「あいち2022」は焼き物の町・常滑会場が面白い!「あいちトリエンナーレ」から名称変え一新
愛知県内に4会場。全会場をめぐるには3日が必要
国際芸術祭「あいち2022」が7月30日に開幕しました(10月10日まで)。2010年の第1回から3年に一度開かれてきた「あいちトリエンナーレ」から名称を変えての開催です。
愛知県が主体の事業のため、会場が県内各所に分かれているのが特徴。名古屋市の他、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)の4会場。愛知芸術文化センター以外の3会場はいずれも初めての開催場所で、これまでにない展示が期待されます。
一方で全会場をめぐるのは過去最高に高難度。各会場間が電車で30分~1時間ほど離れているため、1日で回り切るのは事実上不可能です。駆け足で回るのももったいないので、遠方から訪れる場合は2泊3日でスケジュールを立てることをお勧めします。
筆者は郷里の常滑一点買い!
関係者向けの内覧会は開幕前日の7月29日に行われたのですが、当然、全会場を回るのは無理。筆者は割り切って常滑会場だけをめぐることにしました。常滑を選んだのは、自分の郷里だからという単純な理由です。しかも展示エリアの「やきもの散歩道」は子ども時代の通学路。勝手知ったる場所がアートの祭典にどのように活かされているか、興味があったのです。
名鉄電車で常滑駅へ(名古屋から中部国際空港行ミュースカイへ乗ると、ひとつ手前の常滑駅には停車しないのでご注意を)。ここから徒歩でやきもの散歩道へ向かいます。駅から3分ほど歩くと最初の見どころである「とこなめ招き猫通り」が。壁に埋め込まれた個性あふれる39体のご利益招き猫が出迎えてくれます。
ここから坂道を登ったところにあるのが「とこにゃん」。高さ3・8m×幅6・3mの巨大な招き猫の頭です。ちなみにとこにゃんの目玉がくりっとしたかわいらしい表情は、常滑の招き猫の特徴。「招き猫生産日本一」を誇る常滑らしいフォトスポットです。
廃工場跡などを活かしたインスタレーションや映像作品の数々
「旧丸利陶管」は常滑のメイン会場ともいうべき展示スポット。かつて常滑の主要製品だった土管の工場跡地で、大胆なインスタレーション(展示空間全体で表現し体感させるアート)が展開されます。
圧巻はデルシー・モレロスのインスタレーション。クッキーやもちが工場の床にびっしり敷き詰められているのですが、原料は常滑の陶土。アンデスに伝わる豊穣の印としてクッキーを土に埋めて捧げる儀式と常滑の産業の素を融合させた作品で、整然とした配列を眺めていると不思議と敬けんな気持ちがわいてきます。
サバイバル登山家・服部文祥+石川竜一の展示もインパクト抜群。狩猟した鹿の皮や頭蓋骨、登山道具などを展示し、登山をアートに変換するというかつてなかった表現に挑戦しています。
「廻船問屋 瀧田家」では映像作品2作品を放映。汗だくでたどり着いた畳の部屋で足を伸ばして鑑賞するシュールなロードムービーは、ガムランの響きとともにトリップ効果をもたらします。
ギャラリーカフェ「常々(つねづね)」で見られるのも映像作品。ノベルティ(陶製人形)産業の繁栄と衰退というテーマには、常滑の陶器産業のシリアスな現状も投影され、かつて製陶所だった会場が重要な意味を持つことに気づかされます。
「旧青木製陶所」も窯がそのまま残る廃工場が会場。インタラクティブな映像作品のシュールなコミカルさが、かえって失われた工場の哀感を際立たせます。
「旧急須店舗」では、「もくもく」の擬音とともに煙突を描いた巨大なシート画が目に飛び込みます。これもまた陶都・常滑の往時の景色に思いをはせる作品です(トップ画像)。
6番目の展示場・INAXライブミュージアムへは巡回バスを利用。常滑駅または常滑市陶磁器会館から1時間1便ほどのペースで運行しています(土日祝限定・無料)。ここで観られるのは2年前に亡くなった常滑出身の陶芸家の巨匠・鯉江良二の作品。点数は限られますが、枠にとらわれない豪放磊落なキャラクターが偲ばれる作品が展示されます。
迷路のようなさんぽ道散策も見どころいっぱい
このように展示作品の多くは、製陶業で栄えた常滑の生産現場跡が活かされています。産業の栄枯盛衰が背景にあることを理解した上で観ると、個々の作品に秘められたテーマが浮かび上がってきます。
展示会場のほとんどは「やきもの散歩道」の中。狭く曲がりくねり高低もある迷路のような小径の中に、土管坂や登り窯など焼き物の町ならではの見どころの数々が。さらには陶器のショップやギャラリー、体験工房、カフェもあちこちにあり、散策ルートとしても魅力いっぱいです。インスタレーションや映像作品は解釈が難しいものも多いので、焼き物の町を歩く合間にアートも鑑賞する、というスタンスだと熱心なアートファン以外でも楽しめるのではないでしょうか。
焼き物にふれられる連携・パートナーシップ事業
常滑会場全体を回ってみて、地元出身の筆者としては、窯業生産地跡を展示空間として活かす工夫に感心しました。単に古くて渋いから使ったというわけではなく、建物のバックボーンが作品のテーマを伝える効果的な装置になっているのです。
一方で出品作品は、鯉江良二作品以外はいわゆる焼き物、陶芸作品はほとんどありません。せっかく焼き物の町へ訪れてくれる人たちに、焼き物の魅力にもふれてもらいたいとも感じました。そして、そんな思いにこたえてくれるのが本展との連携事業、パートナーシップ事業の数々です。
アートとしての焼き物の魅力が伝わるのが「Art&これからの陶・常滑」。常滑在住の4人の陶芸家による作品展です。実用的な器が多い常滑の焼き物ですが、ここで出品されるのはすべてオブジェ。四人四様のアートで、陶製作品の表現の多彩さや可能性を感じられます。会場の「ギャラリーrin´」は「あいち2022」の旧丸利陶官会場の入口横なので、ここを素通りする手はありません。
「とこなめ陶の森資料館」は常滑の陶磁器産業の歴史を非常に分かりやすく伝えてくれるミュージアム。かつて主要な産品だった甕を積み上げるミニチュアなど、子どもでも楽しめる体験型展示があるのでファミリーにもお勧めです。「あいち2022」連携企画事業「常滑の装飾タイル」も地域のモノづくりの歴史を伝える魅力的な企画展です。当サイトで5月に紹介した「杉江製陶所」製の美術タイルも見られます。8月11日からは、先ごろ解体された製陶所の一部をよみがえらせる企画展「95年前のタイル見本室再現展示」もスタートするので、こちらも楽しみです。
この他、鑑賞・散策のついでに注目してもらいたいのが狸の置物です。招き猫で有名な常滑ですが、昭和の時代までは狸も盛んにつくられていました。信楽焼のかわいらしい狸とはかなり容ぼうが異なり、鼻先がとがっていて目はくり抜かれているのが特徴。常滑市陶磁器会館やとこなめ陶の森資料館など、いくつかの場所で今も残っているので是非探してみてください(常滑の狸についても過去の記事で紹介してあります)。
常滑会場は歩くだけでも楽しい散策ルート上に主だった展示があり、なおかつ周辺の連携・パートナーシップ事業も魅力的。ゆったりじっくり1日かけてめぐることをお勧めします。
国際芸術祭「あいち2022」のチケットはフリーパスが一般3000円、学生(高校生以上)2000円、1DAYパスが一般1800円、学生1200円(いずれも中学生以下無料)。詳細は公式HPで確認の上、購入・鑑賞してください。
(写真撮影/すべて筆者)