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米中間選挙後にバイデン政権がウクライナ支援を縮小しかねない理由

六辻彰二国際政治学者
議会選挙投票日の翌日に記者会見するバイデン大統領(2022.11.9)(写真:ロイター/アフロ)
  • アメリカ議会の中間選挙で、事前観測にあった共和党の大勝は実現しなかったものの、上下両院で存在感を示した。
  • 選挙戦で共和党陣営には、バイデン政権によるウクライナへの巨額の支援に対する批判も目立った。
  • 議会でのバランスの変化は、バイデン政権のウクライナ政策にも影響を及ぼす公算が高い。

「赤い波」不発の意味

 バイデン大統領は9日、議会中間選挙に関して「赤い波は起こらなかった」と述べた。

 赤は共和党のシンボルカラーで、事前の世論調査では、経済対策などへの不満の高まりを背景に、バイデン政権に批判的な共和党が中間選挙で圧勝するという観測も少なくなかった。

 ところが、フタをあけてみれば、共和党は上下両院の得票数でリードしながらも、いわれていたほどの大勝でもなかった。本稿執筆段階で結果はまだ確定していないが、共和党が勝利した場合でも、上下両院で過半数をギリギリ確保するレベルにとどまるとみられる。

中間選挙投票の翌日のアリゾナ州での開票作業(2022.11.9)
中間選挙投票の翌日のアリゾナ州での開票作業(2022.11.9)写真:ロイター/アフロ

 アメリカ議会は法律を通じて大統領の決定を左右できる。

 その一方で、日本の国会とちがって、アメリカでは議員ごとの独立性が高く、ケースバイケースで共和党議員が民主党の大統領の政策に賛成することも、あるいはその逆も珍しくない。

 そのため、今後バイデン政権が共和党議員の間で支持をとりつけやすい政策や方針を打ち出すなら、議会への影響力を残すことも不可能ではない。いわばバイデン大統領にとって中間選挙の結果は「最悪の事態は免れた」といったところだろう。

巨額のウクライナ支援への批判

 ただし、それは同時に、バイデン政権がこれまでより共和党に配慮しなければならないことも意味する。

 それを最も警戒しているのはウクライナ政府かもしれない

 ロシアによる侵攻が始まった2月から10月までの間だけで、バイデン政権はウクライナ向けに合計約100億ドルの支援を決定してきた。

 これに対して、共和党ではウクライナ支援そのものは否定していなくても、破格ともいえる金額の多さへの拒絶反応もあるからだ。

支持者とともに当選を喜ぶマッカーシー下院議員(2022.11.9)。バイデン政権によるウクライナ支援に批判的なマッカーシーは、選挙の結果次第では下院議長に就任する可能性もある。
支持者とともに当選を喜ぶマッカーシー下院議員(2022.11.9)。バイデン政権によるウクライナ支援に批判的なマッカーシーは、選挙の結果次第では下院議長に就任する可能性もある。写真:ロイター/アフロ

 共和党の院内総務ケビン・マッカーシー下院議員(共和党が下院を握れば議長になる可能性が高い)は選挙戦の最中の10月、「下院で共和党が勝利したらウクライナにブランク・チェックを渡さない」と発言した。

 ブランク・チェックとは金額欄が空白の小切手、つまり「好きなだけやる」という比喩だ。そのため、このマッカーシー議員の発言は「大盤振る舞いもいい加減にしろ」というバイデン批判といえる。

 また、中間選挙目前の11月初旬には、共和党のマージュリー・テイラー・グリーン下院議員(トランプ前大統領の支援を受けている)が「共和党のもとではウクライナに1ペニーも渡さない」とまで踏み込んだ。1ペニーは1セントの意味で、日本風にいうと「びた一文やらない」といったに等しい。

ウクライナの国境よりアメリカの国境

 こうした「アメリカ第一」に沿った論調は民主党からだけでなく、一部の共和党議員からも批判を招いてきた。

中間選挙の選挙戦の最中にオハイオ州での支援者集会に参加したグリーン下院議員。このイベントにはトランプ前大統領も参加していた(2022.9.27)。
中間選挙の選挙戦の最中にオハイオ州での支援者集会に参加したグリーン下院議員。このイベントにはトランプ前大統領も参加していた(2022.9.27)。写真:ロイター/アフロ

 それでもこうした主張が飛び出す背景には、バイデン政権の経済対策が期待ほどでなかったという不満に加えて、「ウクライナの国境よりアメリカの国境に目を向けるべきだ」という批判がある。

 アメリカ南部のメキシコとの国境には昨年から、それまで以上に中南米からの難民が押し寄せていて、その数は昨年だけで173万人にのぼった。

 今年に入って難民はさらに増えているが、これは入国希望者の「トランプ政権時代の厳しい移民・難民規制がバイデン政権下で緩められた」という期待を高めさせたからとみられている。

 そのため春頃から、とりわけ不法移民に直面しやすい南部のテキサスやアリゾナの知事は北部のニューヨークなどに、数万人の難民をバスで送りつけてきた。ニューヨークシカゴ、ワシントンD.C.の知事や市長は民主党系で、移民・難民に寛容な立場だ。

 つまり、難民のバス移送は「保護したいなら、そう主張する者がやればいい」というメッセージだったといえる。

 バイデン政権に批判的な共和党議員のなかには、こうしたバス移送を支持する一方で、民主党がアメリカの危機を放置してウクライナにばかりかまけているという主張もある。

 だからこそ、ウクライナのツィンツァーゼ前副首相が米中間選挙を前にしたインタビューで「我々が党派争いの犠牲になるのを恐れている」と述べたことは不思議でない。

 露骨に「アメリカ第一」にのっとった主張を展開する議員・支持者は、共和党のなかで必ずしも多数派ではない。しかし、マッカーシーもグリーンも再選を果たすなど、火種は残っている。

 中間選挙の結果は、バイデン政権がこれまでのウクライナ支援を見直さざるを得ない転機になり得るのであり、今後インフレの加速などでさらにアメリカ経済にブレーキがかかり、生活への不満が高まった場合、この見直し圧力はさらに強まるといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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