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カジノ広告規制から考える既存ギャンブル統制の在り方

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:中原義史/アフロ)

さて、日経新聞から以下のような報道がありました。

カジノ広告、空港・港に 国際線ターミナルのみ

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO40241640Q9A120C1MM8000/?fbclid=IwAR1ecLoRvJpCCq6jgQdc3Zd1ZIZPgr7nNJCZOAJ3RQTtNv_V_U9L1-wYSqw

政府は2020年代半ばにも開業するカジノを含む統合型リゾート施設(IR)を巡り、カジノの広告を空港や港の国際便の発着ターミナル周辺に限定して認める方針を固めた。ギャンブル依存症対策のため、施設の外では原則として広告は禁止するが、外国人旅行者の誘客目的に限り認める。3月までに策定する政令に盛り込む。

国際線が発着する空港や港のうち、国際線の利用客が使う入国審査区域や税関などで広告を認める。日本人のギャンブル依存症を懸念する声があるため、日本人の目にとまりやすい外国人向け観光案内所や鉄道・バスの乗降所は対象外にする。

本方針はすでに昨年11月の時点で明らかになっていたものであり、なぜ今頃それが報道されるのかは判りませんが、報道の通り「日本版カジノの広告は空港や港の国際旅客ターミナル周辺に限定する」というのが従前からの既定路線です。

この規制の在り方の根拠となるのが「日本人のギャンブル依存症を懸念する声があるため、日本人の目にとまりやすい外国人向け観光案内所や鉄道・バスの乗降所は対象外にする」というもので、私としては勿論その方針には賛成なワケですが、一方で疑問に思うのが既存のギャンブル等産業における広告の在り方です。

我が国ではパチンコ、公営競技、富くじと既存のギャンブル等産業が存在するワケですが、このうち広告に対する法的な制約を受けているのはパチンコ産業だけ。風営法はその第十六条に以下のような規定を設けています。

(広告及び宣伝の規制)

第十六条 風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

また、上記はあくまで営業所「周辺」における広告規制を定めるのみの条文でありますが、警察庁はこれに加えてパチンコ店の営業所周辺「以外」の広告行為を各都道府県条例の定める「著しく射幸心をそそるおそれのある方法で営業しないこと」等の規定の「解釈」の範疇で規制することが出来るとしています。(※但し、ここには常に議論がある)

このようなパチンコ産業に対する広告規制の一方で、法的な広告規制を一切持たないのが競馬、ボートレース等の公営競技です。公営競技の広告に対する制限は、現在、一般社団法人日本民間放送連盟放送基準等のメディア業界団体が定める自主規制があるだけであり、法律上の制限はそこには存在しません。

また、この自主規制も「投票券購入を想起させる表現、高額的中がある旨の表現、ゴール映像等を用いないなど射幸心をあおる内容にならないよう」との定めがあるのみであり、広告そのものを禁ずるものではない他、「広告」以外には制限がかけられていない為、週末には競馬番組が放送され、投票券購入を想起させる表現、高額的中がある旨の表現はもとより、ゴール映像等を用いるなど射幸心を煽りまくる番組が堂々と放送されているという、有名無実な自主規制となっています。

また、宝くじやサッカーくじなどに至っては、広告に対する規制は法律上も自主規制上も存在しない為、連日「一等賞金~億円」などとして高額的中がある旨の表現が広告の中で連日謳われている。また、近年ではスクラッチくじにワンピースだの、ドラゴンボールだのと青少年を積極的に引き込んでしまうようなコンテンツを使ったプロモーションまでもが行われているのが現状であります。

私自身は、我が国のカジノ、公営競技、パチンコ、富くじがすべて横一線で同じ規制を受けるべきだというスタンスの人間では必ずしもないのですが、一方でカジノ側に課される広告規制の根拠となっている「日本人のギャンブル依存症を懸念する声があるため、日本人の目にとまりやすい外国人向け観光案内所や鉄道・バスの乗降所は対象外にする」という理屈は、カジノのみならず既存のその他ギャンブル等産業にも同様にいえるのも事実。

その観点からは、少なくとも現在、カジノ側にかけられる予定となっている各種広告規制をその他産業に適用しうるかの検討は必要だと思いますし、もし適用が「相応しくない」とするのならば、カジノとその他産業のどういう違いをもって規制の在り方を分ける必要があるのかを明確する必要があると思います。

現在政府は、昨年7月に成立したギャンブル等依存症対策基本法の規定に基づき、今年4月までに国側の総合的な基本計画を発表する準備の真っただ中。また、それら策定の事務方トップを務める内閣官房ギャンブル等依存症対策総括官の中川真さんは、同時にカジノ側の広告規制の基本方針策定を取りまとめるIR整備推進本部事務局の責任者(事務局次長)でもあるわけです。少なくとも、カジノ規制側で「日本人へのギャンブル等依存症対策の為には広告規制が必要」と言いつつ、その他既存のギャンブル等産業に関してはその論議を俎上にすら載せないなどと、両者の立場に齟齬が出ないように慎重に論議の交通整理を行って頂きたいものであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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