グアム配備イージスアショア用レーダーAN/TPY-6はAN/SPY-7の車載移動型
イージスアショアとはイージス艦に搭載されるイージスシステムを陸上施設として建設し、弾道ミサイル防衛システム(BMD)として使う防空システムです。
当初の計画ではイージスアショアは欧州に2カ所、日本に2カ所を建設する方針でしたが、日本は2020年6月15日に計画中止を発表します。しかしそれよりも前からアメリカは、新たにグアムにイージスアショアを配備する計画を立てていました。
このグアム配備イージスアショア計画は「国土防衛レーダー・グアム、Homeland Defense Radar-Guam (HDR-G) 」と命名されましたが、簡単にイージス・グアム・システム(Aegis Guam system)とも呼ばれています。そしてその使用機材は欧州や日本で計画されていたイージスアショアとは全く違う物へと変貌していきます。
グアム配備イージスアショア計画の推移
- 2020年1月28日:米下院軍事委員会でルード国防次官「グアム配備イージスアショアを検討中」。出典:MDAA
- 2020年6月15日:日本政府がイージスアショア計画の中止を発表。出典:Yahooニュース
- 2020年7月21日:デービッドソン米インド太平洋軍司令官「イージスアショアをグアムに配備すべき」。出典:産経新聞
- 2021年3月09日:グアム配備イージスアショア設計開始。出典:Inside Defense
- 2021年8月20日:ヒル米ミサイル防衛局長「イージスアショアは移動可能が望ましい」。出典:Defense News
- 2022年5月06日:米ミサイル防衛局はグアム配備イージスアショアのレーダーにロッキード・マーティンSPY-7を選定。出典:Inside Defense
- 2022年7月05日:米ミサイル防衛局はグアム配備イージスアショアの移動型発射機をロッキード・マーティンに発注。出典:Inside Defense
- 2022年8月30日:米ミサイル防衛局はグアム配備イージスアショアのレーダーをロッキード・マーティンに発注。出典:Inside Defense
SPY-7の選定
注目すべきことにグアム配備イージスアショアのレーダーはロッキード・マーティンSPY-7が選定されました。中止に終わった日本向けイージスアショア用レーダーの選定機種と同じです。アメリカ海軍の新型イージス艦用の次期新型レーダーはレイセオンSPY-6が予定されているにも拘らずです。これはアメリカ軍はSPY-6とSPY-7のシステム連接に何ら問題が無いと見ている証左となります。
車載移動式システムへの変更
そして最も大きな変更が車載移動式システムとなったことです。これは仮想敵が中国では地上固定式は生存性が低いと判断された結果です。欧州イージスアショアはイランが仮想敵(※対ロシアは想定されていなかった)、日本イージスアショアは北朝鮮が仮想敵(※対中国は想定されていなかった)だったので地上固定式でも構わなかったのです。
グアムは中国軍の弾道ミサイルと巡航ミサイルの猛攻撃を受けることが想定されています。イージス・グアム・システムはそれに耐えてアンダーセン航空基地を守り抜く、あるいは出来る限り耐えて味方機が退避する時間を稼ぎ出す役目を担うことになります。
TPY-6=SPY-7を改造した車載移動式レーダー
- 分散されたAN/TPY-6レーダー
- 分散されたMK41垂直発射機
イージス・グアム・システムことグアム配備イージスアショアはレーダーも発射機も分散配備が可能とあります。移動し分散できるという意味です。
電子機器型式共通命名システム(アメリカ軍)
- AN - Army Navy(陸海軍)
- S - 水上艦艇またはブイ
- P - レーダー
- Y - Surveillance(目標探知追跡)および Control(火器管制/航空管制)
- T - 地上、Transportable(可搬型)
SPYは水上艦艇用レーダー、TPYは地上車載移動式レーダーを意味します。TPY-6という番号を見るとSPY-6と関係があると勘違いしそうになりますが、グアム向けレーダーの発注先がレイセオンに変更されたという発表は無いのでSPY-6ではありません。つまりロッキード・マーティンのSPY-7を改造したものがTPY-6ということになる筈です。
SPY-7の派生型がTPY-6という大変に紛らわしい命名になるのですが、アメリカ軍が採用した地上車載移動式レーダーの番号でTPY-4(ロッキード・マーティン製)→TPY-5(ノースロップ・グラマン製)の次の順番の番号をそのまま割り当てただけのようです。
ただしミサイル防衛局からはまだ詳しい説明がありません。
ミサイル防衛局のヒル局長はTPY-6について「レーダーの別のバージョンになる」と述べただけで、何のレーダーからどのように変更するのか説明がありませんでした。写真や図などもまだ全く発表されていないので、イージス艦用の大きなレーダーを一体どのように車載式にするのか形状などは判明していません。
車載移動式Mk41垂直発射機
ミサイル防衛局が車載移動式Mk41垂直発射機をロッキード・マーティンに発注したとある以上、これは完成したばかりのMRCタイフォンの発射機をそのまま流用するものと思われます。
参考:米陸軍にMRCタイフォン中距離ミサイルシステムが納入(2022年12月10日)
MRCタイフォンはアメリカ陸軍向けの中距離攻撃兵器で、海軍用Mk41垂直発射機を車載化してトマホーク巡航ミサイルとSM-6弾道ミサイル型を発射するシステムです。このシステムから発射機だけを流用して防空用のイージス・システムに組み込みます。4連装発射機なので6両あれば24セルとなり、欧州イージスアショア1基分に相当します。
なおMRCタイフォンについてアメリカ陸軍はSMRFタイフォンと名称変更したようなのですが、製造担当のロッキード・マーティンは現在もMRCタイフォンと呼び続けています。
- MRC:Mid-Range Capability
- SMRF:Strategic Mid-Range Fires
- Typhon