【ブラック部活をどうするか】部活大好きな先生に、何を伝えるべきか?
部活はやるも、やらないも自由。何時間やるかも学校で決められる
前回の記事では、”ブラック部活”と言われる中学、高校等での過熱化した部活動について、生徒数も教員数も減少している時代に、数を減らすことが大事ではないか、という話をした。要するに、やりたくない教師を駆り出さないと運営できないほど、肥大化しているのが問題のひとつである。
前回の記事:【ブラック部活をどうするか】”やりたい人だけがやる”とはできないのか?
(※)一部の小学校でも部活問題はあるし、深刻である。
(※)もちろん、数が減っても、残った部活が過酷な練習等を課すようでは、生徒にとっても好ましくない。部活の総時間数をどうするかも重要な論点である。これに関連する話も今日はしたい。
少し確認になるが、ある部活を設置するかどうか、それは、国や教育委員会が特段決めているわけではない。たとえば、どの中学校でも数学や社会はやらないといけない。学習指導要領にそう書かれていて、授業時数といって、年間何コマ以上はやりなさいね、と決まっている。しかし、部活動はそういう枠組みの外、専門用語で言うと、教育課程外なので、各学校はやってもやらなくても、自由に決めることができる。
また、先ほどの例の数学や社会とちがって、何時間くらい練習をするのか、土日もつぶすほどやるのかどうかなども、各学校判断である。時数は決まっていないのだ。
なので、最終的には校長の責任で、ある部をやめるなり、休止にするなりは決めてしまえばよい。また、週4日だけにしようとか、土日は休もうよ、なども学校ごとに決められる。
だが、、、これらが簡単にできるなら、誰も部活問題で悩んでいない。"ブラック”というラベルを貼られることもなかっただろう。なぜ、自由なのに各学校は決められないのか、自分で規制できないのか?
部活大好きな先生(BDK)の意識と行動を変えることはできるか?
その答えのひとつは、部活改革、廃部・休部の提案、練習量の規制をしようとすると、校長にとっては、身内の職員室のなかから強い反対が来るからだ。どの学校にも、”部活大好きな教員(略してBDK)”はいるものだ。
たとえば、平気で「私はサッカーをやりたいから、中学校教師になった」と言う人も多い。ほんとは社会科で採用されたはずなのだが・・・。こういうBDKは、何か改革しようとすると、
●部活は子どもたちの成長に大きな効果があるので、しっかりやる必要がある。
●生徒や保護者からの期待もある。
●他校ではもっと練習している。
などともっともらしい理由を並べて反対する。
また、いま校長となっている人は、1980年代等に非行や生徒の問題行動が深刻だった時代を経験している(国の統計でも、今よりも、よほど問題件数が多かったことが確認できる)。このとき、部活を通じて、生徒指導をしっかりしてきたという成功体験をもつ人も多い。つまり、校長の中にも、もともとBDKだったという人も多く、ついつい、部活の効果ばかり強調してしまい、部活を見直そうという気運になりにくい。
あるいは、こういう熱心な先生は、全国大会入賞などの実績をつくっていて、校長は強く言えない、という声もよく聞く。実際、その学校の評判を背負っている部分もあるからだ。
こうした事情もあって、前回の記事で紹介したように、いまの部活のあり方にギモンを感じている教員もいるのだが、見直そうという会話すら、職員室では十分できていない学校もある。
また、部活動改革によって、職員室でBDKとそうでない教員との間のチームワークや協力関係にヒビが入るのも考えものだ。もちろん、ある程度の対立や議論は必要であろう。しかし、全然わかり合えっこないと、ケンカ別れのままとなるのも、お互いにとって不幸ではないか?
では、どうするか?BDKの先生たちと、多少でも合意できることはないものか?あなたが、校長や教頭の立場であろうと、同僚であろうと、保護者等であろうと、次の5点をよく共有していくことを提案する。
(1)一生懸命に頑張ってくれるのは有り難いけれど、あなたの体が心配。
BDKや校長のなかには、こう言う人が多い。「長時間労働になっても、生徒のために前向きに一生懸命であれば、いいでしょう?何が問題なのですか?」。
これへの答えはシンプルである。「いくら前向きでも、疲労がたまると、倒れるときは倒れますよ」。実際、若い教員や部活熱心な保健体育の教師らが多数過労死している。
(2)労働基準法は守ろう。“赤信号みんなで渡れば怖くない”ではいけない。
労基法第35条では、4週のうち4日休みを取りましょうね、となっている。これは、企業等はもちろん、行政や学校にも適用される。土日も部活漬けという教員は、これを守れていないのだ。
ベネッセの学習指導基本調査(2010年)によると、中学校の運動部の顧問では、約6割が月5日以上土日出勤している(≒4休取れていない可能性大)。法令すら遵守できない状態では、学校教育の一環とは言えまい。
(3)生徒の怪我をするリスクを高める。
スポーツ参加時間が長ければ長いほど、外傷、障害の発生率が高く、週16時間以上の場合、ないし“年齢×1時間”より多い場合は、より発生率が高いとの研究が複数ある(スポーツ庁、運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議、2017年12月18日での報告)。ちなみに、これは体育の時間なども含めての時間だ。
BDKの熱血さで生徒の将来を潰してはいけない。
(4)あなただけが、その子の人生に大きな影響を与えるべきか?
ある国の文書には、こんな一節がある。
「学校という場において子供が成長していく上で,教員に加えて,多様な価値観や経験を持った大人と接したり,議論したりすることは,より厚みのある経験を積むことができ,本当の意味での『生きる力』を定着させることにつながる」。
(チーム学校に関する中教審答申)
子どもたちが部活以外の様々な経験をしたり、多様な大人と接したりする時間を、わたしたちは奪ってはいけない。
(5)限れた時間を授業の質を高めることや自己研鑽に使おう。
OECDの調査(TALIS)や愛知教育大学等の調査によると、授業準備よりも部活動指導時間のほうが長い教員も一定数おり、かつ、多くの教員は「授業準備をする時間が足りない」、「仕事に追われて生活にゆとりがない」と述べている。
教員は授業でこそ勝負するもの。過熱した部活動のために、授業準備や自己研鑽が犠牲になっていないか、個人としても、学校としても問い直す必要がある。
また、BDKのなかには、「部活が生徒指導上やんちゃな子を救っている」と主張する人も多い。しかし、これも次の点を問うて考えていく必要がある。
●その子が部活をやめたらどうするんですか?
●生徒指導上問題と言いますが、その子は実際は授業内容についていけないために、フラストレーションが溜まっているのではないですか?つまり、必要なのは生徒指導ではなく、学習支援ではないですか?
●いずれにしても、その子の学校での時間の多くは授業時間です。まずは授業準備をしっかりできる体制ができてから、部活もやるならやる、という順番ではないですか?
以上の5点を確認しながら、BDKを巻き込んで、その学校でどの部活を残していくべきか(縮小が必要ではないか)、また、練習量などの過熱をどう防ぐのか(休養日の設定や1週間あたりの時間数を決めるなど)の議論を進めていくべきだ。
前回も述べたが、4月になってからでは遅い。この1月、2月が勝負である。