感染拡大を食い止めるカギは「特徴」の特定 クラスター対策班の医師の分析
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する報道の中で、よく聞かれるのが「クラスター対策」という言葉です。
そもそも「クラスター対策」とはどういう意味なのでしょうか?
また、「クラスター対策班」とは、どういう機関なのでしょうか?
今回は、クラスター対策班の一員であり、米国感染症内科専門医・米国予防医学専門医の神代和明医師にお話を伺いました。
(※本インタビューでは、クラスター対策班としての発言ではなく、神代和明個人の意見として発言しております)
改めて「クラスター対策」の意味について教えてください
COVID-19が流行するにつれ、この感染症の特徴が徐々に分かってきたのですが、中でも、
「感染した人の8割は誰にもうつさないのに、ある一定条件を満たす場所において、1人の感染者が複数人に感染させた事例がある」
というのが重要な事実でした。
これは、SARSのアウトブレイク時に陣頭指揮をとった感染症疫学の専門家、押谷仁教授と、日本における感染症数理モデルの第一人者、西浦博教授を中心とするチーム、および国立感染症研究所等の分析により明らかになったことです(1,2)。
そこで、多くの人に感染させた方々が「どういう特徴を持つか」を特定することが、感染拡大を食い止める一つの鍵になると考えられました。
「複数の人への感染が起こった集団=クラスターを見つけること」と、「クラスターをなるべく作らないこと」で、感染の広がりを抑止できると考えられたからです。
ライブハウスや接客業を伴う飲食店等がこうしたクラスターになったことは、報道等でもご存知の通りです。
クラスターの中ではどのように感染が広がるのでしょうか?
クラスターの形成を促す要因を考えるには、「環境側の要因」と「ホスト側の要因」の両者を考える必要があります。
まず、「環境側の要因」とは、いわゆる「3密」のことです。
クラスター化した環境について調べてみると、
・換気が悪そうな「密閉」空間であること
・近い距離で会話が行われるような、人同士が「密接」した環境であること
・多くの人が集まる環境で、かつ次の日に来た人には感染が起こっていなそうなことから、「密集」が重要な因子であること
の3つのポイントが考えられました。
そこで、「3つの密」という仮説を立てた、ということはご存知の通りです。
一方、「ホスト側の要因」、つまり、感染させる人間が持つ要因についても様々な知見があります。
前述の通り「ほとんどの人は他者に感染させないものの、ある一定数の人は感染させやすい可能性」については、日本以外の研究でも報告されています(3)。
上気道(のどなど)からのウイルス排出量が年齢によって異なるのではないか(4)、といった興味深い知見もありますが、本当の理由はまだ分かっておらず、研究を進める必要があります。
また、重症度と「他者への感染させやすさ」は必ずしも相関しないようです。
あくまで個人的な意見ですが、症状の軽い人の方が活動的なため、クラスターを形成しやすい可能性はありそうです。
例えば、密閉空間で、かつ多くの人が集まる「密集」した場所で、人と人とが大きな声を出し合って「密接」するライブハウスの中で、症状が軽い、あるいは無症状ではあるもののウイルス排出量は多い人がいた場合に、クラスターを形成した恐れがあります。
また、こうした場所に行く機会が多いと考えられる、どちらかというと若い世代は、自身の居住地域を超えて移動しやすい傾向もあるでしょう。
これにより、遠く離れた場所でもクラスターが広がっていく懸念があります。
一方で、接客を伴う飲食店(いわゆる“夜の街クラスター”)の場合は、偶然ウイルス排出量の多い中高年のお客さんが、「密集」はしていなくても「密接」した会話を介して若い従業員の方に感染させ、この従業員が他のお客さんに感染させていった…といったシナリオも考えられます。
「クラスター対策班」とはどんな機関なのでしょうか?
クラスター対策班は、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部の中にあります。
都道府県からの情報収集・疫学分析を行い、感染伝播のコンセプトを確立する押谷班、感染症数理モデルの専門家集団である西浦班(モデラーと呼ぶこともあります)と、地域でどのように感染が広がっているかを視覚化するGIS(地理情報システム)の専門家、リスクコミュニケーションの専門家、またボランティアの方々、厚生労働省の行政官による運営チームなどで構成されています。
また、自治体の要請で、現場で情報収集や疫学解析をサポートする国立感染症研究所疫学センターの実地疫学チーム(FETP研修生及びそのインスタクター)も、大変重要な役割を果たしています。
(※FETPについては、クラスター対策班公式Twitterアカウントで分かりやすく解説されています。)
対策班では具体的にどのような仕事をされていますか?
私自身は、押谷班で仕事をしています。
何をしているかを一言で説明するのが少し難しいのですが、情報収集・分析のお手伝いをしたり、行政官や検疫官の経験があるので、科学者チームと行政側の実務をつなぐ役割もしています。
また、SNSや取材などを通じて国内外への情報発信にも参加しています。
ほぼ毎日霞ヶ関に参っており、夜は結構遅くまで働くことも多いですね。
また、定期的に患者さんを診療する臨床業務もしています。これは、医師としての現場感を忘れないためにも大切にしている仕事です。
感染防止対策としての外出自粛はいつまで続くのでしょうか?またその効果は出ていますか?
外出自粛の効果等については、現在分析中です。
分析結果は5月の連休中に専門家会議の提言として共有されると思いますので、それを受けてお伝えすることになるかとは思います。
すぐに結果を知りたい、と思われる方も多いかも知れませんが、今しばらくお待ちいただければ幸いです。
(聞き手・編集:山本健人、協力:石黒義孝;本情報は5月1日時点での情報に基づいています。)
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