クラブ選手権を制した和歌山箕島球友会。元阪神の穴田選手も誓う「次は日本選手権での初勝利!」
9月4日まで行われた『第42回全日本クラブ野球選手権』(メットライフドーム)に2年ぶり7回目の出場を果たした、西近畿代表・和歌山箕島球友会。昨年、ディフェンディングチャンピオンながら予選敗退という屈辱を味わい、そのリベンジを誓った今回は見事に王座を奪回しました。1回戦から4試合すべてでヒットを放ち、特に決勝で任された“大役”に応える活躍をした穴田真規選手にとって、前回を上回る喜びだったようです。
1回戦から準決勝までの3試合は、こちらからご覧ください。
クラブ選手権を制した和歌山箕島球友会は『第43回社会人野球日本選手権』(10月30日から京セラドーム)への出場が決まっています。その近畿最終予選で9日、阪口哲也選手が所属するパナソニックが第3代表に決定しました!敗れた三菱重工神戸・高砂は、きょうミキハウスベースボールクラブと対戦し、延長12回の末に2対1で勝ってラスト・第5代表に滑り込みました。若竹竜士投手とも京セラドームで会えますね。
また、9月14日から関東最終予選に臨む玉置隆投手の新日鐵住金鹿島は、1つ勝てば次がもう代表決定戦となります。しかし、その決定戦の相手は既に決まっていて、ことし都市対抗のベスト4まで残った三菱日立パワーシステムズなんですよ。関東の最終予選は敗者復活戦がありません。玉置隊長、頑張ってください!大阪で待っています。
2度目の“近畿勢決勝”も箕島が制す
では『第42回全日本クラブ野球選手権大会』、4日の最終日に行われた決勝の詳細です。ことしは西近畿代表・和歌山箕島球友会と、東近畿代表・大和高田クラブの“近畿対決”となりました。2000年以降は近畿勢の決勝進出が多く、最近では2013年に箕島球友会がミキハウスREDSを破って優勝、2012年は滋賀高島ベースボールクラブに箕島が延長10回でサヨナラ負けしています。
そして、今回と同じ大和高田クラブと戦って箕島球友会が初優勝した2006年。大和高田の佐々木恭介監督が「箕島に1つ借りがあるから」と話していたのは、この時のことですね。逆に箕島の西川監督が「前回はうちが勝ったので」と。そんな中で迎えた決勝は、両先発左腕が一歩も譲らず0対0のまま延長戦に突入し、タイブレークを制した箕島がサヨナラ勝ち!10回を終えても1時間52分という、非常に短い試合時間でした。
9月4日 決勝
大和高田クラブ-和歌山箕島球友会
高田 000 000 000 2 = 2
箕島 000 000 000 3x= 3
※延長10回からタイブレーク
◆バッテリー
【箕島】○和田 / 水田
【高田】米倉-●山田 / 大谷-恩庄
◆本塁打、三塁打、二塁打 なし
◆打撃 (打-安-点/振-球)
1]右:夏見 (3-0-0 / 1-0)
2]中二:岸田 (4-1-0 / 0-0)
3]一:岸 (4-0-0 / 1-0)
4]指:林 (4-0-0 / 0-0)
〃走指:木村 (0-0-0 / 0-1)
5]三:穴田 (4-2-1 / 0-2)
6]左:平井 (3-0-1 / 0-0)
7]捕:水田 (5-2-1 / 0-0)
8]遊:西口 (3-1-0 / 0-0)
9]二:冨樫 (1-0-0 / 0-1)
〃中:森下 (0-0-0 / 0-0)
◆投手 回 球(安-振-球/失-自)
和田 9.2回 106球 (3-4-0/2-0)
※タイブレークの自責なし
<試合経過> ※敬称略
1回の守備でいきなり捕球エラーしてしまったサードの穴田ですが事なきを得て、先発の和田は3回までノーヒット。4回は先頭にバントヒットを許すも、西口の好守備などで後続を断ち、5回は2死からのポテンヒットのみ。一方、箕島打線も1回が岸田の中前打、2回は水田の右前打、3回と4回は冨樫と穴田が選んだ四球、5回は西口の左前打と、毎回ランナーを出しながら得点できず前半が終わります。
試合開始から50分足らずで入った後半、両先発が6回から3イニング連続で三者凡退!和田は9回も三者凡退に切って取り2安打無失点。その裏、簡単に2死を取られたものの穴田が2ボールから変化球をうまくセンター前へ!続く暴投で二塁へヘッドスライディングしてセーフ。平井の四球で2死一、二塁とし、水田が右方向へ鋭い打球を放ちますが、これは惜しくも二直…。箕島3安打、高田2安打で0対0のまま延長戦に突入しました。
1死満塁でスタートするタイブレークが採用された10回は、打順をそれぞれ選択でき、その前の3人で塁を埋めます。先攻の大和高田は2番・今里からの打順を選択。8番、9番、1番が走者です。続投の箕島・和田は今里を2球で追い込んだあとボールを挟み、ちょうど100球目を打たれて中前タイムリー。2点を先取されるも、後続は内野ゴロ2つで断って味方の反撃待ち。
その裏の箕島は、先頭打者に5番・穴田を選択!三塁に岸田、二塁は岸、一塁が林の代走・木村と足の速い選手を並べます。大和高田の投手は9回3安打無失点の左腕・米倉から右の山田にスイッチ。穴田はカウント1-1の3球目、変化球を打って遊ゴロ。と思いきや、当たりが緩い上に大きなバウンドとなって、激走した穴田はセーフ!このタイムリー内野安打で、まず1点を返しました。
なおも1死満塁で、続く平井は右ふくらはぎへの死球。押し出しで同点です。続く水田はストライクを2つ見送って0-2と追い込まれながら、3球目の変化球を右方向へ!9回は二直でしたが、今度はしっかりと一、二塁間を抜けて右前タイムリー!箕島がサヨナラ勝ちで、2年ぶり4回目の優勝です。
「穴田でいこか」「いきましょう!」
では、和歌山箕島球友会・西川忠宏監督の談話をご紹介します。タイブレークの打順選択で、穴田選手を指名したことについて「左ピッチャーが得意なんでね。まあ右に代わったけど、そこは勘というか、オーラみたいなものを感じた選手を使うことにしています。穴田は光っていましたよ。原井コーチから『(1番の)夏見にしましょうか?』という話もあったけど、私が『穴田やな』と言ったんです」と説明。
そして「決して足が速くない穴田の」と言って少し笑い「あの走塁が素晴らしかった!(アウトと)手を上げかけていた塁審に、セーフと言わせましたから。決勝でタイブレークに入って、滋賀高島に負けた時がちょうど逆の立場だったんですよ。あそこで手を上げられたら終わり。きょうは和田もよかったけど、やっぱり穴田でしょう」と、期待に応えたことを喜ぶ西川監督でした。
原井和也コーチも「悩んだけど、監督が『穴田でいこか』と言って、僕も『いきましょう』と。結果的には、穴田で正解でしたね」とニッコリ。また「僕の西武ドーム(名称は何度か変更。クラブ選手権の意味)の成績は16勝2敗ですよ。すごいでしょ?決勝で滋賀高島に負けたのと、3年前の2回戦と2つしか負けていない」と。さすが西武ライオンズのOBですね。
投打のヒーローは語る
では、箕島の選手に聞いたコメントをご紹介しましょう。まず和田拓也投手。「準決勝か決勝、どっちで投げるにしても全力を尽くそうと思っていました。絶対に優勝したかった!タイブレークは予想していなかったですね。でも準備はしていたので。あの2点、いい球はいったけど、ワンバウンドでよかったかなと。打線がつないでくれて、勝ててよかったです」
優勝監督に続いて、投打のヒーローがインタビューされ、和田投手はもう最初から涙、涙だったんですが「感謝の気持ちでいっぱい」「選手権も全力でいく」としっかり回答していました。
そうそう、2試合に投げて2勝、しかも完封1と完投1で、今大会の最高殊勲選手賞を獲得した和田投手。表彰されたのは「大学の最後に最優秀投手に選ばれて以来」だそうです。西川監督が「和田はああやって笑いながら投げるのが武器」と話す笑顔にエクボも見え、取材陣もつられてニコニコです。
同じく、決勝タイムリーでインタビューに答えた水田信一郎捕手は、優勝が3度目とあって落ち着いたもの。「9回に後輩たちがチャンスを作ってくれたのに結果を出せなくて、今度は絶対に決めてやろうと思った」「フォークがいいピッチャーと聞いていたので、低めだけ意識して目線を下げて打席に入った」とさすがのコメント。
最後に観戦されたお母さんに一言どうぞ、と振られて声高らかに「おかん!打ったぞー」と(笑)。お母さん、よかったですねぇ。
箕島V戦士たちのコメント
林尚希選手は、主将になった年が予選敗退で、ことしは本大会に出場したものの結果がなかなか出なくて…それでもイニングごとに選手を集めてゲキを飛ばす役割がありました。「一応、4番なのに自分の成績もよくなくて…」。ものすごくしんどかったでしょうね。優勝が決まった瞬間に、もう号泣でした。
チームが整列して、スタンドに向かってお礼の挨拶をする際も涙がポロポロ。でも閉会式のあと、グラウンドで「同期、集まれ!」と声をかけ、穴田選手らと記念撮影した時はいい笑顔も見えています。最後に「勝ってよかった!報われた」と息を吐きながら一言。本当にお疲れ様でした。
2年前の首位打者・平井徹選手は、今大会で「チームが勝てばいい」と繰り返していたんですが、決勝の10回に同点となる貴重な“押し出し死球”。感想は「痛かったけど、よかった!」です。逆に2年前はノーヒットだった西口稔基選手。「呪縛は解けました。(打率)4割です!日本選手権は打っているので今回も打ちます。もう一回り大きくなって、もっと打てるように、勝てるように頑張ります」とのこと。
ルーキーの2人、1回戦で5打数5安打の冨樫和秀選手と、準々決勝で5打数4安打の夏見宏季選手は「楽しかった!」と声を揃えます。「もっとやりたかった。もっと打席に立ちたかった。首位打者が獲れたかもしれないので」と。さらに冨樫選手が「1、2試合目は大ブレークして、準決勝と決勝は大ブレーキ…」と自分たちのことを表現しました。う、うまい!と思わず言ってしまってすみません。そんなことないですよ。ミスした部分もあったけど、若さあふれるスイングや走塁がチームを引っ張ったと思います。
本大会の首位打者には届かず
表彰選手は最高殊勲選手が箕島の和田投手で、敢闘賞は大和高田クラブの山本投手、そして首位打者に16打数8安打5打点で打率.500の大和高田クラブ・岩永選手が選ばれました。首位打者には「決勝進出2チームが対象」「全試合に出場」「4試合で13打席かつ11打数以上」という条件があります。
そこで、大和高田の岩永選手と金井選手(14-7)、そして箕島の冨樫選手(12-6)の3人が並んだのですが…「安打数上位を首位打者とする大会規定」により、岩永選手になっています。
ちなみにルーキーコンビが話していたように、冨樫選手が12打数6安打3打点(.500)、夏見選手は16打数7安打2打点(.438)でした。穴田選手は17打数7安打4打点(.412)、しかも4試合すべてに安打というのは岩永選手をも上回っていますからね。そのうち三塁打1本、二塁打2本です。ホームランは…秋の日本選手権、京セラドームに取っておきましょうか。
「このメンバーで、まだ野球がしたいな」
お待たせしました。締めは、われらが穴田真規選手です。西川監督から、4試合のうち2試合も“殊勲”として名前を挙げてもらう活躍で、原井コーチや前キャプテンの浦川さんにもバッティングを評価されています。本人も手応えのある大会だったでしょう。
決勝のタイブレークで、最初の打者に指名されたことは「左ピッチャーだったんで俺からかなと予想はしていましたよ。打てる気しか、しなかったんで」と真顔で言います。ドヤ顔ではなく。そうだったんですね。でも「そしたら右ピッチャーになって、うわ~どうすんねんと。知らんピッチャーやし、データもないし」と今度は苦笑いでした。でも打席で表情には出ていなかったですよ。
球は3球ともスライダーで「内野が後ろに守っていたから、内野ゴロでも1点入る。でもゲッツーもある。とりあえずヒットを打とうと思った」そうです。緩いショートゴロだったけど、結果的には内野安打。「一塁はギリギリでやったでしょ?自分で『セーフやろ!』って言うたんです。あれ、審判に聞こえたかも(笑)」
そこからサヨナラ勝ちにつながったわけですが、穴田選手は言います。「でも、きょうは和田やわ。3、4点取られる覚悟をしてたのに、ほんま頑張ってくれた」としみじみ。2年前、今回ほどではないけど穴田選手も貢献しての優勝でした。それと比べてどうかと聞いてみたところ、こんな話をしてくれました。
「ことしの方がうれしいです!岸、冨樫、夏見と俺で、(平井)徹さんとこへ行ってメシ食ったんですよ。その時に『このメンバーで、まだ野球したいな』って言ってて。だから、このメンバーで優勝できたのが一番うれしい」
社会人野球の中でもクラブチーム所属の選手にとって、3年目や4年目というのは “この先” を考える分岐点の時期かもしれません。大学出の選手なら、なおのこと。穴田選手も4年目なんですね。昨年は7月の初めで終わってしまったシーズンだけど、ことしは日本選手権があります。水田選手が「日本選手権での1勝は悲願。和歌山箕島球友会の歴史に新たなページを刻みたい」と話していました。1勝と言わず、何度も笑えるよう応援しています。
<写真は筆者撮影>