イスラーム過激派の食卓:「イスラーム国」は一つの国、統一された食生活を生きる?
例年、ラマダーン月は「イスラーム国」による戦果発表などが増加する月だ。特に、今年は3月に新しい自称「カリフ」が就任し、それに対する忠誠発表やご祝儀のような戦果発表が続いた勢いをそのままに、新たな攻勢の開始を宣言した。この攻勢について、同派の週刊の機関誌『ナバウ』の最新号は、「一つの国、統一された諸攻勢」と題する論説を掲載した。いわく、敵どもが「イスラーム国」の戦列を割ることに努めている中、「イスラーム国」は一体的な国として機能し、世界各地で足並みをそろえた攻勢を何度も実施することができており、それこそが同派の勝利や存続の証であるとのことだ。もっとも、落ち着いて考えればナイジェリアとモザンビークとイラク・シリアとアフガニスタン・パキスタン、インドなどなど、「イスラーム国」を名乗る諸グループはそれぞれ敵も、戦況も、資源の調達状況も異なるわけだから、本来はそうした状況を無視して一律に同じ時期に作戦行動を活発化させるのはあんまり頭のいい行動ではなく、あくまで戦果を発表する件数を増やすという広報上の連携なのかもしれない。実際の問題として、戦果についての情報や個々のグループが製作した動画や画像をどこか1カ所に集め、決まった場所で、決まった書式で発信できているという点で「イスラーム国」の機能のなにがしかは今日も残存している。
同派の戦闘員らがラマダーンのごちそうを楽しむ模様を宣伝するのも恒例行事となったが、今期は地域を越えた流行なり「統一行動」なりが見られたようだ。過日、「イスラーム国 イラク州キルクーク」が発表した画像では、構成員が川魚(おそらく鯉の一種)を自ら捕獲し、イラクの名物料理のマスグーフにする模様が見られた。イラクの名物料理である以上、これが彼らの食卓に上ること自体は不思議なことではない。その一方で、「イスラーム国」の構成員が狩猟や漁労で自ら食材を調達する姿は、同派の兵站機能や資金力(或いは寄付や恐喝に応じる者たちの数)の衰退を示している。「イスラーム国 シナイ州」も、かつてはエジプトで人気のサバのから揚げを含む彩り豊かな食卓を囲んでいたが、昨期も今期もサバのから揚げを調達するゆとりはかなったようだ。盛んに戦果を発信しているはずの「イスラーム国 中央アフリカ州」が、なんだかおいしくなさそうな川魚の料理を発信した際には、この集団が作戦行動に見合った兵站や後方支援機能を整備していないのではないかと他人事ながら心配になった。
そうした状況下の「イスラーム国」の諸州では漁労と川魚食がちょっとした流行となり地域を越えて各州が励む労務となっているようだ。写真1は、「イスラーム国 イラク州ディヤーラー」で調理されたごちそうの一つだが、上述のマスグーフとは大違いの川魚(フナの一種か?)の揚げ物風の料理だ。
一方、イラクから遠く離れた「イスラーム国 パキスタン」は、写真2の通りそれなりに手の込んだ窯を構築し、羊か山羊の肉の塊を調理して見せた。これだけ見ると、「イスラーム国 パキスタン」はかなり設備の整ったアジトなり野営地なりで起居しているように思われる。
ところが、同じ画像群の中に、写真3の通り漁網を用いてフナらしき川魚をとった漁獲の画像が混じっていたのだ。アラブやムスリムの食生活で魚が供されること自体は不思議なこととは限らないのだが、「イスラーム国」が構成員自ら漁労に励んで川魚をラマダーンの食卓に供しているという光景は、筆者としてはちょっと記憶にない。
特殊な潜伏任務やゲリラ戦の中で、戦闘員が手近な食材を調達することやそのための訓練も当然ありうることだろうが、今期のラマダーンで「イスラーム国」の諸州で地理的な隔たりを越えて漁労と川魚食が流行しているのは非常に興味深い。同派の諸州の間で、潜伏やサバイバルについての教本や訓練内容が共有されているというのならば、それはそれで同派の力量を推量する上で重要な情報となろう。