水難の概況から見えた今夏の事故の特徴 秋の行楽シーズンを安全に過ごすためには
9月に入っても子供の水難事故が続いています。自宅付近の川や池などで1人はもちろん友達と一緒でも遊ばないように言って聞かせたいところです。彼岸が明ける26日までは要注意。(9月23日追記)
警察庁から水難の概況(令和3年夏期)が発表されました。ニュース記事と比較しながら読み解くと「ここに気を付ければよい」というキーワード、近所の川、バーベキュー、釣りがあぶりだされてきます。これをヒントに秋の行楽シーズンを安全にお過ごしください。
水難の概況(令和3年夏期)
9月10日に発表されました。7月と8月に全国で起きた水難は、昨年の同期より53件減り451件で過去最少となりました。水難者は565人(昨年比51人減)。うち死者・行方不明者は212人(同50人減)で、中学生以下の子どものそれは16人でした。
場所別では212人のうち、海が94人(同20人減)、河川は87人(同25人減)でした。行為別では魚取り・釣り中が49人で最も多く、水遊びの31人、水泳の23人が続きます。
これまで発表された水難の概況(夏期)のデータから得られた場所別の死者・行方不明者の推移を河川と海に絞って図1に示します。
今夏の総数212人から河川と海での死者・行方不明者数を抜き出して、それを平成28年からグラフ化しています。この中で、海での死者・行方不明者数はこの6年間で明らかに減少しているのに対し、河川での死者・行方不明者数は、昨年に関しては大きく増加し、今年は減少に転じました。また平成28年には海での死者・行方不明者が多かったのに対し、昨年に続いて今年も河川と海とでほぼ同数となりました。
コロナ禍の時代において、県境をまたいでの往来が自粛されて、県内の河川に多くの人が出かけて水遊びを楽しんだ昨年は河川での水難による犠牲者が増えたものの、今年は水遊びを控えるか、水難事故対策が奏功してきたか、そのような事情が数字に反映されたかと思います。そのことは次に説明する子供の水難の統計にてくっきり表れます。
子供の水難事故
中学生以下の子供の死者・行方不明者数は昨年同期と同じでしたが平成29年、30年、令和元年はそれぞれ14人でしたから、この6年間の推移としてはむしろ微増であると言えます。
図2をご覧ください。総数16人から河川と海での死者・行方不明者数を抜き出して、平成28年からグラフ化しています。この中で、海での死者・行方不明者数はこの数年は一定だったのに対し、河川での死者・行方不明者数は、昨年から増加に転じ、さらに両方を足した数を押し上げてきています。
総数16人のうち、12人については新聞記事等で追うことができました。水難の起きた日付で見ると土日が圧倒的に多く、小学校低学年のお子さんが犠牲になっています。親子で水遊びに来て溺れた水難が目立ちました。一方、小学校高学年や中学生になると友達同士で曜日に関係なく水辺に遊びに来て水難にあっています。
7月24日の土曜日は全国で水難が集中した特異日でした。子供3人が命を落としています。この日は北海道から九州北部まで晴れて所々で猛暑日になりました。多くの学校で夏休みに入りました。その最初の土曜日でした。このようにある条件がそろうと水辺に繰り出す人の数が増えて、否応なく水難も増えるという関係がわかります。
コロナ禍で子供の水難にどのような変化があったでしょうか。昨年は初夏から河川での子供の水難が目立ち、5月、6月は平日の川などの水難が大変目立ちました。例年ではありえなかったことです。
これは、新型コロナウイルス感染防止対策のために学校が休校したり、分散登校したりして、子供の自由時間が増えたことに起因すると筆者は推測しました。それでは休校などの措置が取られなかった今年の状況はどうだったでしょうか。同じ時期の水難について小中学生に絞り新聞等報道発表分だけを比較してみました。発生日、発生都道府県、死亡した子供の学年と性別、場所、曜日の順に示します。
★2020年・昨年
5月
22日 長野県 小学2年男児 川 金曜日
30日 熊本県 中学3年男子 川 土曜日
6月
2日 福岡県 小学5年男児 用水路 火曜日
2日 福岡県 小学3年男児 用水路 火曜日
3日 東京都 小学3年女児 川 水曜日
9日 埼玉県 小学4年女児 川 火曜日
20日 三重県 小学3年男児 川 土曜日
★2021年・今年
5月
9日 香川県 小学1年男児 池 日曜日
15日 東京都 中学1年男子 川 土曜日
6月
12日 北海道 小学2年男児 湖 土曜日
26日 大阪府 小学2年男児 川 土曜日
昨年は家のすぐ近くが水難の発生場所でした。今年は家族で行くことのできる範囲の近所で水難が発生しました。
コロナ禍という条件では同じ2年分。そのデータを比較しただけでも、昨年は平日に子供の水難事故が目立ったのに対し、今年は土日に集中していることがわかります。このことから、ごく普通の登校が子供の水難事故の防止には重要な役割を持つことがわかります。「子供から目を離さない」とは、大人の管理下におくことだったのです。
秋の行楽シーズンを安全に過ごすために
「水難は近所の川で発生する」のが当たり前です。緊急事態宣言の中、県境をまたがずに近くの川や湖にて休日を過ごす方がおられるかと思います。「近くの川だから安全」ではありません。大人ばかりが覚えておくのでなくて、子供たちにもぜひ教えてあげてください。
バーベキューでは救命胴衣の着用以前に、「水に入らない」ように声掛けしあいます。河原や湖畔でのバーベキューは、食べ始めると意外と早く終わったりします。その後に時間ができると川や湖に興味が移ります。そういう時にバーベキューの装備は持ってきていても、水の中に入って遊ぶための装備は準備していないことが多いので、水に入りません。この夏も子供が知らぬ間に川で溺れたという事故が頻発しました。
アユ釣りなど、釣りには救命胴衣着用必須です。筆者記事「アユ釣りの水難事故 9月は川の深みに注意したい」で述べた通り、このところアユ釣り中の水難で溺れる人が目立ちます。アユの釣り人が出かける際には、ご家族は「救命胴衣を着て楽しんで」と声掛けと共に、救命胴衣をきちんと持って出かけるか、確認してあげてください。ベテランの高齢者が主に亡くなっています。「おととしも大丈夫だった、去年も大丈夫だった」「だから今年も大丈夫」ということはありません。誰でも年齢を確実に重ねています。そうしてとうとう最期を迎えるものなのです。
さいごに
今年の夏も悲しい水難が続きました。今夏の水難を分析することにより得られた「ここに気を付ければよい」というキーワード、近所の川、バーベキュー、釣りを胸にして、秋の行楽シーズンを安全にお過ごしください。
注 警察では、水難事故とは言いません。事故かもしれない、事件かもしれないから水難と呼びます。実際に水難事故を装った事件は昔からあります。本稿では、水難の概況からひも解いた説明には水難と呼称します。