岸田新総裁は、初のYouTubeを使いこなす総理大臣になるか
自民党の岸田文雄新総裁就任にともない、早くも様々な人事に関する報道が飛び交っています。
1つポイントとして注目されているのは、菅総理のもと推進されてきたデジタル化が岸田総裁のもとで、加速するのかどうかでしょう。
個人としてのSNS活用という意味では、対立候補であった河野太郎大臣に比較すると、フォロワー数などや話題性で見劣りする印象もあった岸田新総裁ではありますが、実は複数のSNSを柔軟に活用されています。
参考:岸田・高市・河野 総裁選3候補がSNS発信を本格化 フォロワー増 その戦略は
特に今回の総裁選における岸田新総裁のSNS活用で印象深かったのは、ツイッターで「#岸田BOX」というハッシュタグで質問を募集するなど、単純にSNSで発信するだけでなく、双方向のコミュニケーションに取り組んでいた姿勢です。
特に印象的だったのは、総裁選の最中に、まるでユーチューバーのようにYouTubeやInstagramのライブ配信で質問に回答していたことでしょう。
「国民の声を聞く」という姿勢を、文字通り体現する取り組みだったと言えます。
実は、これまで日本の歴代の総理大臣で、こういった形で個人でYouTubeチャンネルを積極的に活用していた方はいませんでした。
岸田総裁が、今後もこうして個人のYouTubeチャンネル活用を継続するようであれば、初の総理大臣ユーチューバーになる可能性があるとも言えるのです。
過去政権のYouTube活用は組織単位
もちろん、YouTubeは国内でも月間利用者数が6500万を超えると言われる重要な動画配信プラットフォームですので、安倍政権や菅政権でもYouTubeは活用されています。
ただ、過去の政権下では基本的には首相官邸のYouTubeチャンネルからの記者会見などのオフィシャルな発信が基本でした。
安倍前総理は、ツイッターやFacebookは個人としての投稿は現在も積極的に続けていますが、YouTubeチャンネルは2012年の総裁選前に開設されて、10個ほどの動画がアップされた後に放置されているものが見つかる程度。
菅総理も2012年に衆議院議員としてのYouTubeチャンネルを開設しているようですが、6年前の内閣官房長官としての総決起大会の動画を最後に更新を停止。
その後、昨年の自民党総裁選挙の際に専用のYouTubeチャンネルを開設していますが、こちらも13本をほどの動画をアップ後、総裁選挙出陣式の動画を最後に更新を停止しています。
おそらくは安倍前総理にしても菅総理にしても、首相官邸や自民党の公式なYouTubeチャンネルがあるので、個人のYouTubeチャンネルを運用する必要性を感じなかったということでしょう。
岸田新総裁はこの1年積極的にYouTubeを活用
そういう意味では岸田新総裁も、過去の総理同様に、総理大臣就任後、現在の個人のYouTubeチャンネルは更新を停止し、首相官邸のYouTubeチャンネルに完全移行する可能性はあります。
現時点で、岸田新総裁のYouTubeチャンネルはチャンネル登録者数が8700人ほどで、首相官邸が12万人を超えていることを考えると、効率だけを考えればその選択は十分あり得るでしょう。
対立候補だった河野大臣の動画は100万再生を超えている動画もありますが、岸田新総裁の動画は最高でも2.5万再生ですから、必ずしも岸田新総裁のYouTubeチャンネルはまだ大成功事例というわけではありません。
ただ、興味深いのは岸田新総裁が、2011年にYouTubeチャンネルを開設してから、特にこの1年間は精力的に複数の動画をアップし続けている点です。
YouTubeチャンネルの購読者数で言えば、対立候補だった河野大臣の方が19万人を超えていますから圧倒的な差をつけられている現状ですが、動画の本数は10倍近くあげているという力の入れよう。
特に印象的なのは、自らの講演や配信動画だけでなく、支援者の応援動画を配信してみたり、「好きな漫画は何ですか?」という質問への回答だけ抜き出してユーチューバーばりの字幕をつけてみたりと多様な試行錯誤をされている点。
当然こうした企画や編集はスタッフの方々が実施しているのでしょうが、岸田新総裁のYouTube活用に対する姿勢が柔軟であることがよく伝わってくる例だと思います。
岸田新総裁のメディア対応のシンボルになるかも
安倍前総理や菅総理は、メディアの自由質問が嫌いなことが有名で、追加の質問が許されない上に、予定のない質問をされると回答しなかったり、場合によっては激高することがあり、海外のメディアからすると、民主主義大国の首脳としてあり得ないと指摘される状況でした。
参考:菅首相の会見、アドリブも鋭い質問も大歓迎な米仏の大統領とこんなに違う
岸田新総裁が、YouTubeのライブ配信同様に、様々なメディアの質問に柔軟に対応していくのかどうかは、岸田政権が従来の政権から変わったと印象づける上で非常に重要な要素になると考えられます。
また、今のところ岸田新総裁は、小泉純一郎元総理などにくらべると、テレビ映えするような短いセンテンスで分かりやすく伝えるのが得意なタイプには見えませんが、YouTubeの動画を見ている限り「聞く力」を前面に活かして言葉を尽くして真摯に説明する姿勢は好感を持たれる可能性が高いように思います。
ある意味、テレビの報道で一部発言だけを切り取られたり、テレビのニュースで取り上げられにくいメッセージを届けるためには、YouTubeのような尺を気にせず喋りたいことを喋れるツールは向いていると考えられます。
岸田新総裁が、今のYouTubeチャンネルの双方向の雰囲気のまま、総理大臣になってもYouTubeなどのSNSの活用を続けるのかどうかは、若い世代の政治への興味も変える可能性を秘めているかも知れません。
岸田政権が「聞く力」を活かしたYouTube活用を拡げていくのかどうか、注目していきたいと思います。