているのでしょう。
始めに述べたように、軽石は通気性や排水性に長けているため、プランターの底に入れる鉢底石や土壌改良材として以前から使われていました。
今回の漂着で一般の人が拾いに行ったとのニュースもありましたが、国立公園内の物は採取するのに許可が要るので法的にはややこしい部分を含むようです。
ただ、今回の沖縄県環境部の発表では、軽石が土壌環境基準を満たしていることはわかったので、できるだけ早く広範囲に除去されて、それが資材として広く活用されるようになることが望ましい解決の道でしょう。
参考
ひまわり画像 出典ウェザーマップ