シン・ゴジラは大人向けだからこそ、子供達にも是非見てもらうべき
映画「シン・ゴジラ」が絶好調のようです。
すでに公開から3週間で230万人を動員し、興行収入も50億円を超えて今年の実写の日本映画のトップになる可能性も高いとか。
参考:『シン・ゴジラ』予想上回る大ヒット 興収50億円超え確実で年間邦画実写1位も視野
私も正直、息子たちがあまり興味をもってくれないので、DVDがでたら一人でのんびり見れば良いか、とか思っていたのが、回りの友人知人が口々に絶賛するので、あわてて息子たちを引き連れて先週末に見に行った次第です。
いや、ホントすごかったです。
映画館で見て大正解でした。
まぁ、既にシン・ゴジラの映画評論は、多くの人が語っていますし、今更映画評が苦手な自分がレビューを書こうとは思わないのですが、1つだけどうしても気になっていることがあります。
それがタイトルに書いた「シン・ゴジラは大人向けだからこそ、子どもも連れて行くべきではなかろうか」という話です。
もちろん、シン・ゴジラは明らかに「大人向け」の映画です。
庵野総監督は、脚本を書くときから明確に「大人向けにしよう」と宣言されていたそうですし、いわゆる女性向けの恋愛ストーリーとか明確に拒否。
子ども向けも意識しないという宣言をされていたようです。
従来のゴジラシリーズが子ども向け映画と捉えられることが多かったことや、通常の映画の興行が女性客を意識するのが常識であることを考えると、異色のアプローチと言えるでしょう。
だからこそ、シン・ゴジラはここまで大きな話題になっているわけですし、大人向けにしたこと自体は明確に成功の土台になっています。
何しろ、シン・ゴジラの話題でネットで一番盛り上がってるのって、明らかに30~50代の男性陣ですからね。
もちろん、私自身がそうだから周辺の盛り上がりが、余計にそう見えるというのはあると思いますが。
特に一番盛り上がっているのが、(エヴァファンの盛り上がりを除いて)いわゆる1954年の第一作の「ゴジラ」をリスペクトしている世代という印象で。
第一作の「ゴジラ」は「大人向け」の映画でしたから、従来の一連のゴジラシリーズとは明確に異なる「真」の意味での原点回帰となっている点に、昔からのゴジラファンが刺激されるのは当然でしょう。
(まぁ、実際には54年のゴジラをリアルに映画館で鑑賞した世代というと、それこそ80代とかになってしまうはずですが)
でも、あえて誤解を恐れずに言うと、あまりシン・ゴジラを大人向け大人向けと言い過ぎて、オジサン向け娯楽映画という印象にしてしまうのは良くないと思ったりもするわけです。
実は恥ずかしながら、私は映画館に一人で映画を観に行くのが苦手なタイプなので、今回シン・ゴジラを観に行くにあたり必死で息子たちを説得しました。
うちは長男が小学四年生、次男が幼稚園年少です。
当然、次男は映画とかゴジラとか何が何だかまだ良く分かってないので、説得するメインターゲットは長男なんですが、最初「行きたくない」といわれちゃったんですよね。
予告編の映像が明らかに大人向けだったのもあるんだと思うんですけど。
当然この予告編見て、小学生が自分向けの映画だとは思わないわけです。
おまけに、本人曰く「怖そう」というんですよ。
そうか、俺のビビリの血を受け継いでしまったか、と思うわけですが。
本人がハリウッド版のゴジラは見てるので「何を言ってるんだゴジラが怖いわけないだろう」と無理矢理説得するわけです。
(でも、結果的には、実は確かにこのシン・ゴジラは実に怖いゴジラだったので、長男の本能的恐怖感は正しかったわけですが)
で、それ以外にも「地元の武蔵小杉が出てくる映画なんて滅多にないんだから映画館で見なきゃダメだ」とか意味不明の理由とかをこねくりまわし、あの手この手でなんとか説得して実際に見にいったら。
なんのことはないやっぱり長男も次男もとても楽しんだみたいなんですよ。
そりゃそうですよね。
武蔵小杉から多摩川にかけての自衛隊とゴジラの衝突のシーンとか、過去の自衛隊が登場した日本映画の中でも一番自衛隊がカッコいいシーンなんじゃないかってぐらい、リアルで緊張感あふれるシーンでしたし。
地元に住んでる分を差し引いても、子ども達にも、当然あのかっこよさとか緊張感は伝わるわけです。
さらに、終盤のヤシオリ作戦なんて、電車好きの次男にとってはもう神映画です。
序盤で自分が乗ったことのある京急が飛ばされるだけでも興奮して叫んでたのに。
まさかの
「無人新幹線爆弾!」 ドカーン
「無人在来線爆弾!」 ドカーン
ですからね。
「アー、シンカンセーン!」
「アー、ヤマノテセンとケイヒントウホクセーン!(後の2つは分かってない)」
とか大興奮なわけですよ。
おまけにホイールローダーに、タンクローリーに、ポンプ車に、と働く車シリーズも大活躍。
乗り物好きの子ども達にとって、まさか自衛隊が全力で戦ったのにあっさりやられてしまったはずのゴジラ相手に、自分達が大好きな新幹線とか、乗ったことのある電車とかが、見事な攻撃を見せてくれるわけで。
これで子どもが興奮せずに、何を見たら興奮するんだという話なわけですよ。
当然、大人でさえついて行くのがやっとのあのスピード展開ですから、次男はもちろん長男もシン・ゴジラのストーリーを理解できたとは全く思いません。
会議のシーンとか、ほぼ意味不明だったことでしょう。
ただシン・ゴジラにおいては会議のシーンとかも超テンポが良い関係で、そんなに飽きないみたいなんですよね。
さらに役者さん達のレベルが高いので、表情とか仕草とか空気感とかで、なんとなく雰囲気は伝わっているわけです。
印象的だったのが、冒頭の各省庁がずらりと並んだ会議室で矢口のリクエストに「今のってどこの役所に言ったんですか?」と役人が戸惑うシーン。
思わず長男も次男も笑ってるんですよね。
(次男は明らかに会場の笑いに釣られてですが)
カヨコ・アン・パタースンのルー大柴的な英語とか、大げさな演技とか、総理代理「ラーメンのびちゃったよ」のシーンとかも、やっぱり子供たちも笑うわけです。
で、「仕事ですから」とか、ヤシオリ作戦の出撃前のシーンとか、やっぱり子供たちも真剣な顔で見てるわけです。(話は全く分かってないでしょうけど)
で、家に帰ってきたら長男が食い入るようにパンフレットを読んでいるわけです。
子供連れでシン・ゴジラを鑑賞していて印象に残ったのが、シン・ゴジラにおいては明らかに登場人物が死んだシーンというのは多数出てくる一方で、死んだ瞬間自体というのが直接的には描かれていない点。
アクアラインで土砂をもろに受ける車といい、ゴジラが作り出した「津波」に追われる人々といい、ゴジラが倒したマンションの中で逃げ遅れていた住人といい、ゴジラの光線に撃墜される戦闘機やヘリといい、ゴジラの必死の反撃に破壊されるポンプ車といい、明らかにそこにある「死」を想像させるシーンは多数ありますが、いわゆるハリウッド映画でありがちな死ぬ直前の断末魔の叫びだったり、流血やグロい表現は一切ありません。
だからこそ、より一層そこにある「死」を真剣に想像してしまうわけですが、直接的な死の表現が少ないという意味では「大人向け」ではありつつも安心して子供に見せることができる映画になっているということも言えるでしょう。
庵野総監督は、映画は「大人向け」にはしていますが、視聴者としての子供を排除しているわけではないんです。
正直私は、「ゴジラ」は、キングギドラから地球を守るために戦っているイメージという普及版ゴジラの世代です。
ゴジラ怪獣大図鑑みたいな本を親に買ってもらって、ゴジラとかキングギドラとかアンギラスとかガイガンとか、端から端まで怪獣の名前とか特徴を覚えていたゴジラマニアでした。
そういう意味で、今回の「シン・ゴジラ」は実は私の中では「ゴジラ」ではありません。
ゴジラの顎があんな二股に分かれちゃダメなわけです。
ゴジラが巨神兵とかエヴァンゲリオンの使徒みたいに、体中から光線出しちゃダメなわけです。
ゴジラはなんだかんだ人類を本気で滅ぼすつもりはないわけです。
なにしろ、昔のゴジラは映画の中で当時流行していたギャグの「シェー」をガチでやってますからね。
愛嬌満載だったわけですよ。
私自身は、どっちかというとゴジラ対モスラでゴジラを悪役にしてしまうモスラが嫌いだったぐらいです。
でも、今回のゴジラの気味の悪さったらないですよね。
次男ですら、あの第二形態が出てきたときに「アレ、ゴジラジャナイヨー?」と思わず大声で聞いてきましたが。
私も完全にコレジャナイロボ状態。
でも、初代ゴジラはまさしく人類が想像もしなかった巨大な脅威だったわけで、愛嬌のかけらもないシン・ゴジラこそが、真の意味でのゴジラの正当な後継映画と言えるのでしょう。
庵野総監督は、今回の「シン・ゴジラ」で60年以上前に撮影された初代「ゴジラ」に原点回帰しつつも、次の若い世代にとっての新しい初代「ゴジラ」の衝撃を生み出すことにチャレンジされたと受け止めています。
この「シン・ゴジラ」は明らかに「大人向け」ではありますが、「大人向け」だった初代「ゴジラ」に影響を受けた子供たちが、いま大人になり、新しい「ゴジラ」に挑戦し続けている経過の一つの結晶ともいえます。
そういう意味で庵野総監督の「シン・ゴジラ」に影響を受けた子供たちが、これから10年後、20年後に、どんな新しい表現に挑戦してくれるんだろうと考えると、今からワクワクしてくるじゃないですか。
そういう意味で、せっかくの庵野総監督や関係者の皆さんからの贈り物である「シン・ゴジラ」を、我々昭和生まれの世代の昔語りのネタにだけしてしまうのは、あまりにもったいないと思うんですよね。
まだ夏休みが終わるまでには時間があります。
うちの子供にはシン・ゴジラはちょっと難しそうかな、と思ってるお父さんお母さんにも、ぜひそう言わずに子供たちを映画館に連れて行ってあげて一緒にみてみていただければと思います。
きっと、映画が終わったら、少し背伸びをした子供の違った一面が見えると思いますよ。