黒海でロシア軍が英駆逐艦に警告爆撃。英側は否定
6月23日、ロシア国防省は黒海でイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」に対し、国境警備隊の巡視船による警告射撃およびロシア軍のSu-24攻撃機で警告爆撃を実施したと発表しました。
イギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」とオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」の2隻は、極東に向けて遠征作戦を実施中のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群CSG21の参加艦艇で、2隻はロシアを牽制する目的で一時的に分派されボスポラス海峡を通過し(モントルー条約で空母は通れない)、黒海に入ってウクライナのオデッサに寄港した後に、ロシアが占領し実効支配しているクリミア半島付近で行動中でした。
【関連】英空母機動部隊、極東に向けて遠征開始(2021年5月23日)
これは今年の春にロシア軍がウクライナ国境に大戦力を集結させて開戦の危機を煽っていた挑発行為への対抗策で(現在は国境線の戦力は撤収済み)、本来はCSG21の行動計画には無かった黒海での対ロシア牽制作戦が急きょ組み込まれたものです。
また当初はイギリス海軍の護衛艦艇2隻を派遣する方針でしたが、直前になって1隻はオランダ艦と入れ替えになっています。これは2014年にウクライナ東部で起きたマレーシア航空17便撃墜事件(親ロシア武装勢力の地対空ミサイルによる犯行とされる)での犠牲者にオランダ人が多いことが関係しているのかもしれません。
CSG21の作戦計画とは別に行動していたアメリカ海軍の駆逐艦「ラブーン」も先行して黒海に入っており、米英蘭の3隻の軍艦が黒海でのロシア牽制作戦を実施中でした。その最中にロシア軍は我慢がならなかったのか、これまで過去にも行ってきた攻撃機による接近飛行での威嚇だけでは済ませず、大胆にも警告爆撃という非常に強い行動を示してきたのです。
なおイギリス当局はロシア側から警告射撃を受けた事実を否定しています。イギリス側はクリミア半島をロシア領と認めておらずウクライナ領扱いした上で「ウクライナの領海を無害通航した(つまり領海内に入った事実は認めている)」と述べています。そしてロシア軍は実弾演習していただけで英駆逐艦への警告射撃も警告爆撃も無かったという見解を提示しました。
これは射撃と爆撃はあったが、英艦への警告とは認められていないという意味になります。
※)英語では船のことを女性に例えます。
仮にロシア側の主張が正しい場合でも、領海内であろうと無害通航権があるので、英駆逐艦が敵対行動をしておらず単純に領海に入っただけであるならば、ロシア側の警告射撃および警告爆撃は国連海洋法条約では認められない行為です。
英空母打撃群CSG21の黒海での対ロシア牽制作戦は、ロシアの過剰な反応により緊張状態をもたらすことになりました。
・ロシア軍広報TVズヴェズダより、黒海を航行中の英駆逐艦ディフェンダーをSu-30戦闘機から撮影した映像。
・無人機から撮影された映像。英駆逐艦ディフェンダーを追い掛けるFSBの巡視船と、接近飛行を行うSu-30戦闘機とSu-24攻撃機らしき姿が見える。
・射撃と爆撃の映像は6月23日時点ではまだ公開されていない。
・6月24日射撃映像公開:ロシアが警告射撃の映像を公開。遠すぎて英駆逐艦は気付かず
・爆撃の映像は現時点ではまだ公開されていない。