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子供の水難事故のシーズンは過ぎたの? いやいや、これからが本番です

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
酷暑が続く中、お盆明けの夏休みの子供たちの向かう先は(筆者撮影)

 7月29日のNHKくらし☆解説に情報提供した時点で、中学生以下のお子さんの水難事故による犠牲者の数は全国で11人でした。そのほとんどが平日に起きた水難事故によるもので、しかも場所は身近な水辺でした。時が進み、8月16日現在では、その数は少なくとも19人に達しました。通常の年では、お盆が過ぎれば子供の水難事故が減る傾向にありますが、今年はこれからがシーズン本番です。

7月29日まで

 NHKくらし☆解説「コロナ禍の夏 子供の水難事故を防ぐには」にて、筆者監修で水難事故から子供の身を守る方法が解説されています。

 7月29日現在では、中学生以下のお子さんの水難事故による犠牲者の数は全国で11人、内訳は海2人、河川や用水路が9人。そして、9人が平日の事故に巻き込まれていました。

 そもそも水難事故は、人の活動範囲内で発生します。つまり、子供の足の活動範囲内にある水辺と言えば川とか池。ここには用水路やため池などの農業用水施設も含まれます。だから、子供同士で遊びに出かけるとなれば、目的地もなくふらふらしながらでも、川や池はひとつの到達点に容易になり得ます。実際に最新の警察庁水難の概況にも、「中学生以下の子供の水難事故者数の半数は河川で発生した事故による」と記載されています。

 そして、平日に水難事故が多かったこと。例えば昨年の5月から7月までの間に全国で発生した子供の水難事故は、休日1件、平日1件でした。通常の年では平日の水難事故はありえないのです。子供たちは学校や塾で忙しいからです。でも今年は、新型コロナの影響で学校が休校になったり、分散登校になったり、あるいは塾などが自粛になったりして、子供の自由な時間が増えてしまいました。だから事故が平日に多く起きたと見ています。

7月30日から

 7月31日に熊本で10歳のお子さんが川で溺れ、8月2日には4歳のお子さんが海で溺れ、8月3日には海と川でそれぞれ1人ずつ溺れています。

 8月6日には宮城県で女子中学生が集団で川に遊びに来ていて、そのうちの2人が白石川に流されて亡くなるという水難事故がありました。学校プールが開放されていたり、公営プールが開放されていたりして、普段通りにプールに涼を求めていれば、もしかしたら防げた事故だったかもしれません。

 8月11日には釣りをしていた中学生がため池で溺れて死亡、8月14日には、小学生の男の子がお父さんとともに川で溺れて亡くなりました。

 これで、5月からの水難事故による子供の犠牲者は少なくとも19人。筆者がメディア情報から抜き取った数なので、実際にはこの数字よりも多いかもしれません。

今日から

 早いところでは、今日、8月17日から学校が始まるところもあるようです。

 小学館の情報サイトHagkumの調べによれば、夏休みの終了日は東京23区内の多くの小学校で8月23日、横浜市の小学校は16日で、その他の神奈川県内の小学校の夏休みは23日まで。関東各県の主だった市の小学校の夏休み最終日は16日から23日までのどこかになっています。

 今年は多くの学校プールが開いていません。公営プールも閉館しているところが目立ちます。いつもだったら、子供同士でいくはずのプールの多くがやっていません。そうなると、状況は今年の5月や6月にきわめて似ることになります。すなわち、子供同士で近所の川に出かけることになりかねません。

 学校が始まったとしても、午前いっぱいで放課ということになれば、やはり同じこと。学校で友達同士で午後の遊びの計画を立ててしまったら、ますます危ないことになります。

どうしたらよいか

 この1週間は特に気を付けなければなりません。とにかく、口酸っぱく「川や池に近づかない」と学校や家庭で言って聞かせなければなりません。また、近所のプールの開放状況がわかるようであれば、積極的に子供たちに知らせてあげるのも手です。スイミングスクールによっては、水泳教室体験会を開くところもあるはずです。

 水難事故に至るきっかけも、子供たちに簡潔に教えてあげてください。次に列挙するのは、今年起こった水難事故です。

1.浅い川でサンダルが流されて、追いかけていったら、急に深みに入って溺れた

2.サンダルがボールに変わっても同じことが起きる

3.用水路にかかる鉄骨に乗って釣りをしていたら落ちて溺れた

4.ため池で釣りをしていて斜面から落ち、あがれなくなって溺れた

5.透きとおった水で、底がよく見えて浅く感じて入ったら、深くて溺れた

 さらに、次の動画を使って、溺れた時の対処法を教えてあげてください。

動画1 事故から救助までの一連の流れ(少し古いですが。水難学会提供)

動画2 沈水からの回復(水難学会提供)

まとめ

 いつもの年なら、残暑の中、あちこちのプールで子供の歓声が響きわたる頃。こうやって、わが国は夏休み中の子供の水難事故を減らしてきました。

 今年は違います。これから1週間が子供の水難事故のシーズン本番です。そして、ちょっとした声掛けが奏功するかもしれません。ぜひ、学校ー家庭ー地域が一丸となって「水辺に近づくな」の大合唱をしてみませんか。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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